『みかん・絵日記』の安孫子三和が描く、『バースデーカード』もうひとつの物語

『みかん・絵日記』の安孫子三和が描く、『バースデーカード』もうひとつの物語

『バースデーカード』(安孫子三和/白泉社)

 宮崎あおい(※崎は正しくは「たちさき」)と橋本愛が母娘役を演じることで話題の映画『バースデーカード』は、10歳のときに癌で亡くなった母親から毎年届くバースデーカードをめぐる物語。宮崎あおいは母・芳恵役を、橋本愛は娘・紀子の17歳以降を演じる。監督・吉田康弘の執筆した小説版がすでに発売中だが、このたび新たに、コミックス版『バースデーカード』(安孫子三和/白泉社)が発売された。

 亡くなる直前に「成人するまで誕生日に手紙を贈り続ける」と約束してくれた母から、毎年届く手紙。そこには母娘が大好きだったクイズであったり、友達と仲良くなるためのマフィンのつくり方であったり、男の子とキスをするための心得であったり、本来ならば寄り添って伝えたかっただろう想いが綴られている。娘もまた、直接聞きたかったはずの言葉を、今の自分に語りかけられる言葉として、年に一度、大切に耳を傾け続ける。

 だが手紙の存在は、楽しみでもあり不安でもある。なぜならいずれ、終わりが来るものなのだから。手紙の存在が乗り越えさせてくれた母の喪失を、紀子は20歳になったとき、ふたたび味わわなくてはならないのだ。さらに紀子は、成長して自我が芽生えていくにつれ、もういないはずの母に人生を誘導されている気がしてしまい、手紙を受け取ることにも抵抗を覚えはじめる。

 本作は、母娘の絆だけでなく、少女が親から自立するまでの過程を描いた成長物語でもあるのだ。

 コミカライズを手掛ける安孫子三和は、『みかん・絵日記』などで知られる人気マンガ家。柔らかくあたたかい描写のなかに、怒りも悲しみも、さみしさも切なさもすべて込め、そのうえで喜びと希望を表現する。そんな彼女の作風は、どこか本作の世界観に近い。

 たとえば劇中で宮アあおいが見せる、痛みも悲しみもすべてこらえ子供たちに向け続ける笑顔。たとえば橋本愛が表現する、いないはずの母に反抗しながら成長していく少女の心の揺れ。そして、それらを越えて体感する、亡き母と、現実を生きる彼女を支える人々からの深い愛。ただ悲しいだけの物語では終わらず、愛を抱きながら、悲しみを抱えながら、それでも前に進む人々の強さと希望を描き出した本作を、マンガという形で表現するのにこれ以上ぴったりな人材はいないだろう。

 コミック版では、映画では描かれなかった手紙や、映画とは少し異なるエピソードが挿入される。そのひとつが、猫のノンノンの存在だ。ノンノンは、安孫子三和ならではの優しいアクセントとなって物語を彩る。ラストに辿りついた読者は落涙必至の、あたたかい絆の物語。ぜひともコミックスと映画の両方で、その世界観を味わってみてほしい。

文=立花もも

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