『月がきれい』11話 受験なのにデート、受験なのにキス! 壊れかけの理性に、夜食のおにぎりが優しい

『月がきれい』11話 受験なのにデート、受験なのにキス!  壊れかけの理性に、夜食のおにぎりが優しい

『月がきれい』公式サイトより

──恋する中学生の1年を丹念に描くアニメ『月がきれい』(TOKYO MXほか)。スタート当初の地味さからは想像できないほど大きな話題となっているが、これもひとえに作品のクオリティの高さゆえ。地味アニメ好きのライター・大山くまおが全話レビュー中。フライングドッグ南健プロデューサーへのインタビューもあわせてどうぞ。


■どっしりした演出の11話「学問のすすめ」

 深夜の恋テロアニメ『月がきれい』も11話がセミファイナル。秋の一大イベント「川越まつり」も終わり、いよいよ受験シーズンに突入だ。サブタイトル「学問のすすめ」がぴったり。ちなみに現実世界では7月30日に開催される「川越浴衣まつり」と『月がきれい』のコラボレーションが決定。岸誠二監督と茜役の小原好美がスペシャルトークショーを開催するよ。

 それはさておき、11話はどっしりした演出が目を惹いた。BGMも最小限にとどめ、小太郎(演:千葉翔也)の父親(演:岡和男)と母親(演:井上喜久子)の姿を真正面から描いている。特に母親は、何度もアップになってシワさえ数えられそう。まさに『中学生日記』的でありつつ、地味な日本映画のような風格さえあった。そういえば小太郎のお父さんって「龍之介」って名前なのね。息子の文学好きに理解がありそう。

 11話の絵コンテはベテランの政木伸一、演出は野崎真代。野崎に関してはデータがほとんどないんだけど、日大芸術学部映画学科を2013年に卒業したばかりの人みたい。ひょっとしたら本作が演出デビューかも。そうか、だから日本映画っぽく感じたのかな?


■思春期の少年少女を助ける年長者のアドバイス

 Aパートは、小太郎と両親の葛藤がじっくり描かれる。三者面談で茜が受験する千葉県の進学校を自分も受けると切り出した小太郎に対して、当然ながら母親は反発。これ、子持ちの筆者は、自分のことだから自分で決めたいと思う息子の気持ちもよくわかるし、恋愛で進学先を決めてしまうなんて、と反対する親の気持ちもよくわかる。

 小太郎はちょっと年をとってからの一人っ子のようなので、両親が過保護気味に心配する気持ちのほうが強いのだろうか。一方、小太郎も茜との恋愛を経験することで、少し早めに自分の人生の選択を行っているような気がする。小太郎と茜は20代前半で結婚するんじゃないだろうか?

 両親に反対され、成績も伸び悩む小太郎に、古本屋の大輔(演:岩中睦樹)がアドバイスを送る。

「辛いときは休んでもいい。気持ちを整えるのも大切なことだよ」

 いいこと言うなぁ。こういう年長の理解者がいると、本当に思春期の少年少女は助かるんだよね。


■さりげなく見える結婚指輪

 Bパートは小太郎と茜のクリスマスデート。受験なのにデート!? プレゼントが手編みのマフラー!? 当たり前のようにキス!? 茜のキス待ち顔!? こういう甘やかなシークエンスをぶっこんでくるのが『月がきれい』が恋テロアニメたる所以。今週も憤死者の叫びがタイムラインに響き渡った。

 一足先に茜が高校に合格。塾で小太郎と一緒に喜ぶ千夏(演:村川絵梨)だが、最後に1カットだけ小太郎を見つめるショットをインサートしてきてドキッとする。千夏の性格の良さと哀しさが一瞬で伝わったシーンだった。

 結局、母親は小太郎の努力を汲み取って受験先の変更を認める。母親の気持ちの変化と息子に対する愛情を、まったくセリフなし、シーンの積み重ねだけで描いてみせた。目立たないが、平静を保っておろおろしない父親の態度も非常に立派だ。うるさくなりがちな母親の心情をしっかりと小太郎に伝えるが、押し付けがましくない。

「うるさく言うこともあるけど……ま、そういうことだから」

 うかつにいいことを言わせない柿原優子の脚本が光る。読みかけの小説を閉じたとき、父の指にある結婚指輪が見えるところもじわっと良い場面だった。口やかましい母と静かな父だが、しっかりと気持ちは通じ合っているし、お互いに信頼もある。そして旅立っていく子を見守る。そんな親に私はなりたい。


■「未来へ」旅立つ小太郎とそれを見守る両親

 クライマックスは母親が握った夜食のおにぎりを小太郎が食べるシーン。めちゃくちゃ地味だけど、これがめちゃくちゃ良い。原恵一監督のアニメ映画『カラフル』のクライマックスに、母親が主人公に鍋をよそうという非常に地味だけど胸に染みるシーンがあったことを思い出した。

 受験当日、まだ薄暗いうちから出かける息子を両親が早起きして世話をする。弁当を渡された小太郎の口から素直に「ありがとう」と感謝の言葉が出てきたとき、母親は一瞬驚くが、照れるように小太郎を送り出す。このあたりの呼吸の芝居も非常に『月がきれい』らしい。

 母の愛情と子どもの成長、旅立ちをテーマにした挿入歌のKiroro「未来へ」も実に合っていた。受験へと赴く小太郎が歩く姿を、父と母が見守る。歌詞は「未来へ向かって ゆっくりと歩いて行こう」だ。小太郎が進む先は、受験会場であり、彼自身の未来なのだ。両親は小太郎のことを頼もしく思いつつ、ほんの少し寂しさも感じていると思う。自分で未来を選んだ小太郎は、子どもから少しだけ大人になった。

 さて、泣いても笑っても来週が最終回。こうなったら思いっきりハッピーエンドが見たい! 
(文/大山くまお)

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