ファンタジー作品を楽しもう! 『セントールの悩み』から学ぶデミヒューマン講座

ファンタジー作品を楽しもう! 『セントールの悩み』から学ぶデミヒューマン講座

TVアニメ『セントールの悩み』公式サイトより

 人間と別の存在が組み合わさった、さまざまな形態の「デミヒューマン(亜人)」のみが現生人類(ホモ・サピエンス)として進化を遂げた世界における、平凡な女子高校生たちの何気ない日常を描いたファンタジー作品『セントールの悩み』(作:村山慶)。本作は『月刊COMICリュウ』(ともに徳間書店)にて2011年から連載がはじまり、現在では連載話数が100話を突破、単行本は14巻まで発売されている人気作品です。

 本作はTVアニメ放送が決定しており、今夏17年7月より放送開始予定となっています。そこで今回は「TVアニメを視聴する前に、より作品を楽しむための予備知識」と致しまして、本作品に登場する魅力的なメインキャラクターたちに絞り、その元ネタの由来と概要を考察、解説していきます。

 人間と動物、怪物、神などとのあいの子であるデミヒューマンは、本作品だけではなくファンタジー作品やRPG、神話や古典文学などさまざまな媒体に登場しています。これらデミヒューマンの知識は『セントールの悩み』はもちろん、その他数々の作品を楽しむのに役立つはずです。


■君原 姫乃(人馬型/ケンタウロス/ギリシャ神話)

 下半身は馬の体、首の部分から人間の上半身が生えている。ケンタウロスと言えばギリシャ神話出身由来のデミヒューマンとして、特に知名度の高い存在です。

 ギリシャ神話におけるケンタウロスは、種族の特徴として好色で短気な乱暴者、という性質を持っています。彼らには北欧神話の神ロキのようなトリックスター的側面もなく、何も考えず酒を呑み酔っ払っては狼藉を働き大騒動を引き起こす、ただただ厄介なトラブルメーカーです。

 たとえば、ある人間の王が結婚式の宴席を盛り上げようとケンタウロスたちを呼んだところ、彼らは振る舞われた酒に酔って暴れはじめました。ただ暴れ回るだけならともかく、ケンタウロスたちは女性に乱暴を働くなど数々の無作法を重ね、挙句の果てには花嫁とそこに居合わせた人々を誘拐し、自らの棲み家へと連れ去ってしまったのです。

 当然の事ながら王は激怒し、国を挙げてケンタウロス族の討伐に向かいました。その結果ケンタウロス族は壊滅、生き残ったのは討伐から逃げ延びた数体のみになったといいます。


――そっくりだけれど別種族。森の賢者「ケイロン」

 ただし、昨今の作品におけるケンタウロスの特徴を持つデミヒューマンは、ケンタウロスと同じ外見的特徴を持ちながらも、まったく異なる経緯で生まれた個体「ケイロン」をモデルとしたものが多いように思われます。

 ケイロンは「男神が馬に変身し、その姿で女性と交わった」ことにより、半人半馬の姿で生を受けた存在です。このように「神が動物の姿で交わった結果、その動物の特徴を持つ子が産まれる」という神話は世界的に見られるもので、例えば象の頭に人間の身体を持つヒンドゥー教の神、ガネーシャにも同様の逸話があります(象の頭となった理由を説明する神話は複数存在しています)。

 神の血を引くだけあり、ケイロンは優れた頭脳と身体能力を持っていました。数多くの神々から音楽、医術、芸術、狩猟、天文学、武術など数々の叡智を授けられ、さらに弓術や薬草学にも長けており、その医術と薬草学によって数多くの人々を病から救ったとされています。

 文武両道の賢者ケイロンは数多くの人材を育てており、最強の英雄ヘラクレス、無双の戦士アキレウス、現代でも世界中で使われている医の象徴「アスクレピオスの杖」で知られる名医アスクレピオスなど、数多くの人物に知識と武芸を授けています。古代ギリシャの英傑はほぼ漏れなくケイロンの教育を受けている、と言っても過言ではありません。

 このようにケイロンは、ケンタウロスの外見を持ちながらも、全くの別種族と言える存在なのです。ただ『セントールの悩み』作中においては「人虎型」という、人馬型と同じ形態ながら下半身が虎で狩猟に特化した特徴を持つ、絶滅した形態の存在が囁かれています。これは姫乃のような人馬型をケイロン的な存在として、人虎型を本来のケンタウロス的な存在として描くためなのかもしれません。

 ちなみに、タイトルに入っている「セントール(Centaur)」は、ギリシャ語「ケンタウロス(Kentauros)」の英語読みです。各国神話の登場キャラクターは、基本的には英語読みが一般的な呼ばれ方となるのですが、ケンタウロスの場合はギリシャ語読みのほうが先に広く知られるようになったため、今でもそのように呼ばれることが多くなっています。

 ケンタウロス及びケイロンに関しては、こちら「『Fate/Apocrypha』から学ぶ! 一番わかりやすい『FGO』原典紹介(前編)」も参考にして下さい。


■名楽 羌子(角人、長耳人、牧神人型/サテュロス/ギリシャ神話)

