「絶対諦めたらあかん!!」 スワローズ・奥村展征の引っ張る力

「絶対諦めたらあかん!!」 スワローズ・奥村展征の引っ張る力

全力で声を出し、全力で野球に打ち込む奥村展征 ©HISATO

※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2018」に届いた約120本を超える原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】HISATO(ひさと) 東京ヤクルトスワローズ KK歳
 スワローズ応援歴26年の燕女子。スワローズファンと結婚したつもりだったのに、どうもスワローズと結婚していたらしい。戸田と神宮と地方を行き来して一軍二軍を見守る日々。コラムは初心者ですが精一杯書きました。

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 先頃「スワローズイケメン大総選挙」が開催され、西武から来たばかりの田代将太郎がいきなり8位に入った。選挙自体の内容はともかく、あまりにも速い馴染み方に驚いた。本人が、というよりファンが受け入れる速さにだ。

 坂口智隆や近藤一樹もそうだった。外から来た選手をチームもファンも温かく受け入れる。選手はやがてしっかりと根付き貢献していく。「生え抜き感満載」の選手が、また次の選手を受け入れていく。スワローズにはそういうところがある。

■「生え抜き感」を持つ奥村展征の魅力

 ここに一人、特筆すべき「生え抜き感」を持つ選手がいる。イケメンランキング7位、奥村展征。出自を忘れるほど馴染んでいるのも当然で、プロ入りわずか1年後に巨人からやって来た。相川亮二のFA移籍に対する人的補償として、高卒2年目の野手が引き抜かれた驚きは忘れない。

 移籍後1年は腰の故障に苦しんだ。2016年に一軍昇格を果たすも無安打。2017年にようやく才能の片鱗を見せた。元々アベレージヒッターでパンチ力もあり、攻守バランスのいい選手だ。しかしファンが多いのはそれだけが理由ではない。もし知っていて獲得したならすごい。

 まず表情豊か。面白い。そして野球サラブレッドの家庭に育ったせいか、野球にも人にも礼儀がきちんとしていてとても気持ちがいい。ファンへの対応も真摯で、かといって真面目過ぎるわけでもない。お茶目で陽気で常に周りが明るくなる。そして、とにかく声を出す選手なのだ。全力で声を出し、全力で野球に打ち込む。彼に接した者は、そんな姿に惹かれ応援したくなる。奥村にインタビューに行った知人も「素晴らしい好青年」と魅了されて帰ってきた。「出来上がった人間性」と。

■宮本ヘッドコーチに極限までしごかれた日々

 プロ入り5年目。移籍後4年目。高卒だった奥村も大卒新人と同い年になった。転機にしたい今季だが、一軍に定着できず試行錯誤中だ。しかし簡単には引き下がれない理由がある。昨秋から球団に復帰した宮本慎也ヘッドコーチは、奥村にとってプリンスホテル時代の父の同僚で憧れの人だ。目標が目の前にある。奮い立たないわけがない。

 秋季キャンプから宮本ヘッドのスパルタは如何なく発揮された。守備と打撃を徹底的に叩き込む。必死に食らいつく奥村の姿がそこにあった。キャッチボールから「声を出せ」と言われ、皆かつてないほどに声を出し合う。厳しさの中にも活気が生まれる中、奥村は毎日人一倍声を張った。

 極限までしごかれる毎日。しかしその中でも、奥村の人間性は随所に見えた。それは立てなくなるほどの特守を終え疲労困憊しながらも、倒れ込んだ先輩に水を差し出す姿であったり、長い練習の最後に拍手をする観客に向かって「今日も応援ありがとうございました!」と頭を下げる姿であったりした。

■春季キャンプ中に見せた“熱い応援”

 ある場面が強く印象に残っている。Twitterで発信された春季キャンプでの動画だ。打撃練習の一環で、ロングティーを各自が打ち込む。箱一杯のボールを前に必死に柵越えを放とうとする選手の傍で、奥村が声を張り上げるのだ。

「一球集中!!」

 へとへとに疲れた廣岡大志の傍で、「休んでいいから! 絶対諦めたらあかん!」と大声をかける。声に応えるように、渾身の力を振り絞った廣岡が柵越えを放つ。雄平にも、荒木貴裕の傍でも、大声で応援する奥村展征。

「荒木さんの力が必要ですー!!」

 コーチや観客から笑いも起こるが、たとえパフォーマンスであろうと、熱い男に熱く応援されて、誰が手を抜けるものか。諦める選手がどこにいようか。

 奥村の声には力がある。その声を聞いて諦める者などいない。選手もファンも。

 あれ以来、試合でどんなに点を取られて負けていようと、もう駄目だと思う前に、脳裏に声が鳴り響く。

「絶対諦めたらあかん!!」

 諦めない心を体現するように、奥村が9回2死からヒットを打つ姿を見た。気迫のヘッドスライディングも何度も見た。奥村の声は、チームを、ファンを鼓舞し続ける。96敗シーズンの昨季、奥村、山崎、廣岡ら若手が育ってきたことは、未来へ繋がる希望だった。敗戦続きでともすれば凍えてしまいそうな心に、細々と火を灯し続けてくれていたのは、奥村の熱い声と熱いプレイだった。励まされたたくさんのファンが、今も奥村を神宮で待っている。

 スワローズにもやがて世代交代の波が来るだろう。チームはまた低迷するかもしれない。だが、育ち始めた芽は、一気に花開く可能性も秘めている。大砲候補の廣岡大志、村上宗隆。俊足好打の山崎晃大朗。期待の高卒投手たち、寺島成輝、梅野雄吾、高橋奎二。次世代には楽しみな個性が揃っている。さて彼らの中心になるようなキャプテンシーのある選手は誰か。奥村ほど、ファンも含めたチームに気を配り、人を惹き付け、盛り上げられる選手がいるだろうか。今は技術も成績も至らないが、いずれは青木宣親のように、プレイでもメンタルでも言葉でも皆を引っ張る選手になれる。そう思えるのだ。

 光り輝く次世代の星たちの真ん中に、太陽のように明るく強い、奥村展征を置きたい。それがしっくり来ると思うのは、きっと私だけではないだろう。

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(HISATO)

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