「Jホラーとは違う『恐怖』を伝えたかったんです」『世界の闇図鑑』総監督・井口昇インタビュー

「Jホラーとは違う『恐怖』を伝えたかったんです」『世界の闇図鑑』総監督・井口昇インタビュー

(C)「世界の闇図鑑」製作委員会

 UMA、SF、秘境探検……懐かしさすら覚えるモチーフを多用し、好事家たちを唸らせているホラー紙芝居アニメ『世界の闇図鑑』(テレビ東京ほか)。21世紀に何故こんな尖った作品が生まれたのか? 舞台裏はどんな様子なのか? 最終回の放送を直前に控え、総監督を務める井口昇氏にインタビューを敢行しました。


■「若い人たちが宇宙人やUMAに興味を持つきっかけになりたい!」

―― この番組を作ったきっかけを教えてください。

井口昇総監督(以下「井口」) まず制作会社のプロデューサーさんから「『闇芝居』の後番組を考えてるんだけど」って依頼が来たんです。

―― 都市伝説を題材にしたCGアニメですね。井口さんも第2期の第2話で監督を務められています。

井口 ええ。で、打ち合わせの時にプロデューサーさんが持ってきた資料が、昔の子ども向けの雑誌とか図鑑でした。グラビアページで石原豪人さんとかが「未来にこんな酷いことが起こる!」「こんな怪物が実在する!」みたいなイラストを描いてるような。

―― チューブ状の道路をエアカーが走ってたり、イエティの想像図が描いてあったり。

井口 「秘境にこんな気持ち悪い生き物がいる!」とか。そういうのを表現できないだろうかっていう漠然とした企画を提案されたんです。で「どう思う?」って(笑)。プロデューサーさんは「この題材ができる人は井口さんしか思い浮かばない」って仰ってましたけど。

―― 困りますよね、そんな風に言われても(笑)。

井口 でも題材はすごく好みでした。僕は1969年生まれなんですけど、子どもの頃まさにそういう雑誌を読んでてすごく影響されたので。トラウマになったというか(笑)。こういう昭和のオカルトやUMAだったりは、自分のDNAの中に確実に入っていますね。

 あと、今「昭和っぽい」って若者の間ではマイナスイメージというか、否定的な意味合いで使われることが多い気がするんですよね。それに対して前からムカついてて、「やります!」って。技術的にはまだ何も考えてなかったですけど、あの当時の雑誌のグラビアみたいなことを映像にして、それを見たことない世代に投げかけるのは意義があるんじゃないかと思ったんです。

―― なるほど。若い世代に「昭和」のよさを伝えるというか。

井口 それに今の若い人たちの「ホラー」って、ほとんど心霊だけなんですよね。いわゆるJホラーの影響だと思いますけど、恐怖の対象がほぼ幽霊、心霊だけな気がして。あとはせいぜい都市伝説とか、ゾンビとか。

―― た、たしかに! 

井口 僕としては「恐怖の対象はそれだけじゃなかったはずだ!」というのがあって。若い世代の人たちは意外と宇宙人やUMAってものに恐怖を感じたことがないんじゃないかと。この作品がそれらに興味を持つきっかけになってもらえばいいし、あるいはそういうもので育った僕ら40〜50代以上の方が「そうだよね、怖いよね」って思ってもらえるものになればいい。最近はそういうのが凄い少ないなあって思ってましたし。


■怖かった「東京12チャンネル」のテイストを現代へ

―― 本作が“紙芝居”風になったのはどういう経緯をたどられてのことですか?

井口 『闇芝居』はCGアニメがメインでしたが、僕は知り合いにたまたまイラストレーターの方が大勢いらっしゃるので、手描きの絵を構成して何かできるんじゃないかって思い付いて。デジタルの時代にアナログな切り口でやるのも逆に面白いんじゃないかなと。あと1976年に放送されていた『妖怪伝 猫目小僧』の影響もあると思います。絵で描いたものを紙芝居の要領で撮って、実写が混じるアニメだったんですけど。

―― 楳図かずおさんのマンガ『猫目小僧』が原作の。

井口 それに「東京12チャンネル」の影響もあります。テレビ東京は当時そういう名称だったんですけど、めちゃくちゃ怖い番組をやってる印象があって。遅い時間だと『ビックリ大集合!』(1975〜78年)って番組で、口裂け女のドキュメントとかをめちゃくちゃ怖いタッチで放送してたり。子ども向けの番組でしたけどハンパなく怖くて、みんな次の日に学校でその話題で持ちきりになったり。あと『もんもんドラエティ』(1981〜82年)の、手塚眞さんが作った短編ホラーも怖かったなあ。夜8時台の放送なんですけど、人が首切られたりとかそんな内容ばっかりでした。

