生音、生声、生歌。眉山山頂に一夜限りの夢の劇場──「COCOLORS」

生音、生声、生歌。眉山山頂に一夜限りの夢の劇場──「COCOLORS」

「COCOLORS」スペシャルコラボライブ上映風景。演奏も演技も、生の存在感がある黒子に徹していました

徳島を中心にしたアニメイベント「マチ★アソビ vol.17」で10月9日(日)、「COCOLORS」スペシャルコラボライブ上映が眉山山頂ステージで開催されました。

「COCOLORS(コカラス)」は、アニメーション制作会社・神風動画が制作するオリジナルアニメ作品で、広くは神風動画の「GASOLINE MASK」と呼ばれる映像プロジェクトに含まれる作品です。致死性の灰が降り注ぐ荒廃した世界の地下深く、謎の液体で満たされた分厚いマスクなしには生きられない少年たちのものがたりが描かれます。これまでのマチ★アソビでも制作状況が折りに触れ公開されてきた作品が、ついに完成を迎えて公開されました。

徳島空港などに掲出されたポスターには、その上映会がこう表現されていました。「映像×生音×生声 一夜限りの特別野外ライブ」。眉山山頂ステージの大スクリーンに無音の完成映像が流され、生バンドと歌手がライブで音楽を奏で、声優たちが生でアフレコを行なう。そんな途方もない完成披露プロジェクトを横嶋俊久監督に提案された時、声優事務所・マウスプロモーションの社長であり、音響監督でもある納谷さんはあっけにとられたとのこと。同時に横嶋監督もその時祈るような心地だったようで、何故ならこんな計画を受け入れてくれる可能性があるのは納谷さんしかおらず、こと徳島の眉山山頂という地でこのステージを実現可能な人もまた他にいなかったからです。

声優はマウスプロモーションから高田憂希さん・秦佐和子さん・岩中睦樹さん・市来光弘さん・桑原由気さん・高井舞香さん。演奏に阿部隆大さん・持山翔子さん・小山尚希さん・工藤明さん・栗林スミレさん・野崎心平さん、ボーカルにUyuさん。ACRYLICSTABとして活躍する阿部さんとUyuさん、今井麻美さんやももいろクローバーZなどのライブにもキーボードとして出演する持山翔子さんなど、マチ★アソビによく来る人が見ればマウスと納谷さんの周囲の音楽チームの総力を結集したように感じる顔ぶれです。

そんな最強メンバーに「COCOLORS」の世界観を表現するために必要な“ハングドラム”という特殊な楽器を演奏する栗林スミレさんが加わり、そして本来本格的なホールでなければ難しい大規模なライブセッティングを、ほんのさっきまで普通のステージイベントを行なっていた仮設ステージ上に突貫作業で組み上げる膨大な裏方スタッフが加わります。彼らは揃いのツナギを着たチーム「COCOLORS」。舞台準備ができあがるまでの時間は監督と、ここまで2日間ステージを仕切り続け走り回ってクタクタのはずの納谷さんがトークでつなぎます。

山頂の屋外でのライブ上映会のハードルは、ひとつは本来山の中の駐車場でしかないスペースに上映演奏環境を迅速に組み上げること。日が落ちて急激に気温が低下する屋外で、待ち続ける観客の前で万全の準備をするプレッシャーと焦りは想像に固くありません。

もうひとつは天候。雨風にさらされれば積み上げた準備が崩壊しかねないシチュエーションで、納谷社長が下した決断は雨が降ったら仕方がない、と割り切ることでした。考えても仕方ないことは考えない。それは破天荒ですが、マチ★アソビを立ち上げた当初の近藤光社長が繰り返し話していた原点の理念でもあります。もっとも、本当に豪雨の予報が動かせなくなった時、ありとあらゆる交渉とコネクションを総動員して、3日間のスケジュールを2日間で全消化して切り抜けたのもまた、マチ★アソビなのですが。

そうした後ろを顧みない全力の準備の結果、オンタイムよりも早い時間で完璧なセッティングができたのはちょっとした奇跡でしょう。天候は曇天。前日の灼熱が嘘のように冷え込み、コンクリートの上で耐える観客にはつらい環境ではありましたが、元々何もなかった場所に劇場は完成しました。

そこで演じられたのは、生アフレコとも舞台演劇ともまた違う、不思議な空間でした。意外なことに生演奏であることを意識する瞬間は数えるほどでした。生で奏でられる臨場感は極上で、役者さんたちと呼吸を合わせた演奏が生であるかはだんだん意識から消えて、ただ物語の世界に吸い込まれる感覚です。版画調の独特のタッチと色彩の世界にマッチするハングドラムの異質な響きが意識を撫でる時、クライマックスでUyuさんの透明な歌声が山間を吹き抜けたときなどにハッと生音生歌であることを改めて意識するぐらいです。

役者さんの演技に関して、納谷さんは今まで知っていると思っていた役者たちの表現の上限を軽々と超えてくると表現しました。その言葉を体現していたのがクライマックス、“フユ”を演じる秦佐和子さんの、存在そのものの灯火が薄れ消えていくような「静」の表現と、“アキ”を演じる高田憂希さんの加減を忘れた幼子のような、哀しみに押し潰される獣のような慟哭という「動」の表現でした。

アキの芝居を聞いた時、眉山山頂にこだわった監督の気持ちが少しわかった気がしました。この慟哭はどこに届いてもいけない。星のない曇天と、足元すら見えない木々の奥に吸い込まれていくのがふさわしいように思えました。

ちょっと長めの待ち時間の後、「COCOLORS」の世界に引きずり込まれた45分間。正直寒くてお腹が空いてはいましたが、あの場所にい続けたことを後悔した人はほとんどいなかったと信じます。映像収録はありませんでしたが、映像に記録したのでは伝わらない何かがそこにありました。願わくばいつか、再演を。ひとりでも多くの人の元に届けばいいなと思います。【取材・文=中里キリ、撮影=千葉研一】

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