【劇場アニメレビュー】「面白かったけどもう終わり?」……巻島の過去を丁寧に描いた中編スピンオフ『弱虫ペダル SPARE BIKE』レビュー

【劇場アニメレビュー】「面白かったけどもう終わり?」……巻島の過去を丁寧に描いた中編スピンオフ『弱虫ペダル SPARE BIKE』レビュー

『弱虫ペダル SPARE BIKE』公式サイトより

 2008年より「週刊少年チャンピオン」で連載中、単行本46巻までが刊行され、15年には第39回講談社漫画賞・少年部門を受賞した渡辺航の人気マンガ『弱虫ペダル』。

 その内容は、千葉県立総北高校の1年生でヲタク少年・小野田坂道が、ひょんなことから自転車競技部に入部し、さまざまな試練を乗り越えながら才能を開花させ、仲間たちと苛酷なレースに臨んでいくというものだが、実質は主人公・坂道だけでなく総北高校自転車競技部の面々や、ライバル校の個性豊かな面々によって繰り広げられていく、熱くさわやかな青春スポーツ群衆劇として屹立している。

 13年10月〜14年6月(第1期)、14年10月〜15年3月(第2期)とTVアニメ化。また第1期の総集編『弱虫ペダル Re:RIDE』(14)と第2期総集編『弱虫ペダル GRANDE ROAD』(15)はイベント上映され、その後のエピソードを描いた『劇場版 弱虫ペダル』(15)も公開されている。

 それに遡ること12年からは毎年舞台公演も行われているほか(今年は9月30日〜10月2日までTOKYO DOME CITY HALLにて上演中)、14年には小説も出版され、16年夏には実写TVドラマ(BSスカパー!)も始まったばかり。そして17年1月には第3期TVアニメシリーズが開始予定となっている。

 そんな『弱虫ペダル』に登場する高校3年生の先輩たちの過去を描いたスピンオフマンガ『弱虫ペダル SPARE BIKE』が、12〜13年まで「週刊少年チャンピオン」にて、14年からは「別冊少年チャンピオン」にて連載中だが、その同名アニメ化作品が9月9日より2週間限定で特別上映されている(以上、発行元は全て秋田書店)。

 映画公開初日、池袋の劇場へ行くと、既に日中のチケットは完売で入れず、ならば余裕を持とうと日曜午後の回をネット予約したが、その時点で座席の4分の3は埋まっていた。

 さすがは弱ペダ・ファンの熱いこと。結局場内は満席となり、客層の9割以上は若い女性。その前の週に劇場で見た『黒子のバスケ ウインターカップ総集編〜影と光〜』の盛況ぶりも含めて、今のスポ根ものが男性ではなく女性ファンによって支えられている状況には、いくらイケメン・キャラがいっぱいとはいえ、やはりどこかしら不可思議なものを感じてしまう。

 さて、映画『弱虫ペダル SPARE BIKE』では、まず独自のダンシング走法で周囲を圧倒する総北高校の巻島裕介の新入生時代が描かれる。言葉尻に「ッショ」を付けるのを口癖に、なかなか周囲に溶け込めない性格ではあるものの、自転車に乗っているときだけは思い切り自由を体感できる彼が、自電車競技部に入るや、先輩たちからダンシング走法を笑われ、普通の走法に矯正されそうになるなどの困難をいかに乗り越えていくかが、第1章と第3章、2回に分けて描かれていく。

 正編『弱虫ペダル』でも人付き合い下手ではあるものの坂道に尊敬され、彼もまた坂道に期待と信頼を寄せている節がうかがえる「頂上の蜘蛛男(ピークスパイダー)」の異名を持つ名クライマー。そんな彼の新入生生活は、かくも不安気で自信なさげなものであったかと驚かされるものがあるが、このときの主将・寒咲の温かな目線と励まし、また同級生の金城、田所との友情の芽生えなどによって、彼は自転車に乗ったときの自由を取り戻していく。

 もうひとり、巻島のライバルでもある箱根学園の“山神”と謳われている東堂尽八。こちらは彼が自転車に目覚める中学時代が描かれる。オシャレで女の子からモテモテなナルシストでもある彼は、友人の糸川修作に誘われて自転車レースに参加し、その才能と歓びに目覚めるまでを描いていく。

 ママチャリでもロードバイクに負けない優れた走りのセンスを持つ天才肌の東堂だが、坊主頭が可愛い修作とのコンビネーションによってどこか微笑ましさを携えているのがいい。彼が常に頭にツけているカチューシャの謎が解き明かされるのもお楽しみである。

 とはいえ、今回は3つの章だてのうち2章が巻島のエピソードで、全体としてバランスが悪く、またこれを見る弱ペダ・ファンとしてはスピンオフさせてほしいキャラクターはまだまだ多数いることだろう。

 そう考えると、見ている間は十分楽しめても、エンドタイトルが流れ出すに至って「もう終わり?」みたいな不満を抱いてしまった者は私だけではないだろうと思われる。上映時間およそ60分というのも、どこか中途半端で(しかも入場料金1,500円)、いくらイベント上映の類いとはいえ、これではなあ……。

 その他、各章のブリッジおよびエピローグには「月刊少年チャンピオン」で不定期連載中『それいけアラキタくん』の箱根学園ヤンキー1年生アラキタのおばかなエピソードもゆる〜く披露され、どこかほっこりした気持ちになったところで映画が終わり、場内が明るくなるや、女性客たちの歓声が轟きわたった。

 その中で「面白かったけど、もう終わり?」と叫んだ乙女の声がはっきりと聞こえたのだが、それが観客の大半の感想なのではないかと思えてならなかったのが、実際はいかがなものだろうか。

 こういったテイストの中編スピンオフ新作が毎月1 本ほどのペースでお披露目されるのなら、逆にちょうどよいファン・サービスにもなりえると思うのだが、やはり来年のTV
アニメシリーズ第3期までの繋ぎでしかないのかな? と思うと正直もったいない。

 作画のクオリティも作品そのもののテンポ感も、今や役をきちんとつかみ得ている声優陣の好演など、見ている間の心地よさはこの上ないものがあるだけに、なおさらそう思ってしまうのだ。

 早く来年1月にならないかな……。(実はそう思わせるのが、製作サイドのねらいであったか?)
(文・増當竜也)

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