【テレビの開拓者たち / 郷田ほづみ】音響監督も務める人気声優が語る“日本アニメーションの未来”

【テレビの開拓者たち / 郷田ほづみ】音響監督も務める人気声優が語る“日本アニメーションの未来”

ごうだ・ほづみ=1957年8月22日生まれ、東京都出身

名作と名高いアニメ「装甲騎兵ボトムズ」(1983年)の主人公、キリコ・キュービー役をはじめ、1980年代から声優として活動、また、俳優・タレント、舞台演出家としても知られる郷田ほづみ氏。2000年代以降、アニメ作品の音響監督も務めるようになった彼に、音響監督という仕事の楽しさ・難しさ、そして、現在手掛けている「伊藤潤二『コレクション』」(TOKYO MXほか)の制作裏話や作品の魅力を語ってもらった。

■ 「アニメのことも分かっていて、演出もできるんだから、アニメのディレクターをやってみないか」と

──音響監督とは、アフレコ現場における声優の演技から、劇中に流れる音楽や効果音まで、作品の“音”の全てを演出するお仕事。郷田さんは、どのようなきっかけで音響監督として活動を始められることになったのでしょうか。

「僕はもともと声優の仕事からスタートしているんですが、その後、怪物ランド(※1983年に結成した、平光琢也、赤星昇一郎、郷田ほづみによるコントユニット)というグループで活動したりして、いったんアニメの仕事から離れた時期があったんですね。その後、怪物ランドの活動が一段落ついて、俳優として活動を始めて、30代になってからは舞台の演出もやるようになって。もちろん声優の仕事も再開していたんですが、そのころ、あるプロデューサーから『アニメのことも分かっていて、演出もできるんだから、アニメのディレクターをやってみないか』と声をかけてきてくれて。自分でもどうなるか分からなかったんですが、非常に興味はあったので、二つ返事でやらせていただくことになったんです」

──実際に始められて、いかがでしたか?

「舞台演出の場合は、例えば1カ月先の本番に向けて、リハーサルを重ねながら役者と一緒に作り上げていくものなので、リハーサルをやったその日に答えが出なくても構わないんですよ。でも、アニメのアフレコを演出する場合は、もちろんリハーサルはしますが、基本的に、リハ直後に本番の収録が始まりますから、それぞれの声優さんの一番いいところを出すためにはどんな芝居がベストなのか、こちらが瞬間的に判断して指示を出さなければいけない。音響監督というのは、何よりも“瞬発力”が求められる仕事なんです。ですから最初のころは、その辺りをすごく悩みながらやってましたね。でも一方で、『これは自分に向いているかもしれない』とも思ったんですよね」

──どの辺りが「向いている」と思われたんでしょうか。

「同じセリフでも、言い方一つで全然聞こえ方が違うし、そこで表れる感情も違ってくる。それまで、自分が演者として携わるときは、その辺りをどういうニュアンスで演じるのがいいのか探るのが楽しくてずっとやってきたんですが、音響監督という立場になると、いわば、それを自分の代わりに声優さんにやってもらうわけで、声優さんたちがその作業をしているところを俯瞰で見られるのも、非常に楽しいなと。こちらが味付けをすることで、セリフの聞こえ方や感情の違いが出せるので、そこを追求していくのが面白いんですよ。自分も声優をやっている分、演者のみなさんの気持ちがある程度分かるから、いろいろと遠慮なくディレクションできる、というメリットもあるかもしれませんね。もちろん声優さんたちにも、どんどん指示してほしいというタイプもいれば、あまり細かく演出をつけないほうがいいタイプの方もいるので、常々言い方には気を遣っているんですけれども」

■ その作品の世界におけるリアリズムって何なんだろう、ということは常に意識しています

──音響監督として苦労されている点、音響監督という仕事の難しさは?

「テレビシリーズの場合、1クール13話で使用する楽曲を最初に全て作曲家の方に発注するんですが、シナリオや絵コンテが数話分しかできていない状態で、全ての曲を発注しないといけない。最終回にはこういう曲が必要だろう、クライマックスではこんな曲があると盛り上がるんじゃないか、悲しい曲はこんなパターンがあった方がいいんじゃないか…と、リストアップして発注するんですね。そのときに、原作がある作品だったら分かりやすいけど、オリジナル作品の場合は、最終話までのシナリオや絵コンテが無い状態で考えていかないといけないので、その辺りが一番気を遣うし、エネルギーを注ぐところですね」

──では、音響監督のお仕事をする上で、最も大事にされていることは?

「一番はやっぱり“芝居”、声優さんの演技ですよね。アニメは、“絵”を演出する作画監督と、僕のような“音”を演出する音響監督がいて、それを総合的に見るのが監督、というのがスタッフワークの基本。ですから僕は、現場ではまず、監督の意向をなるべく具体的に反映できるよう、根本のイメージを役者さんに伝えるようにしています。

アニメというのは2次元の世界ですが、“リアリティー”というものはすごく大事なんですね。ただ、アニメにおけるリアリティーは、それぞれの作品によって違う。声優さんの芝居を日常レベルのリアリティーと一致させようとすると、かえって作品が面白くないものになってしまう気がするんですよ。だから、その作品の世界におけるリアリズムって何なんだろう、ということは常に意識していますね。そこを徹底的に考えることが、見ている人が作品世界に入ってこれるかどうかにつながるのかなと思います。また、それはやはり声優さんの技量にかかってくるところが非常に大きいので、逆に言えば、本当にいい声優…うまい・ヘタじゃなく、作品の世界観に合った芝居ができる声優の方たちに集まってもらえたら、音響監督は必要ないのかもしれません。そうなったら、僕はもう何もしなくてもいいんです(笑)」

──郷田さんが今、「いい声優」だと思う方はいらっしゃいますか?

