下手な人はビビり・批評家・完璧主義・腰が重い・頑固。専門学校講師に聞く物語づくりの上手い、下手とは?〜下手の研究@

下手な人はビビり・批評家・完璧主義・腰が重い・頑固。専門学校講師に聞く物語づくりの上手い、下手とは?〜下手の研究@

主人公よりも脇役が魅力的になったら、どう修正する?

「下手にはパターンがある」。私の中でこんな実感がある。何事も「上手い」と言われるものには、教科書的な上手さもあるが、規制のルールや概念を根こそぎぶっこわすような、はじけた、とびぬけた上手さもある。上手ければ、何をしたっていいのだ。
 一方で「下手くそ」にはパターンがあると思えてならない。100人下手がいたら、その下手はいくつかのパターンに分類できる。そして、うまい人を見習う以外に、下手な人が踏みがちなパターンを避けるということも、上達の助けになるのではないだろうか――?

 下手の研究、第一回は、「物語づくりの下手とは何か?」。漫画や小説の専門学校で日々、物語づくりの教鞭を取っている、『シーン書き込み式物語発想ノート』(新水社)著者、谷口剛司氏に話を聞いた。


■下手な作品に共通する「主人公の魅力不足」。じゃあ、どうやって魅力を出すか?

――下手な物語に共通することは何でしょうか?

谷口剛司氏(以下、谷口) 主人公の魅力不足です。主人公に共感できなかったり、ストーリー上の主人公の気持ち、目的、望みが明確ではなく、わかりづらかったり、主人公が流されてばかりで、自分の意志で動かない。これでは、読者が感情移入できません。

――ただ、「主人公の魅力を出す」いうのも、なかなか難しいですよね。

谷口 読者はどういう点に魅力を感じるかという側面から考えてみるといいですよ。例えば、読者は残念な部分に共感しますので、主人公には読者が共感できるようなウィークポイントがあるといいですね。ほか、読者は主人公を応援したいものです。なので主人公が何かに挑戦したり、孤軍奮闘、恵まれない状況など、応援したくなる要素がない作品は、魅力不足になってしまいます。主人公がいちばん苦手なこと、やりたくないこと、不向きなことや、いちばん一緒にやりたくない相手と協力して行動していくように仕向けると、自然と「応援したくなる状況」が作られます。

――たいていのことをソツなくこなし、誰とでもソツなく動け、トラブルを事前に察知し未然に防ぐ、現実世界で明らかに有能なタイプは主人公向きじゃないんですね。

谷口 あと上手ではない作品に多く共通するのが、「ストーリー」を書こうとしているというものです。ストーリーを書こうとすると、人物の魅力がなくなっていきます。小説は人物を描くものであり、人物を描いていけば、ストーリーは自然と生まれていきます。

 そして、クライマックスの盛り上がりに欠けることですね。主人公がピンチになればなるほど、物語は盛り上がっていきますので、それがない作品はやはり面白味にかけます。

■脇役や敵役の方が主人公よりも魅力的になってしまったらどうする?

――『ジョジョの奇妙な冒険』(作:荒木飛呂彦/集英社)第4部で吉良吉影が強すぎて、「もうだめだ、何をしたって勝てっこない」と手に汗握りつつ読んだことを思い出しました。主人公の魅力だけでなく、敵役の魅力もないといけないんですね。

 書いているうちに主人公よりも敵役や脇役のほうが魅力的になってしまったというケースも多いと思うんです。この場合、どうすればいいのでしょうか。

谷口 原因は二つあります。一つは「主人公を間違えている」場合です。作品を書き進めていくと、キャラのことがわかってきます。「こんな魅力があったんだ」と気づく場合があります。主人公よりも脇役や敵役を書いてみたい気持ちが大きくなってきた場合は、本当に描きたいキャラが見つかったということであり、そちらを主人公にしてしまうのもありです。また、スピンオフという形で、脇役や敵役を主人公にした別の物語をつくってもいいと思います。

 もう一つの理由は、「主人公のキャラクターをうまく立てられなかった」という場合で、これは改善が必要です。改善の方法のひとつに、主人公以外のキャラクターに主人公についての「噂話」をさせる手法があります。昔から広く行われてきた方法ですが、非常に有効な方法です。多くのキャラが主人公に注目するようなシチュエーションを設定し、敵も味方も周囲のすべてのキャラに主人公についてコメントをさせてください。すると、書き手の興味も読者の興味も自然と主人公に向いていき、主人公が引き立っていきます。

――脇役は主役に比べ制約もなく自由にできる分、いつの間にか思いがけずいい感じに「育っていた」ケースはプロの作品でもよく見かけます。主役も、のびのびさせるのが大事なのでしょうね。


■「書きたくても書けない」「書いたけれど仕上げることができない」への処方箋

――「下手」な作品に対し、どう指導しているのでしょうか?

谷口 どんなストーリーをつくろうかと考えるのをやめさせ、どんな人物を描こうかということを、発想の出発点にするよう指導しています。「この人物を書きたい!」が執筆の動機になるように、ですね。どんな人物が、何をしていくか、その過程でどのように変わっていくか、それを描いていけばおのずとストーリーが浮かび上がってきますから。

――下手、上手以前に、物語を書く場合、書きたくてもまったく書きはじめることができないというケースもありますよね。

谷口 その場合は主人公の人物像をつくったら、絵画でいえばスケッチ的にとりあえず浮かんだシーン、セリフ、会話、出来事、事件などの短いエピソードを書かせます。まとめる必要はありません。思いつくままに、細かいことを考えず、気軽に、無責任に、短いスケッチ的文章をいくつか書いていると、だんだんと構想が浮かび、広がってきます。

