心の奥底に潜む“欲望”が人を“欲鬼”と変える 人間の本質を問うバトルアクション『欲鬼』レビュー

心の奥底に潜む“欲望”が人を“欲鬼”と変える 人間の本質を問うバトルアクション『欲鬼』レビュー

『欲鬼(2)』(講談社)

 25年ほど前から日本を中心に出現しだした“欲鬼”──それは自身の“欲望”を顕現化させ、超常的な力でもってして暴虐の限りを尽くす鬼である。しかし元を正せばその鬼の正体は“人間”。冒頭からそんな欲鬼に襲われた少年・真田哲(さなだ・さとし)は、偶然にも同じ欲鬼である、二十正人(じつなし・まさと)に助けられる。哲は二十のことを、“欲鬼を倒してくれる良い欲鬼”だと勘違いして、母と妹を殺した欲鬼を殺して欲しいと依頼するのだが……。

 そんなスリリングな展開から始まるこの『欲鬼』(作:色原みたび/講談社)という作品。人間が欲鬼になる条件や理由がいまだに明らかにされていない中、哲は二十に「このままだとお前も“欲鬼”になっちまうぞ」と言われてしまう。欲鬼にとってのメリットは、当然自分の欲望を満たすこと。そして“殺す”こと自体は二十のメリットではない。では何が二十の欲望なのか? 彼自身はそれを“正義欲”と表現している。いかにも胡散臭そうではあるが、今の哲は彼しか頼れないのだった。

 二十のことを兄と呼び、どうやらその“仕事”を手伝っている様子の女子高生・古茨新菜(こいばら・にいな)も、実は欲鬼であった。二十と新菜が“釣り”と称して、哲の母と妹を殺した犯人を探っている間に、哲の幼馴染の真弓と出会う。彼女もまた欲鬼であり、哲への“独占欲”から、彼の母や妹を、そして新菜までをも殺した犯人だったのだ。しかし新菜は実は生きていた。彼女は“被殺人欲”という、いわば「殺されたい願望」を持った欲鬼だったのである。

 哲の件が一段落すると、物語は次の主人公へシフトする。それは茶番椿(さつがい・つばき)という、名前からしてすでに重い、欲鬼に覚醒したばかりの男子高校生だ。椿が覚醒してから2ヶ月も事件を起こさずにいられたのは、不死身の力を持った新菜を殺すことで“殺人欲”を発散していたからである。新菜が兄と慕う二十は、その能力の高さから警察からも一目置かれる存在であり、その内部には「欲鬼犯罪対策本部」というものもあるらしい。そこの巡査部長である月居朝日(つきおり・あさひ)もまた、“法治欲”という名の欲望を持った欲鬼で──。

 そんな中、「ブラックジョーカー事件」という、現在もっとも世間を賑わせている欲鬼による連続殺人事件で、椿の唯一の肉親である祖父が殺された。もちろん月居たち対策本部は立ち上がり、二十と新菜も準備にかかる。椿も当然仇討ちに参加したがったが、それはどうしても許可されないことだった。二十といつも一緒に行動し、彼を守るために何度も死ぬ新菜だったが、二人の間には不思議な縁がある。それも、決して親しくなれるとは言い難いものなのだが……。それはこの事件にも関わってくる。

 欲鬼にならないために、自分の欲望に抗う人間。欲鬼になってしまったが、それを良い方向に利用しようとする者。欲鬼の力を欲望のままに振りかざして害をなす鬼。さまざまな立場の人間たちが、この作品で描かれる。『欲鬼』というタイトル通り、次々と欲鬼が登場するが、それは本作の中では珍しいことではないのだ。むしろ、欲望を押さえたまま人間でいられる者の方が少ないのかも知れない。読者諸君なら、どんな欲望にかられるだろうか? 冷静に我が身を振り返って読むと、案外恐ろしいマンガかも知れない。
(文/桜木尚矢)

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