冲方丁、『攻殻機動隊ARISE』は“白雪姫とクサったオッサン達” 秘められたコンセプト

冲方丁、『攻殻機動隊ARISE』は“白雪姫とクサったオッサン達” 秘められたコンセプト

『攻殻機動隊ARISE』冲方丁インタビュー クランクイン!

 攻殻機動隊“公安9課”の前日譚を描く、第4の『攻殻機動隊』として2013年に新シリーズが始動した『攻殻機動隊ARISE』。同年6月から2014年9月まで全4部作で劇場上映され、2015年には完全新作として『攻殻機動隊 新劇場版』を公開した。同シリーズのシリーズ構成・脚本を手掛けたのが人気小説家の冲方丁。「どうすれば抜け出せるか、壊せるか」。圧倒的な世界観と人気を誇る作品だからこそ、新シリーズでは何を描くのか…。2つの課題があったという秘められたコンセプトと、今年公開され注目を集めたハリウッド実写版『攻殻機動隊』について、話しを聞いた。

 『攻殻機動隊』は、士郎正宗による同名漫画が原作。近未来の世界を舞台に全身義体(サイボーグ)の主人公・草薙素子率いる公安9課の個性的な面々が、様々なサイバー犯罪に立ち向かう姿を描くSF作品。これまで押井守監督の劇場版『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、『イノセンス』、神山健治監督の『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』(以下S.A.C.)があり、『攻殻機動隊ARISE』はこれらの前日譚として“公安9課”結成前夜を描く。
 
 冲方は当初、同シリーズへの参加について「恩返しの気持ちが強かった」と語る。「僕にとって、すごく勉強させてもらったコンテンツでしたし、その勉強したことを活かしつつ、さらに勉強する。課題は次世代のクリエイターとお客さんに“橋渡しをする”ということでした」。“橋渡し”というのは、「攻殻機動隊を知らない人たちに、ARISEを通してS.A.C.やイノセンスを知ってもらう。攻殻機動隊を知らずにクリエイターになった人たちには、“ARISEでこれだけ自由度を広げたのだから、あなたたちも今後好きに作ってね”という2つの意味での橋渡しです」と、本作に込められた命題を明かした。
 
 橋渡しという命題はあるものの一筋縄ではいかないのがこの『攻殻機動隊』シリーズだ。「守らなきゃいけないものもあるのですが、脱却しなければいけないこともある。そこをうまくできるかどうか…。キャラクターの特徴を活かすために、何を付与するのか」。チームで考えた末に、決まったコンセプトは「“共感可能な未熟さ”でした。それをあらゆるキャラクターに詰め込んでいく。とくに素子です」。

 「最終的な悩みが、自分のことしかないとなると、物語が生まれなくなります。素子があまりにも万能だと彼女が登場した時点で全てが解決してしまう。ヘタすると『予め解決しておいたわ』と言ってしまいかねない(笑)そうではなく、未熟な素子を描くことで、完璧な姿になったときに、“かつての素子っぽい”というイメージで第2の素子的キャラクターを作りやすくなるんです」。悩みからの脱却ポイントは「キャラクターを感情移入しやすいようにすること」だったという。「可笑い愛げのある素子、かわいそうなバトー、カッコいい荒巻でいこうと。それが1番感情移入しやすい(笑)」。コンセプトが決まると、あとはスムーズだったと当時を懐かしむように、笑いながら振り返る。
 
 「素子は、欠点が多いことを指摘される等身大な人、バトーはやることがなくてクサってるかわいそうな男。軍隊も何も信じられなくなって一匹狼で野良犬みたくなっている人。荒巻は、初志貫徹で日本を良くするんだ!という思いで意固地になっているカッコいい人。あとのメンバーは、素子を中心とした“お城を抜け出してきた白雪姫と7人のクサったおっさんたち”という構造にして、そのクサったオッサンたちが更生していく物語にしようと(笑)。コンセプトが定まると、キャラクターも生き生きしてきて書きやすくなってくるんです」。
 
 楽しみつつも、新シリーズということで悩むことも多かったであろう 『攻殻機動隊ARISE』。そんな冲方に、あのハリウッド実写版『攻殻機動隊』はどのように映ったのだろうか。「押井(守)さんの作品へのオマージュがすごかったと思いました。ビジュアルの混ざり具合など、(攻殻機動隊を)知っている側からすると、異次元につれて行かれたような感覚で面白かったです」と感想を述べる。加えて「リスペクトの仕方が柔軟になってきた」とも。「今後、お互いの作品を制作することが当たり前になってきたときは、もっと遠慮がなくなるんだろうなとも思いました。相互理解をする相手が広がっていく気がしましたので、刺激を受けます」と話す冲方の目は、好奇心で溢れており今後の日本とハリウッドの展開に期待が持てそうだ。(取材・文・写真:ほりかごさおり)
 
 『攻殻機動隊ARISE/新劇場版』ブルーレイボックスは12月22日発売。価格は2万円(税別)。

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