アニメ業界のブラック労働を鋭く切るはずだったのに……消化不良だったNHK「クロ現+」

アニメ業界のブラック労働を鋭く切るはずだったのに……消化不良だったNHK「クロ現+」

「クローズアップ現代+」(NHK)公式サイトより

「2兆円↑アニメ産業 加速する“ブラック労働”」という刺激的なタイトルに、多くのアニメファンが注目していた7日夜・放送の「クローズアップ現代+」(NHK)。かねてより問題視されているアニメーターの重労働・低賃金ぶりは、どの程度掘り下げられたのか、そしてアニメファンはその放送をどう受け取ったのか。番組内容を紹介しつつ、いちアニメファンとしての感想をつづってみようと思う。

 ゲストに日本アニメーター・演出協会(以下、「JAniCA」)代表理事の入江泰浩氏、東レ経営研究所・主任研究員の渥美由喜氏、ナレーションは古谷徹。こういった協会の代表理事というと、現場から遠ざかりつつあるベテランの名誉職のようにも聴こえるが、入江氏はまだ46歳。現役バリバリのアニメーター・演出家なので、最新の制作現場事情にも詳しいだろう。忙しいであろうによく出演してくれたと感謝したい。『灼熱の卓球娘』、面白かったです。

 番組はまずアニメ業界の現状説明から。30分のTVアニメで3,000枚以上の絵が必要であること、若手アニメーターに支払われる報酬は1枚あたり200円程度、月収は10万円前後であること。正社員は15%前後、約4割がフリーランスであること。取り上げられたとある制作進行の残業時間は月100時間以上――改めて、アニメ制作会社のブラック労働ぶりを淡々とレポート。

 もちろんネット上では「月10万円ってどうやって生活してんのよ」「これはエグすぎる」といった声があがったのだが、取り上げられた数字はJAniCA協力のもと制作された「アニメーション制作者実態調査 報告書2015」から抜粋された数字が多い。この報告書はJAniCAの公式サイトで誰でも閲覧することができるため、熱心なアニメファンならば既知の数字ばかり。

 インタビューに応じてくれた制作会社イングレッサ代表の吉本拓二氏、プロダクションI.Gの石川光久社長、そして若手アニメーター・阿久津徹也くんのインタビューなどは生々しく、リアリティがあったが、それでもこれまで報じられたり、SNS上などでクリエーターが残してきたコメントとあまり変わらず、少し残念。

 続いて番組ではポリゴン・ピクチュアズ、サイエンスSARUと、“ブラック労働”から脱しつつあるアニメ制作会社2社の取り組みについて紹介していく。
 ポリゴン・ピクチュアズが、各スタッフの仕事量・進捗状況の徹底的な把握によってコストの削減に成功したこと。サイエンスSARUがデジタル技術の応用で動画枚数を削減、現在公開中の『夜明け告げるルーのうた』を通常の1/3の人数で制作するなどし、土日は完全休日、18時30分には退社できるようなった現状を紹介。

 ポリゴン・ピクチュアズ、サイエンスSARUの取り組みはすごいし、2社が最近手掛けた作品、『BLAME!』や『夜明け告げるルーのうた』の高クオリティは充分認めるが、これは「クローズアップ現代+」の構成が下手、あるいは微妙に問題を取り違えているのではないかと感じた次第。

 2兆円産業にまで発達したはずが、肝心の制作現場に資金が回ってこない、環境の改善ができない、という話題について論じていたのに、その流れで「デジタル技術を使いこなして、うまいことまわしています」というアニメ制作会社の現況を紹介しては、「ブラック労働を強いられているのは、現場の創意工夫が足りないせい」と、視聴者が受け取ってしまいかねない構成だ。

 成功例を出すのなら、番組前半で手描きアニメーターらしき若手の阿久津くんを取り上げていたのだから、手描き(2D)主体のアニメを制作していて、なおかつ成功しているアニメ制作会社の取り組みを紹介すべきではなかったか。

 それでもポリゴン・ピクチュアズ、サイエンスSARUを紹介したいのであれば、2Dと3Dで制作環境にどれぐらい違いがあるのかをまず説明すべきではないか? その上で現在、放送・上映されている作品数や、アニメファンの支持をどれぐらい受けているかを解説しないと、映像の流れとしてはやや不自然だったと思う。NHKが、制作現場が苦しいのは制作現場の努力不足と結論づけたかったのであれば別だが……。

 番組終盤、スタジオにカメラが戻り、“日本のアニメ産業 未来につなぐために”入江氏、渥美氏がフリップで提言を行うのだが、渥美氏の提言は「『A愛』依存から『AI』活用 アニメーターへの投資」。これにはネット上から「アニメーターを首にして、AIを活用しろってこと?」「結局、コストカットの話かよ!」と突っ込みの声が。

 番組内でせっかく“製作委員会”について説明しているのだから、制作費がどれぐらいかかり、“製作委員会”メンバーが各々どれぐらい出資し、そして利益をどうやって分け合っているのか。そして広告に頼らないNHKだからこその切り口――広告代理店がどんな役割を果たしているのか、TV局でアニメを放送するために、製作委員会がどれぐらい支払い、あるいは放映権料を受け取っているのか? といったところに突っ込んでほしかったのだが、結局、現状の問題を確認(しかも数字はJAniCAの白書と数名へのインタビューが出典元のほとんど)しただけ。どうにも中途半端な番組だったな、というのが正直な感想である。

 なお、ネット上では、番組最後に「NHKが制作費を倍にしてくれればすべてが解決する」と男らしくコメントした入江氏や、関係者とおぼしき番組視聴者の「NHKのアニメ制作費の安さは業界での頭痛の種だったものな!」といった類のTwitterでのツイートが多くの賛同を集めていた。ニュースやドキュメント番組では民放とはケタ違いに高い制作費を使うことで知られるNHKだが、反面、アニメの制作費は低めであるという声が以前からネット上ではささやかれていた。

 老舗のアニメ制作会社で、NHKで放送されたアニメ『はなかっぱ』などを制作していた「株式会社グループ・タック」が10年9月に倒産した当時も、NHKの名前をあげたファンもいた。今回の「クローズアップ現代」の踏み込みが浅く感じられたのも、もしかしたらNHKに自覚があったせいだったのかもしれない!?
(文・馬場ゆうすけ)

関連記事(外部サイト)