『月がきれい』10話 仲違いから仲直りで激しいキス! 感情の高低差で耳キーンてなるわ

『月がきれい』10話 仲違いから仲直りで激しいキス! 感情の高低差で耳キーンてなるわ

『月がきれい』公式サイトより

──深夜の恋テロアニメ『月がきれい』(TOKYO MXほか)。最新10話がこれまた殺傷力の高いエピソードだったが、すなわちそれは素晴らしいということ。地味アニメ好きのライター、大山くまおが全話レビュー中。フライングドッグ南健プロデューサーへのインタビュー(参考記事 http://otapol.jp/2017/04/post-10440_entry.html)もあわせてどうぞ。


■「川越まつり」は多すぎる人出に要注意

 部活も一段落ついた中3の秋。小太郎(演:千葉翔也)と茜(演:小原好美)たちは受験の態勢に入るが、10月にはずっと小太郎が練習を積んできたお囃子の本番「川越まつり」がある。茜は陸上部の仲間たちと出向くが……というのがAパート。

 何より膨大なカロリーが費やされたであろう「川越まつり」の作画が目をひく。山車の上で小太郎がお囃子を踊るシーンは、南プロデューサーが「本作制作にあたりやりたかったことの一つ」と明言するほど。8話の川越氷川神社「縁結び風鈴」に続いて、行ってみたいと思った視聴者も多かっただろう。

 9話は陸上大会での茜の活躍を小太郎がそっと見届けていたが、10話では逆に小太郎の活躍を茜が(こちらもそっと)見届けており、両エピソードは一対になっている。どちらも「そっと」というのが奥ゆかしい『月がきれい』らしい。何かに夢中になって打ち込んでいる人は、それだけで魅力的なのだ。


■比良、祭りの夜に死す

 Aパートの主役は、茜に好意を寄せ続けた陸上部のキャプテン、比良(演:田丸篤志)だ。9話では「俺は、まだ勝負すらしてないし」と言っていたが、10話ではついに茜に告白する。

「好きだった、ずっと……。一生懸命走っているところ、いつも見ていたから」

 告白されて、もじもじと川越銘菓「いも恋」の包み紙を弄っていた茜の指がぴくん、と跳ねる演出が細かい。こんな細かなカット、実写の映画やドラマではまず見ない。そして2人のことを遠くから見つめる小太郎のバックショット。声までは聞こえていないはずだが、なんだかヤバイ気しかしない。

「ごめん……あの、私、つきあってる」
「知ってる。けど……なんで、安曇……? 俺のほうが絶対水野のことをよく知ってる。ずっと、はじめから、ずっと一番好きだ!」

「なんで、安曇」って言っちゃった。恋に破れつつある者が、誰しも思う「なんで自分じゃなくてアイツなんだ」という疑問。でも、それを口に出してしまうと、相手の心はますます遠ざかる。

「ごめん、私、比良は友達だから。大事だけど、違う……」

 茜は視線をそらしたまま、きっぱりと拒絶する。比良、討ち死に。それでも、茜に微笑みを見せるところが、「周囲に自然に気を配ることができ、頼られがちな人格者」である所以だろう。しかし、人格者なのに「なんで」と口走ってしまうところが恋の魔力である。小太郎からLINEが入った瞬間、スマホを取り出して画面を見る茜の姿がさりげなくキツイ。比良にとって何よりの追い打ちだったはずだ。


■炸裂! 久々の“電灯の紐パンチ”

 Bパートは2人のすれ違い。比良と茜の姿を見た小太郎は不機嫌になっていた。茜と落ち合っても苛立ちを隠さない。「いも恋」が2人のすれ違いを端的に表す小道具として使われている。

 茜は告白されたこと、それを断ったことを説明するが、「なーんだ、そうだったの」と笑顔を返せるほど中3は人生経験を積んでいない。こういうとき感情の高ぶりを制御できない気持ちはよくわかる。なぜかとても残酷になる。穏やかな気持ちで甘い時間を過ごすだけが恋じゃない。これも恋の一部分である。

 小太郎は茜を置き去りにして祭りに戻ってしまう。賑やかな場所ではこらえていたのに、人がいない場所に来たら涙をこぼして嗚咽する茜の姿を見ると胸が痛くなる。

 小太郎の表情は天狐の面に隠れていてわからない。自分でもどんな感情かわかっていないだろう。夜、部屋で久しぶりに渾身の電灯の紐パンチを繰り出す小太郎。一瞬で電灯が消える。茜の引っ越しと寂しさ、茜が男と2人でいたことへの嫉妬、茜に対する仕打ちへの後悔……。いろいろな感情がないまぜになっているのだ。この一連のシーンをBGMなしで描ききっている。


■茜からのキスに視聴者絶叫

 翌日、教室では気まずい気分の2人だが、小太郎は図書室で「べにっぽ」を弄り、笑顔で「よし」と呟く。なぜ笑顔になるのか? 理由はすぐにわかる。小太郎は茜の引越し先である千葉の高校を受験することに決めたのだ。たぶん、この瞬間に。

 小太郎の意図を理解した茜は、塾の帰り道、ダッシュで追いかける。さすが陸上部、脚がめっちゃ速い。千葉の高校までは川越から片道2時間かかる。小太郎の両親も反対するだろう。でも、それだって説得するつもりだ。「説得する」と聞いた瞬間、茜の頬が赤らみ、瞳が潤む。小太郎の深い愛情を感じているのだ。

「考えて決めた。ずっと一緒にいたいし、本気だから」

 小太郎は恋心を意志のもとに行動に移し、それを言葉で相手に伝えることができる男だ。そして茜には小太郎の言葉を聞いて、胸に飛び込んでいける素直さがある。2人の恋がうまくいかないわけがない。

 気持ちが高まった茜は、小太郎に勢い良くキス! その瞬間、視聴者の絶叫が深夜の関東地方に響き渡った――。2人が、ちゃんと最初にキスした川越氷川神社のそばにある氷川橋にいるのも心憎い。今週の体感も5分程度だった。それだけ無駄のない構成ということなのだろう。


■感情の高低差で耳キーンとするわ

『月がきれい』は、2人のすれ違いと劇的な仲直りを1話の中で収めてみせた。千葉の高校のパンフなど、そのための伏線が巧妙に張られていたのも見逃せない。

 何話にもわたって2人の感情がもつれる展開があってもおかしくなかったが、それだとストレスフル過ぎるという判断があったのだろうと予測する。作品を「心地良い」ラインにチューニングしておくのが昨今のトレンドなのだ。また、1話に収めることによって(視聴者、登場人物ともども)感情の高低差が激しくなるという効用もある。感情の高低差で耳キーンとするわ(フットボールアワー後藤風)。

 クライマックスで流れるBGMはEvery Little Thing の「fragile」。「いつもそう 単純でクダラナイことがきっかけで傷つけてしまうよね 途切れてく会話 虚しいよ」という歌い出しが今回のエピソードそのままだった。BGMのないパートが多い分、挿入歌の印象がとても強くなる。音量もかなり大きめだった。
(文/大山くまお)

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