山田尚子監督、モットーは「セオリーを作らない」『聲の形』ヒロインは“天使じゃない”

山田尚子監督、モットーは「セオリーを作らない」『聲の形』ヒロインは“天使じゃない”

映画『聲の形』の監督を務める山田尚子(C)大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会

 大今良時によるベストセラーコミックを、京都アニメーションによって映画化した映画『聲の形』。少年少女たちの心を真正面から描く作品に、監督を担った山田尚子は「覚悟しかなかった。腹をくくりました」と、並々ならぬ意気込みを持って挑んだという。アニメーション界の新鋭にして青春劇の名手でもある山田監督は、どのように少年少女たちに向き合ったのか。

 本作は、かつてガキ大将だった将也と、聴覚障害を持つ少女・硝子が、様々な出会いや経験を通して成長していく青春ストーリー。山田監督は「大今先生のむき出しの思いが詰まった作品なので、こっちもむき出しにならないとと思って。嘘をついてはダメだと思いました。自分の小学校や中学校の時の痛い気持ちや、寂しい気持ち、楽しい気持ちもですが、いろんなものを引き出されていくようで。改めてすごい作品だと思いました」と原作に敬意を表し、体当たりでぶつかった。

 全7巻の原作を1本の映画としてまとめ上げた手腕に驚くが、山田監督は「将也の人となりに納得してほしいと思っていました。観てくださる方が、将也が反面教師になって、自分のことも嫌いになってしまったらイヤだなと。将也に寄り添うということを、すごく大事にしました」と、ガキ大将だった将也の存在を軸に描いていったという。

 『映画 けいおん!』や『たまこラブストーリー』など、魅力的な女の子を描くことに定評のある山田監督。障害があり、愛想笑いが癖になってしまっている少女・硝子をどのように表現したいと思ったのだろうか。「原作者の大今先生から、“硝子は天使じゃないから”という言葉をいただいて。それが突破口になりました。硝子に対して変な気遣いはしたくないなと思い、普通の一人の女の子として冷静に見つめるようにしていました」とあくまで普通の女の子として対峙し、声を演じた早見沙織も共通認識を持って、硝子を作り上げていたという。

 さらに「障害があることを気に病んでいるからか、周囲を気にしてしまうところもあるんですが、硝子がコアに持っている特性って、ものすごくダイナミックだと思ったんです。やることもド派手だし、すごく本能に忠実な子」と分析。だからこそ「あまり上品には描かないようにしていました」と演出で気をつけたことを告白する。「手や脇も開いていて良いと思ったし、行動もとにかく大きい。魚にパンをあげる時のちぎり方も大きい(笑)!生活音も注意して聞いていただくと、とても大きいんですよ。匂いも感じられるような、生っぽい感じを大事にしていました」。

 背景の美しさも印象的だ。「この作品では、“世界が美しくあること”というのは特に意識しました。みんなとても真剣に悩んでいるし、明日の一歩を踏み出すのすら辛そうな子たちばかり。でもすごく一生懸命に生きている。そんな彼らの悩みを肯定したいと思ったし、たくさん悩みがあっても、世の中には青空があるし、花も咲く。彼らを包む世界は、美しく優しくあってほしいと思ったんです」。

 キャラクターの表情や動きの細部にまでこだわり、本作で映し出すべき世界観も考え抜いた。アニメーション界の新鋭と言われる山田監督だが、「毎度がむしゃらで、いつも体当たり。めちゃくちゃ不器用なんですよ」と笑う。「セオリーを作らない」というのがモットーで、作品やキャラクターに向き合う時に一環しているのは、「愛情」。その一方で、「観ている方がどういう気持ちになるかを常に考える」という客観性も忘れない。

 作品を語る温かな笑顔からも、どれだけの愛情を傾けてきたかが感じられる。「人や景色を見る時は、どういう色をしているとどんな気持ちになるのかなど、色や音、形に対しての研究は常にしています」という日常から育んできたセンスはもちろん、作品への熱や温度が伝わるからこそ、山田監督の作品は人々の心を鷲掴みにするのだろう。(取材・文:成田おり枝)

 映画『聲の形』は9月17日より公開。

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