福井の県立高校が全米チアダンス選手権で5連覇できた理由――最強部活の作り方

福井の県立高校が全米チアダンス選手権で5連覇できた理由――最強部活の作り方

©杉山ヒデキ/文藝春秋

 2016年から2017年にかけて、部活動の取材のため、全国の高校を訪ね歩いた。対象としたのは「日本一」の経験がある強豪校だ。

 取材先は26校に上ったが、特に強烈な体験を得ることとなったのは、福井県立福井商業高等学校に行った時のことだ。

「JETS」と命名された同校のチアリーダー部は、全日本学生チアダンス選手権(高校生編成・チアダンス部門)で優勝を重ねるだけでなく、毎年フロリダで開催される全米チアダンス選手権でも5連覇(2013〜2017)を果たしている。熱血女教師に導かれ、素人軍団が急成長する物語は『チア☆ダン 〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』として映画化もされているので、ご存知の方も少なくないだろう。

 天海祐希が演じた女性教師のモデルとなったのが、同部顧問の五十嵐裕子だ。「校則を守らない生徒たちの集まりだった」という旧バトン部を生まれ変わらせた五十嵐に、部の歴史や指導に対する考え方などを聞いた後、練習が行われる武道場へと移動した。

■自主性があってこそ急成長できる

 日本海側といえども6月はすでに暑かった。武道場にはタンクトップにショートパンツ姿の女子高校生たちがひしめいており、その空間に立ち入るのは一瞬ためらわれた。映画公開の影響もあってか、この年は30名以上もの1年生が入ってきたという話だった。

 勇気を出して一歩を踏み出し、端のほうに立って練習を見ていると、興味深い光景に出くわす。

 2、3年生は2人1組になって踊りの動きを繰り返し、お互いに気づいた点を常に指摘し合っている。一方、体育服姿の新入生は壁の一面に張られた鏡の前に正座で並んだ。そして始まったのが笑顔の練習。めいめいが歯を見せてニコッとした表情をつくり、指で口角を持ち上げてまで最高の笑顔を鏡に映しだそうと努力していた。応援、すなわち他人を元気にすることがチアダンスの原点だから、こうした笑顔づくりも競技の重要な要素なのだ。

■「私、自分でチアダンスを指導するつもりがないんですよ」

 途中、五十嵐が全員を呼び集めて話をする場面はあったが、ダンスに関して細々と技術指導をする様子はない。五十嵐はこう言っていた。

「私、自分でチアダンスを指導するつもりがないんですよ。どちらかというと、プロデューサー目線なんですね。組織論や経営学的なものは一生懸命勉強しますけど、餅は餅屋。トレーニングや踊りに関しては、専門的な方に来てもらったほうが早いですから」

 ダンスについては、全米初制覇メンバーのOGが外部コーチとして月に一度、指導しにやって来る。さらに普段の練習は、五十嵐の指示によって動くのではなく、生徒自身が切り盛りするシステムが確立されている。日ごとに練習リーダー(略して「練リ」)が割り当てられ、部員たちに指示を飛ばすのだ。

 ダンス未経験者だというある1年生(当時)はこう話す。

「最初はダンス経験のある1年生が練習を仕切っていたんですけど、経験者に頼り過ぎてるんじゃないかという話になって、私たちも1年生を仕切る練リを順番に担当するようにしました。先輩から指示をもらうこともありますし、苦手だと感じているところがあれば、そこを練習しようと自分から言ったり……」

 未経験であろうとも、入部してすぐに練習を任される。そうして育まれる自主性があってこそ、短い期間でも急成長できるというわけだ。

■習得中の演技を披露してくれた!

 それを思い知らされることになるのは、練習も後半に入ったころのこと。1年生たちが習得中の演技を披露してくれるという。

 衣装に着替え、西日の入る武道場に30人を超える部員たちがずらりと並ぶ。彼女らの視線は筆者ただ一人に注がれている。正直、目のやり場に困った。曲がかかり、振り回されるポンポンの風圧が感じられそうな距離で高校生たちは踊った。ぎこちなさの残る笑顔、上がりきらない脚……それはたしかに未完成だったが、心を揺さぶる何かがあった。

 一つには、振付の練習を始めて1カ月にしてここまでやれるのかという率直な驚きだった。先ほどの1年生も「自分って、こんなにできるんだなと思いました」と話していた。部活動という環境が若い力を引き出す現実を目の当たりにした思いだった。

 強く脳裏に刻まれたもう一つの感慨は、これもまた極めて単純なのだが、高校生の放つエネルギーのすさまじさである。チアダンスという、他者への働きかけが強い競技だったこともあって(それを我が身一つで浴びたこともあって)、10代の弾けんばかりのパワーにはただただ圧倒された。

 昨今、ブラック部活動という表現がしばしば使われるようになり、その持続可能性には疑問符がついている。日々の授業などでただでさえ多忙な教師に、長時間の部活動指導が任せきりになっている現状は、たしかに改善されなければならないと思う。

■「顧問=指導者」という常識に囚われない

 一方で、部活動を高校生活の大切な時間と位置づけ、それによって輝きを得ている生徒たちの姿を見ると、その価値を軽視してはならないとも思う。「顧問=指導者」という常識に囚われなかった五十嵐の手法は、部活動が健全な形で存続していくための一つのヒントなのかもしれない。

 JETSは今年、ある困難に直面した。5連覇中だった全米チアダンス選手権の主催者が方針を変更し、日本の高校の出場を認めず、目標としてきた6連覇がかなわぬ事態となったのだ。

 五十嵐は主催者の異なる全米大会を見つけ出し、これまでの実績をアピール。2月にラスベガスで開催される「JAMZ ALL STAR DANCE NATIONALS」への出場を認められた。舞台が変われば、評価基準もこれまでと同じとは限らない。10代目となったJETSの真価が問われるステージだった。

 結果は――優勝。

 異なる大会を制したことで、彼女たちの実力はより明確に証明されたと言えるだろう。

 踊りを知らなかった福井の高校生たちが、3年後には本場アメリカの観客を興奮させる。この事実もまた、部活動の底知れぬ可能性を示している。

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日比野恭三
1981年、宮崎県生まれ。2010〜16年まで『Number』編集部にて編集および執筆に従事。その後フリーになり、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを中心的なフィールドとして活動中。

(日比野 恭三)

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