不妊治療のリアルを描く漫画に「自分のことかと思った」、人間関係のストレスに悩む女性たち

不妊治療のリアルを描く漫画に「自分のことかと思った」、人間関係のストレスに悩む女性たち

『妊活夫婦』(C)駒井千紘/comico

不妊治療のリアルをマジメかつ絶妙なギャグを織り交ぜて描いたウェブ漫画『妊活夫婦』が、共感と反響を呼んでいる。主人公は働きながら不妊治療を受けている栄子・32歳。精神的にも肉体的にも経済的にも、ただでさえ負担が大きいのが不妊治療というもの。さらには非協力的な夫や、義実家からのプレッシャー、友人の何気ない一言、職場の無理解といった人間関係のストレスも。自身も妊活経験のある著者の駒井千紘さんに本作で伝えたかったことを聞いた。

■「いつ妊娠するの?」妊活中の気持ちをえぐる周囲の言葉

──妊活にまつわる「あるある」が詰まった本作に「自分のことを描いているかと思った」と多くの共感の声が寄せられています。

【駒井千紘さん】私も約3年の妊活経験があるのですが、本作はエッセイではなくフィクションです。というのも、本作を描くにあたって妊活ブログやSNSを読んだところ、苦しんでいる方がとても多いことを知ったんですね。私はフリーランスで仕事を調整しながら通院できたため、精神的なストレスは比較的軽かったと思います。

──会社勤めしながらの妊活は、職場の理解も必要ですが、これがなかなか難しい。

【駒井さん】そうみたいです。実際、不妊治療のなんたるかを知らない男性上司から「で、いつ妊娠するの?」と言われた方もいらっしゃいました。主人公の栄子が、残業を断るために「歯医者に行く」と偽るエピソードは、「不妊治療していることを職場に知られて、不要なプレッシャーを受けた」という、ある当事者の方の経験を参考にさせていただきました。

──職場に遠慮したことで、「2人目不妊」になってしまったサブキャラも登場しますね。

【駒井さん】不妊治療はお金がかかるので、仕事を辞めるわけにはいかないんですよね。また治療に時間をかけるため、キャリアアップを諦めざるを得なかったという方もいました。“女性活躍”をうたっていながら、現代女性にとって妊活のハードルはどんどん高くなっているんです。

■妊活の邪魔をする「男のプライド」、変わりゆく社会で“もがく”夫たち

──妊活の認識の違いで、夫婦の溝が深まってしまうエピソードもリアルです。

【駒井さん】妊活の結果、離婚に至ってしまったというご夫婦もいらっしゃいました。不妊の原因の約半数は男性側にも原因があるというエビデンスもだいぶ知られるようになりましたが、もう1つのハードルとなっているのが日本特有の「男のプライド」なんですよね。

──自分が原因だと認めたくないから、通院を拒むというのも「あるある」ですね。

【駒井さん】ちなみに我が家も夫の男性不妊が原因でしたが、夫はカナダ人で日本よりもジェンダーバイアスが少ない文化で育ったため、積極的に妊活に参加してくれました。ただ現代の日本の妊活事情をいろいろ調べていると、「男もつらいんだな」と感じることがたくさんあったんですよね。

──本作には、夫が職場で「夜が下手なんじゃないか」と上司にイジられるシーンも。

【駒井さん】どうも高齢の方には、こういったデリカシーのない発言をする方が少なからずいるみたいで(苦笑)。それでも男は弱音を吐いちゃいけないとか、しっかり稼いで家庭を守るものだとか言われて育てられてきました。そのうえ高齢者の価値観が変わらないまま、世間からは“イクメン”を要求されます。変化というよりは、ただ男性のタスクが増えている印象もあります。

──夫婦が協力して妊活を乗り越えるためには、どうすればいいのでしょうか。

【駒井さん】最終的にはコミュニケーションだと思います。一般的に、女性は「言葉にしなくてもわかってもらえるはず」と相手に共感を求めてしまいがちですが、やはり言葉を尽くさなければ伝わらないことはありますからね。また、妻が「私だけつらい思いをしてる」と思い込んでいると、ただ夫を責めるばかりになってしまい、妊活もうまく進められません。本作に夫のエピソードも盛り込んだのは、現代男性の事情を知ってもらうことで、夫婦が対立することなく妊活に臨んでほしいという思いがあったからなんです。

■「子どもがいるのは当たり前」義母からのプレッシャー

──義母からは「子供を産んでやっと一人前」と言われるエピソードがあります。

【駒井さん】どうもこういった人生訓みたいな発言で、無自覚に人を傷つけている高齢者の方っていますよね(苦笑)。これはもう話半分でスルーすると言いますか、「真に受けないスイッチ」を心に持っておいたほうが精神衛生上いいと思います。妊活でもなんでもストレスを溜めるのが一番よくないですから。

──妊活で浮き彫りになる世代や社会的立場、性別の違いによる人間関係の難しさを乗り越えるには、どうすればいいでしょうか。

【駒井さん】私が本作に込めたかったサブテーマは「他者理解」です。そのために主人公だけでなく、さまざまな立場の人が直面する「妊活」というものを描いてみました。妊活当事者ではない人にも妊活さの大変さを知ってもらいたいという思いも、そこにはもちろんあります。

──ポップな雰囲気でコミカルな作風も面白いです。妊活を知らない方にも読んでいただきたいですね。

【駒井さん】たとえば若くして結婚・出産した方にも、晩婚の末に不妊治療をする方にも、それぞれ苦悩があります。そこは対立せずに、お互いの生き方を尊重すべきです。「自分だけがつらい」と思い込むと、つらさもどんどん増してしまいますが、「誰もが何か、つらさを抱えている」といった他者を理解する想像力を持つことは、結果的に自分の心を解放することにもつながると思うんです。

──妊活中には“マインドセット”も重要だということですね。

【駒井さん】私の場合は、たまたま治療環境に恵まれていたおかげで、「妊娠しなかったら夫婦2人で生きていこう」と、自分自身を追い詰めずに済みました。ですから、もしもSNSやブログに綴られたたくさんの妊活のリアルな痛みを知らなかったら、私も無自覚に誰かを傷つけてしまっていたかもしれません。そんな自分への戒めも込めて、「違う立場の他者を理解すること」が、ほんのりでも本作から伝わればいいなと願っています。

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