―― 今では考えられない状況ですね。

井口 当時もPTAからめちゃくちゃ苦情が来てたらしいですけど(笑)。そういう番組がいっぱいあったのが「東京12チャンネル」だったんです。それを21世紀にやろうと。

―― テレビ東京でやるなら東京12チャンネルのテイストを、というわけですね。 

井口 それで模索をしたんですね。プロデューサーさんが吉田ウーロン太さんという役者さんで脚本家もやられている方を連れて来て、彼とまずは喫茶店に入って「何が怖いか?」ってお互い意見を出し合ったんですよ。そこから第6話「砂に消えた悪夢」のプロトタイプの話ができたんです。それを僕がイラストを描いて、デジタルで撮って実験的に編集したところ、「これ面白いことできるな」って分かったんで、(各話を担当する)監督さん3人を集めて会議を繰り返して。

―― それはいつ頃ですか?

井口 依頼が来たのは去年の12月26日で、制作を始めたのは1月の二週目。年末に話が来て4月に放送ですからね。最初は「えっ?」てなりました(笑)。

―― 30分のTVアニメなら絶対に有り得ないスケジュールですよね(笑)。

井口 僕も「普通じゃない気がする」って思いましたけど(笑)。ただ、今まで仕事をしてきた中で、自分は「傭兵だ」って意識があるんです。無茶なことを振られて何とかするのが仕事というか。あと性格的にも極限状態になればなるほど燃えるんですよ。「映像マゾ」って言った方がいいいいかもしれないですけど(笑)。


■ゼロから始めたアニメ制作は、部活の合宿のようなノリ!? アイドルの手作りフードも

井口 今回普通のアニメと何が一番違うかっていうと、ぜんぶ監督が自分で動かしてるんですよ。編集ソフトを使って。去年の12月まで一切使ったことなかったですよ、プレミアなんて。

―― Adobe製の有名な動画編集ソフトですね。

井口 事務所の20歳の詳しい子にちょっとずつ教わって、学んだことを作品に反映しましたね。「ここをこうやるんだ!」「ここの数値を動かすんだ!」みたいな(笑)。だから回を重ねるごとに技術がアップしているという(笑)。

―― いわゆるアニメ制作会社の技術者は参加していない?

井口 ゼロです(笑)。「分かんないどうしよう」って言いながら自分たちでやりました。

―― どういう環境で製作されてたんですか?

井口 ほとんど寮みたいな環境で作ってたんです、部活の合宿というか(笑)。事務所で何日も泊まって寝ないでパソコンで作業して、スタッフがご飯作って。やってるうちにおかずがちょっとずつ増えていくんですよ。塩辛とか鮭フレークとか。あと季節感が出てきたりとか(笑)。

―― 図らずもスタッフさんの料理の腕前が上がったと(笑)。

井口 あと、僕は「ノーメイクス」っていうアイドルのプロデュースもしてるんですけど、そのうちの1人が手伝ってくれました、色塗りとか。その子も時々ご飯を作ってくれて「今日はアイドルフードデーだ!」みたいなノリで喜んだりして、その子もオムライスにハートマークを入れてくれたり。そういうのだけが楽しくてやってましたね。

――ノーメイクスのメンバーは出演もされてますよね。

井口 ええ、第7話「無邪気な道化師」に。

――この回、本当にビックリしました。「アニメ作品で実写をやるとは!」って。

井口 前からやってみたかったんですよね。写真でホラーを作ったら怖いんじゃないかって思ってて。止まっているモノが少しずつ近付いてくる怖さ。あと「ピエロ恐怖症」って日本ではそうでもないですけど、アメリカでは有名らしくて。その映像をやるには実写、写真の方がいいんじゃないかなと。

――ピエロは役者さんですか?

井口 実はスタッフで役者も出来るおじさんです(笑)。普段からすごく大人しい人なんですけど、その人にピエロをやらせたら面白いだろうなって。自分がプロデュースしてるアイドルを、スタッフのピエロに襲わせてっていうすごい自給自足の少人数のやり方ですけどね(笑)。

 ちなみにオープニング映像に出てくる悪魔の手、あれも同じスタッフのおじさんがやってます。

―― あの不気味で引き込まれる映像ですよね。まさかスタッフの方だとは……。

井口 あの撮影が終わってすぐ、近所のうどん屋さんにあの手のまま行ったんですけど、店員のオバサンに物凄い不審そうに見られてて(笑)。説明したら「ああよかった」ってホッとされるっていうね。


■「こういう怖い作品って、現場は明るいんですよ」

――「総監督」という立場上、各エピソードの順番には相当配慮されたと思いますが。

井口 かなり考えましたね。似たようなネタが連続しないように、監督さんもバラけるように。

―― ご自身が監督した中ではどの作品がお気に入りですか?