――書いたはいいけれど、今度は終わらせることができない人も多そうです。書きかけの話ばかりが何遍もできて……というような。

谷口 完成させられない原因は完璧主義にあります。完璧になるまで完成させないという癖を捨てさせます。妥協を学ぶということですね。

――その「妥協」がなかなか難しそうですが。

谷口 具体的な「妥協」の方法として、例えば、いちばん描きたいことが描ければそれ以外は多少目をつぶることです。自己評価で「50点の出来」を目指し、自分が目標としている仕上がりの半分ができていればOKとするのもいいでしょう。

 完成させなければ自分の作品を判断、評価することは難しいですからね。50点でもいいので、完成させることが大切です。そして、その50点の水準をアップさせていくことを心がけるようにすることです。そうすれば、一年後の50点は現在の80点以上の水準になっていきます。

――妥協が難しい人にとって、「完成させた50点」を積み重ねれば、一年後80点になっているというのは勇気の沸くアドバイスですね。完成させないと、そもそも点数もつかないわけですから。

谷口 あとは、一回で完成させるという考え方を改めさせることも指導では心がけています。不完全でもいいから、ストーリーが少々破綻していてもいいから、とにかく完成させることです。それからブラッシュアップしていけばいいのですから。

――さっさと終わらせて楽になりたい、じゃダメなんですね。二次創作(既存作品のパロディ)なら書けても、一次創作(オリジナルストーリー)が書けない人にはどう指導していますか?

谷口 既存のキャラクターを動かす二次創作はうまく書けて、一次創作が書けないということは、「キャラクター」がつくれないということです。しかし逆をいえば、二次創作が苦も無く書けるなら、「文章力」や「ストーリーをつくる力」、「描写する力」は十分あると言えます。だからこそ、描きたいキャラクター、興味が湧く人物をつくることに力を集中するよう指導しています。

――キャラクター作りにコツはありますか?

谷口  友だちや知り合いをモデルにするのもいいですし、どうしてもキャラをつくることが難しい場合は、歴史上の人物や偉人などを主人公にしてみる。そこに「もしも、織田信長がめちゃくちゃ小心者だったら」とか「もしも、聖徳太子が引きこもりだったら」といったように、もしも法をつかってギャップ、意外な一面を加えてみるといいですよ。ユニークで、動かしやすいキャラクターがつくれます。

■下手な人はビビり・批評家・完璧主義・腰が重い・頑固

――物語づくりが上手い人に共通することはありますか?

谷口 最初に浮かんだ着想、直感、ファーストインスピレーションを大事にしている人が多いですね。最初の着想を、浮気せずに仕上げられる人はどんどん上手くなります。

――あとから思い浮かんだあれもこれも乗っていったらどんどんぼやけていった……、ではなく、これだと思ったイメージと心中する心意気ですね。

谷口 あと、性格にも上手い人には共通点があり、まず一点目は「傷つくことを恐れず、今自分ができないことを認められる人」です。作品はけなされることもあるし、賞を得られず落ち込むことも、自分の力量の無さを思い知ったり、上手い人と比べて傷ついたりすることもあります。そこで、自分の負けを認められる学生は成長が始まっていきます。

 二点目は「強み、得意なことを伸ばせる人」ですね。弱みや苦手なところを改善しても、一般的なレベルにしかなりません。それよりも自分の強みを伸ばし、広げていき、そこで勝負する人はいずれ普通の人が書けないような作品を書くことができます。

――物語づくりに限らず、人を見ていると、「そこ気にする? もっと気にすべきポイントはほかにあると思うけど?」と思うケースがあり、「他人から見たその人の強み弱み」と「自分が思う自分の強み弱み」がずれていて、見当違いの努力をする人は少なくなさそうです。

谷口 そこで必要になるのが、上手い人に共通する三点目の性格、「素直さ」ですね。ネットの無責任な批評は気にする必要はありませんが、自分のことを思ってくれる友人や先生などの助言を素直に受け入れることができる人は、やはり伸びます。たとえ、自分の考えと大きく違うアドバイスだとしても、なぜ先生がそのようなアドバイスをしたのかをよく考えるなら、自分の表現の幅を広げることにつながっていきます。「盲従」とは違いますが、素直さは必要な特質だと思います。

――逆に、物語づくりが下手な人に共通することはありますか?

谷口 上記の上手い人の逆ですね。「傷つくことを恐れ、チャレンジしようとしない人」や「自分とちがう考え、意見に耳を貸さない」人は伸びにくいです。

 そして、他人の批評ばかりしている人はまず伸びません。人を馬鹿にすることによって自分が書けているような気になることは、自分の感性を腐らせます。

――先ほど、まずは50点でも完成させる、とお話がありましたが、多く物語を書いてる人ほどうまくなるものですか?

谷口 うまくなるには、ある程度書くこと、そして書き続けることが必要です。もちろん、漠然とただ書くのではなく、考えて書くことが前提ですが。

――「物語を書く」において天性の天才というような、いきなり、超上手い人はいるのでしょうか。

谷口 初めから上手い人は確かにいますが、生まれて初めて書いた作品でいきなりデビューというのは超絶レアケースです。仮に、デビューできたとしても、続かないことが多いでしょう。 
地道なことの積み重ねが結局、物をいう世界ですね。

* *

 物語づくりに限らず、「ビビり・批評家・完璧主義・腰が重い・頑固」VS「勇気がある・まずやってみる・素直」なら、何かを成し遂げるのは後者だろう。何かがダメで、イケてないときに、「ビビり・批評家・完璧主義・腰が重い・頑固」戦隊が潜んでいないか確認すると、道が開けるかもしれない。

(文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/])


■谷口剛司著『シーン書き込み式物語発想ノート』
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