『セントールの悩み』作中には、動物の耳と角を持つ形態が複数存在します。それら登場人物は「頭の上部分から動物の耳が生えている」という特徴を持っており、角や尻尾が生えているか、下半身が蹄状かなどの形態によって呼ばれ方が異なるようです。なお、羌子は角人と表記されています。

 これら形態の特徴に比較的一致するのは、『プリニウスの博物誌』などの犬人「キュノケファロス」、スコットランドの妖精を元ネタとする猫人「ケット・シー」などが挙げられます。それらの中で最も近いと思われるのは、ギリシャ神話に登場する半人半獣の精霊「サテュロス」です。

 サテュロスとは、基本的には「人間の上半身、頭には角、人間と同じ場所にある耳は尖っており、下半身は2本足ながら毛の生えたヤギのもので蹄があり、尻からは大きな尻尾が生えている」という姿で描かれる存在で、ディオニュソスというギリシャの豊穣神と強い関連性を持っています。

 ただし共通性があるのは、ひとまずのところ外見のみです。サテュロスは非常に享楽的な性格で、音楽と酒をこよなく愛し、毎日を歌い踊り騒いで過ごすことを何より好みます。また非常に色を好むスケベな精霊であり、ディオニュソス神の女性信徒たちとの乱交や、女性型の精霊であるニンフを追いかけ回しては性的な快楽をむさぼっています。

 また、サテュロスは彫像や絵画などでしばしば、並外れて巨大な男根を勃起させた姿で描かれています。これは豊穣と酩酊の神ディオニュソスとの関連性、つまりサテュロス自身にも豊穣の属性があることを表しているものです。

 これらを踏まえた上で、作中における羌子を改めて確認してみましょう。まず外見は「頭上から縦長に伸びた動物の耳、頭の横に角があり、動物の尻尾が生えている」、性格は「非常に頭が良く、冷静沈着」と設定されています。これだけでも今のところ共通点は外見のみ、ということがご理解いただけるかと思います。

 余談となりますが、古代の絵画や彫刻において、サテュロスは何の変哲もない普通の人間、尻尾だけが生えた人間、下半身が2本足の馬など、様々な外見で描かれていました。先述した「人間の上半身にヤギの下半身、頭に角、尖った耳」という、現代におけるサテュロスのイメージが完全に固定したのは13世紀以降のできごとです。作中のこれら形態を持つ人々は13世紀より前のサテュロスがモデル、という可能性はあるかもしれません。


■獄楽 希(竜人型/ズメウ/ルーマニアの民話)

 竜人と言えば東洋の龍、例えば西遊記や封神演義に登場する「東海竜王敖廣」、七福神のメンバー「弁財天」などの「人間にも化けられる龍」を想像されるかと思います。ですが東ヨーロッパの一国ルーマニアには、本作における「竜人」に比較的近い特徴を持つ独特のドラゴン「ズメウ」の伝承が存在しています。

 ズメウは、ルーマニアの民話に登場するデミヒューマンです。人間とほぼ同じ骨格ながらも頭や手足、胴体はドラゴンそのもの、全身が硬いウロコに覆われており、尻からは大きな爬虫類の尻尾が生えているという、人間の身体パーツがそのまま西洋の竜と置き換わったような姿をしています。背中の翼や飛行能力の有無は、個体によってまちまちです。

 そして何よりも化け物じみた外見ながら非常に賢く、人間との会話が可能なのはもちろん、独自に国を作って治めるなど社会性も高い、というのが大きな特徴と言えます。

 ルーマニア民話におけるズメウの役割は、日本における「悪い鬼」そのもので、彼らは主人公に退治される悪役なのですが、その気質は全く異なります。男のズメウは力が非常に強く、いかめしくもさっぱりとした武人的な気質をしており、真正面から1対1で殴り合う素手での格闘を何よりも好みます。また主人公側の無作法や卑怯な行いに遭っても1度は許す寛大さを美徳とするなど、とても悪役とは思えない性格をしているのです。

 一方で女性のズメウは、例外こそあるものの基本的には人間視点からの美女であることが多く、力はそれほど強くありませんが得意とする魔術で主人公を陥れるなど、若干ながらも悪役らしい性格をしています。


■御魂 真奈美(翼人型/マイルーン人、天使/ファンタジー作品、宗教的象徴)

 ただ単に「人間の背中に翼が生えている」と言えば、イギリスのファンタジー作品『エルリック・サーガ』に登場するデミヒューマン種族「マイルーン人」でしょう。ですが本作における翼人型は背中の羽根のほか、頭の上に輪っか状の毛が生える特徴を持っており、これはいわゆる一般的なイメージにおける「天使」だと思われます。

 実はこの天使、というのは非常に厄介な存在で、解説を続ければ本が1冊出来上がってしまうほどの情報量です。よってここでは“ドヤれる雑学”として「現代におけるいわゆる天使、と設定された存在の頭の上に黄金の輪っかがある理由」を解説するに留めます。