井口 第1話「誘惑の黒い影」が結構好きです。いや、第2話「雪の中の妖精」かなあ?  他の監督の作品も大好きですね。飯塚さんが「抗生物質」がテーマの話を書いてきて、台本読んで全然分からなかった。「どういう絵になるんだ?」って。

―― 第8話「病にかからぬ謎の民」ですね。

井口 でも出来上がりは監督らしいというか、独特の面白さに満ちた作品になってて。それに「秘境探検モノ」だから決してメインテーマから外れていないですし。全体的に作業としては大変でしたけど、終わったらみんな清々しい顔になってましたね。

―― 大変だった、というのは?

井口 たとえば第5話「機械人がやってくる」は、イラストレーターの加藤礼次郎さんに「モノクロでいいですよ」って話をしてたんです。ラストだけはカラーであとは白黒にって。なのに自主的に全部色を塗り始めてくれて(笑)。

―― そういうクリエーターの方って多いですよね。

井口 それでちょっと納期が遅れて(笑) アフレコの時も半分ラフのままだったりして「大丈夫か?」って心配でした。でも完成したら最高の仕上がりでしたね。

―― ナレーションは、今をときめく人気俳優の斉藤工さんが担当されてますが、これは?

井口 印象に残る人がいいねって会議で話してたら「井口さん、斉藤さんとも交流あるよね?」ってなって。「じゃあ」って何となくショートメールしたんですよ。

―― え、御本人に直接?

井口 ええ(笑)。「『ウルトラQ』みたいな怪奇ものをやりたい」「工さんみたいに甘くて怖い声がいい」って送ったところ、「喜んでやらせていただきます」ってすぐ返信が来て。

―― 即答だったんですね。カッコイイなあ。

井口 録音も半日で終わったんですよ。10時にいらして18時には終わったのかな。やっぱり工さんの勘のよさ、力量にはビックリしましたね。求められてることを理解するのが早いっていうか。回によってトーンをちょっとずつ変えてるんですよ。「暗くなく重くなく優しく」の時もあれば「感情を押し殺して棒読みに近く」とか。そんな微妙なニュアンスを全部しっかりやってくれましたね。

 声優さんもいろんな方が来てくださって、皆さん楽しんでやってくれましたね。こういう怖い作品って現場は明るいんですよ。これは清水崇さんもおっしゃってましたし。

―― 映画『呪怨』などで知られる監督ですね。

井口 こんなアットホームな現場で同じ釜の飯を食って作って。「そこのふりかけ取って!」「おかわり!」みたいな。デジタルの向こうに寮生活。それが『世界の闇図鑑』最大の秘密ですかね(笑)。

―― いい具合にまとめてくださってありがとうございます(笑)。いよいよ最終回を残すのみとなりましたが、改めて見所を教えてください。

井口 この作品のよさって、監督それぞれの原体験をストレートに娯楽に落とし込んでることだ思うんですよね。それでいて実験的だったりもして。例えば僕が監督した第9話「不幸を呼ぶ呪いの箱」は背景が変わらない。1つの背景で人物だけが変わっていくんです。

―― 固定カメラみたいな演出ですね。紙芝居としてはかなり実験的だと思います。

井口 第10話「最期を見つめる奇面」は上野遼平くんっていう20歳の若い人が監督を務めたんですけど、後半の演出でノーメイクスのメンバーの目の画像を使ってるんですよ。

―― 画面の真ん中に目がギョロリと出てきますね。あれも斬新でした。

井口 しかもアイドル本人(神門実里)が画像を切り抜いてて。500枚くらいを加工したのかな? 2日くらい泊り込みで。

―― アイドルの仕事じゃないですよ(笑)

井口 終わった頃にはヘトヘトになってて「アイドルもこんなにボロボロになるんだなあ」って思いました(笑)。 

―― ちなみに今後の展望はありますか? 第二期とか。

井口 脳内ではシーズン4くらいまでできるぐらいのアイデアがありますよ。ニコ生で最初に配信したときは皆さん「なんじゃこれ!」って反応だったんですけど、会を重ねると免疫が出来たのか楽しんでもらえてるみたいですね。希望的にはシーズン10くらいまでやりたいです。毎回手作りの料理を食べながら泊り込みで(笑)。

 あとは原画を見てもらいたいなあ。ああいうのを描ける人は今少なくなってるんですよ。だから展覧会をやったりして、多くの方に手書きイラストの迫力を知ってもらいたいですね。


■TVアニメ『世界の闇図鑑』 あにてれ 公式サイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/yamizukan/

・毎週日曜深夜3時5分より放送中
・あにてれシアターほかにて配信中(http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/anitv_yamizukan/)

(C)「世界の闇図鑑」製作委員会

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