「最近は、1日にいくつも現場を回るくらい活躍されている声優さんがたくさんいますけど、そういう方々は皆さん本当にすごいですよ。だからこそ忙しいんでしょうし。現場でいろいろな経験を積まれてきている分、自分が何を求められているのか、どういう風にやればいいのかを分かっているんですよね」

──ここ何年かで、声優人気もますます高まって、「声優になりたい」という若い世代も増えてきているようですが。

「声優って、専門職のように見られていますけど、“俳優”と何ら変わらない仕事だと僕は思っていて。若い人たちの中には、『俳優にはなれないけど、声優ならなれると思った』と言う人もたまにいるみたいですけど、それはおそらく間違いで。むしろ“俳優にはなれても、声優にはなれない”というくらい、声優は難しい仕事だと思うんです。僕は俳優の活動もしていますが、どんなに技術を磨いても、存在感で絶対に敵わない方々がいらっしゃるんですね。芝居の良し悪しよりも圧倒的な存在感で周りを凌駕してしまう、そんな俳優さんが、どんな時代にも必ずいる。ところが、声優の世界では、演じる人間の見た目の存在感というのは全く通用しないんです。“味”とか“キャラクター”とは別に、まずしっかりとしたテクニックや表現力が必要で、その上で、その人の人間的魅力も備わっていないといけない。『声優だったら簡単になれる』なんて思われたら、ちょっと違うと思うんですよね…あれ、何でこんな話をしてるんだろ(笑)」

■ 粗製乱造に陥らないように、しっかりと腰を据えて質の高いものを作っていきたい

──郷田さんは現在、「伊藤潤二『コレクション』」の音響監督を務めていらっしゃいますが、この作品の魅力は?

「そもそも伊藤潤二さんの漫画が、世界観が独特で、内容もバラエティーに富んでいて、とても魅力的じゃないですか。その原作の魅力を、声優さんの芝居も含めて、どう表現していこうかと考えながら作るのが楽しいですね。田頭(しのぶ)監督からは、『昭和の実写ドラマのような雰囲気にしたい』という要望があるので、そういったことも声優さんに伝えつつ、演出をつけています」

──双一役の三ツ矢雄二さんをはじめ、ベテランの声優さんも出演されています。

「そうですね、小山茉美さんにも出ていただきました。三ツ矢さんも小山さんも僕より先輩で、そういった方々との仕事は勉強になりますね。実は三ツ矢さんも音響監督をされていて。ですから、僕が声優として三ツ矢さんの現場に呼ばれることもあるし、今回のように僕がお願いして来ていただくこともあるし、現場によって立場が違う、という(笑)。そういうのもすごく楽しいですよね」

──この作品ならではの注目ポイントは?

「劇中の音楽ですね。今回の作品はオムニバス形式で、全26話あるんですけど、汎用する曲とは別に、それぞれのエピソードをイメージした楽曲を26曲作ってもらっているんです。本当に贅沢なんですが、そのテーマ曲はその回でしか使っていないんですよ。作曲家の方に、『ちょっとコミカルな感じで』とか、『今回はシリーズ終盤にかけてのイメージで』というふうに、細かくリクエストさせていただいているので、全部違った音作りになっているし、エピソードによって楽曲を流すタイミングも違っていて。僕自身、そういう音楽の作り方は初めてだったので、とても面白かったですね」

──ところで、日本では現在、1クールに50本近くのアニメーション作品が制作されているそうですが、我が国のアニメーション界の行く末について、何か思われるところはありますか?

「アニメーションって、本来は子供のものだったのが、完全に違う方向に行ってしまったというか。今や、日本を代表する文化的な産業にまで成長してしまいましたよね。きっと、この流れは止められないと思うんです。だからこそ、粗製乱造に陥らないように、しっかりと腰を据えて質の高いものを作っていきたいなと個人的には思いますね。ただまぁ、仕事が多いに越したことはないし(笑)、質と量の問題というのは、難しいところではあるんですけど」

──では最後に、郷田さんの今後の活動の展望をお聞かせください。

「ディレクターとしては、これからもアニメーションに関わっていきたいのはもちろんですが、海外の実写作品の吹き替えの演出はまだやったことがないので、そろそろ始めてみたいと思っています。僕自身、海外のドラマや映画も大好きなので。

また、僕は今、劇団もやっているんですが、今後はそっちの認知度も上げていきたいなと。神奈川県出身の役者が集まった劇団で、市民劇団みたいな意味合いもあるので、自分のライフワークの一つとして、地域に根差した活動を続けていきたいと思っています」(ザテレビジョン)

この記事の続きを読む

関連記事(外部サイト)