 さて、まずはキリスト教のできるだけ古い宗教画、難しければ日本の仏像や仏教画などを思い出してみて下さい。

 思い起こせたでしょうか。

 何を想像したにせよ、思い浮かべた聖人や仏の背後にはおそらく、黄金やそれに近い色の円盤や集中線、もしくは太陽のようなものが描かれているはずです。もしも違った場合は、それがあるものを無理やりにでも思い出していただききましょう。

 話を戻しまして、そのような聖人の頭の後ろに描かれる円盤は、その人物の神々しさを記号化した「光背(こうはい)」と呼ばれる表現方法です。古い西洋の宗教画において、光背は聖人の頭の後ろに描かれるものであり、顔がどちらを向いていようが、絵を正面から見て人物の後ろ側に配置する、というのが伝統的な手法でした。

 ですが時代が進むにつれて、光背の表現は少しずつデフォルメされていきます。そして15世紀、ついにマサッチオという画家によって「頭の上に乗った、金色のお皿のようなもの」という描写に辿り着くのです。

 マサッチオの絵は、当時の画家たちに相当な衝撃を与えたものと思われます。マサッチオの光背表現は一世を風靡し、その後の絵画における光背は、そのほぼすべてが「頭の上に乗った円盤」として描かれるようになったのです。

 そしてレオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロ・サンティなど、数多くの画家たちによって円盤は少しずつ簡略化されていき、現代では単なる「黄金の輪」として表されるまでに至りました。

 要するに、現代に見られる「天使の輪っか」とは、元々は神々しい後光を表す伝統的表現であったものが、流行りの影響からどんどん簡略化され、最終的には単なる黄金の輪っかとして描かれるに至ったものなのです。


■ケツァルコアトル・サスサススール(南極蛇人/ナーガ/インド神話)

 本作における「身体は人間のものだが、首から上は蛇の首と頭、蛇の尻尾が生えている」という外見に比較的近い存在としては、インド神話の蛇神「ナーガ」及び、ファンタジー作品に登場するトカゲの怪物「リザードマン」が挙げられるかと思われます。

 ただし、いずれも南極人の特徴との一致はしていないため、比較的近い存在と言えるであろう「ナーガ」及び、名前に入っている「ケツァルコアトル」に関しての、簡単な説明に留めたいと思います。

 インド神話のナーガは、おおまかに「人間の腰から下が蛇の胴体になっている」「外見は蛇そのもので、頭部のみが人間のもの」「7つの頭を持つコブラ蛇そのもの」に分けられます。ファンタジー作品にも登場する、よく知られているナーガの姿は1番目の「人間の上半身+蛇の下半身」というものでしょう。

 ただし、原典となるインド神話においては「蛇そのもの」あるいは「7つの頭を持つ蛇」として描かれているものの方が一般的です。

 ナーガの属性は逸話によって異なり、神聖な存在とも邪悪な存在ともされています。邪悪なナーガは地獄の門番であり、地下に広がる暗黒の世界を守る守護者でもあります。一方で神聖な存在としてのナーガは、例えば神々の危機に対し体を張って救った逸話などに登場する「シェシャ」のように、神に準ずる存在として信仰の対象にもなっています。

 このような二面性を持つに至った理由としては、まずナーガの原型である蛇「コブラ」の持つ猛毒が挙げられるでしょう。また、脱皮して成長するという特性から「皮を脱いで新しく生まれ変わる」、この点から世界的に「不死の象徴」とされていることなどが理由だと考えられています。

また、名前に入っている「ケツァルコアトル」は、南米にかつて存在した「アステカ帝国」で最も広く信仰を集めていた神様の名前です。これは作品内の設定において「南極人は爬虫類のような見た目だが、鳥類に近い」とされており、ケツァルコアトルの名前が「ケツァール」という美しい鳥に由来するもので、かつケツァルコアトルという名前自体に「羽毛ある蛇」という意味があることから付けられたもの、と考えられます。

 ケツァルコアトルに関しての詳細は、過去記事「あのドラゴンたちの元ネタは……!? 知って差が出る『小林さんちのメイドラゴン』から学ぶファンタジー知識(後編)」も参考にして下さい。


――ここで解説したのは『セントールの悩み』に登場するキャラクターの一部のみであり、原作にはまだアニメ公式ページで紹介されていない、魅力的なデミヒューマンたちも数多く登場しています。ファンタジー好きの方や、いわゆる人外好きの方はもちろん、少し後ろ暗いディストピア的世界観の考察など、多方面からの楽しみ方が込められた内容となっております。

 できるならばマンガ原作と併せて、ぜひアニメ第一話からご鑑賞頂ければと思います。それに際して、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

■文・たけしな竜美
 オタク系サブカルチャー、心霊、廃墟、都市伝説、オカルト、神話伝承・史実、スマホアプリなど、雑多なジャンルで記事執筆、映像出演、漫画原作をしています。お仕事募集中です!
Twitter:https://twitter.com/t23_tksn

関連記事(外部サイト)