眠れない夜を過ごし……リベンジに燃える西武・中村剛也の思い

眠れない夜を過ごし……リベンジに燃える西武・中村剛也の思い

8月10日の楽天戦で6試合連続本塁打を放ち、プロ野球記録まであと「1」にせまった中村剛也 ©文藝春秋

 間もなく2018シーズンも100試合を迎え、終盤戦へと突入する。途中、何度か2位・日本ハムにゲーム差0.0に迫られたことはあったが、ここまで首位を一度も明け渡していない西武は、球宴後からの後半戦、再びギアを上げた感がある。

 そこで気付くのが、活躍選手の名前が、よりバラエティーに富むようになったことだ。高橋光成投手、今井達投手、齊藤大将投手など、将来を背負って立つであろうエース候補たちが復活、台頭により戦力として加わったこと。さらに、新外国人ヒース投手が新たな抑えに据えられたことは何よりの収穫だ。

 だが、それ以上にチームを勢いづけているのが、雪辱に燃える選手たちの奮闘である。

「前半戦は迷惑ばかりをかけた。後半戦こそは、チームの力になりたい」
 
 彼らの言葉から、プレーから伝わってくるその思いが、結果を生み出していることは間違いない。

■目を覚ました本塁打者・中村剛也

 中でも、中村剛也選手の覚醒は、影響力もインパクトも、あまりに大きい。「もう一度、レギュラーを取れるように。再出発という気持ちで」と満を持して挑んだ今季だったが、開幕から思うように結果は振るわず。加えて、最も避けたかった怪我にも見舞われ、4月22日に登録抹消をされた。ファームでの時間、リハビリと再調整をする中で、試行錯誤し、6月1日に一軍復帰。それでも、すぐには結果が出なかった。結局、オールスター前までの成績は全78試合中35試合出場、打率.171、5本塁打に止まった。決して、感情を大きく表に出すタイプではないため、結果が出ない悔しさや苛立ちを見せることはほとんどなかったと言っていい。

 だが、以前インタビューをさせていただいた際、「(三振や凡打で)ベンチに戻るまでの間は、結構“無”ですね。で、戻っている途中ぐらいからイラついてきて、ベンチに戻って、手袋を外した時に『あ〜、ムカつくな〜』ってなる。家でも、ふとした時や寝る前に、野球のことを考えます。それで、寝られない時もあります」と話していたことを思うと、この前半戦の成績がどれだけ苦しかったことか。眠れない夜をどれだけ過ごしたのだろうと、勝手ながら想像してしまう。

 しかし、そんな自分から逃げず、現在の己と向き合い、変革を決断し、取り組んだことで、今、再びその才能の非凡さを大いに魅せつけている。後半戦は、20試合の全試合に三塁手で先発出場し、打率.333、安打数25本のうちの13本が本塁打という驚異的な数字を残しているのである。しかも、パ・リーグ記録に並ぶ6試合連続ホームラン中と(8月10日終了現在)、まさに量産体制だ。

 シーズン前、「今季のキーマン」として、中村選手の名を挙げていた辻発彦監督は改めて語る。「あいつがサードできちんと座ってくれないと、うちの打線は組めない。本人は決して口には出さないけど、今年はファームに行ったり、試合にずっと出られない時があったりした中で、自分の中でモヤモヤするものが相当あったと思う。年齢とともに自分のバッティングも変えていかなければいけない、進化しなければいけないというところでも、絶対に気持ちは変わってきてると思う。練習の取り組みを見ていても、だいぶ変わったなぁと思って見ていたが、それが結果に出てきた。サンペイ(中村選手の愛称)の活躍は、本当にありがたいよ」。

“獅子脅し打線”と、指揮官が命名した今季ライオンズ打線の中で、中村選手はここまで7番ないし8番に座ることが多い。野手、投手に限らず、チームメイト全員が口をそろえる。「一番ホームランを打つ選手が7、8番って……エグい! 味方で本当によかった」。

 球界屈指の本塁打者が眠っていた前半戦でさえ、12球団屈指の打力を誇ってきた。そこに加え、キングが本格的にお目覚めだ。果たして、チームとして、また、中村選手個人としても、この先どれだけの破壊力で、我々ファンを魅了してくれるだろうか。想像すればするほど、ワクワク感は高まるばかりだ。

 それでも、背番号『60』は、ヒーローインタビューの後ですら、淡々と話す。「バッティングはすぐに崩れるので、これからも1打席1打席、ちゃんと考えながら打席に立ちたい。前半戦、全然、何もできなかった。その分、これから何とか打ちたいと思って毎日やっています」。

 数年前の契約更改の場で「日本で最強打者になりたい」と宣言した言葉を、筆者は密かに信じ続けている。自身も納得の形で、“最強”を証明してくれる日の訪れを心待ちにしている。

■リベンジ誓う2人の投手の意地と執念

 もう1つ、後半戦の充実した戦いぶりの要因として欠かせないのが、平井克典投手、野田昇吾投手の安定感だ。彼らもまた、前半戦で苦汁を飲まされた面々である。どちらも昨季に結果を残し、今季は開幕時から勝ちパターンで起用されるほど信頼を得ていただけに、期待に応えられなかった悔しさ、汚名返上への思いは、とてつもなく大きかった。

 特に2年目の平井投手は、セットアッパーという重要な役割を担っていた。自身の状態も、「特に悪くなかった」。だからこそ、なおさら、一時防御率5.82まで打ち込まれた現状が「しんどかった。どんな状況でも、試合はきますし、任された以上、逃げちゃいけない立場ではあったのですが、『また今日も、投げたら打たれるんだろうなぁ』と思うと、球場に行くのが怖かったです」。6月11日、ファーム行きを通達されると、もう一度冷静に立ち返り、抑えていた頃の映像と現状の自分を徹底的に比較。すると、「ボール1、2個分高いことが一目瞭然でした。今年は、去年より明らかにスピードが出ていることもデータで出ていて、自分の中で、『まっすぐで押せる。力で押せる』と、ちょっと勘違いしてしまっていた自分がいました。力任せで投げていた分、球も浮いていたんだと思います」。今一度、謙虚になり、「まずは、僕の基本である、まっすぐを低めに、丁寧に投げる」意識を取り戻すことに専念した。それが奏功し、6月22日に一軍再昇格してからは、完全復調。後半戦はここまで10試合に登板し、失点1、防御率1.00と抜群の安定感を披露し続けている。

 また、野田投手も、オールスター前後では、防御率3.79と1.42と、良化は明らか。この2人の安定によって、チームもスムーズなゲーム運びができているのである。(数字はいずれも8月10日終了現在)

 12球団屈指の打線を味方につけ、さぞや心強いのでは? と尋ねると、両投手から、賛同の声とともに、「その反面、悔しさもある」との、少し意外な回答が返ってきた。真意を、平井投手は次のように語る。「どうしても周りからは『野手に助けてもらっているチーム』と言われているので。だから、後半戦は『投手が助けている』と思われるような試合をしていきたい」。同様に、野田投手も「後半戦は(立場を)逆転したい」と闘志を燃やす。

 8月3日の日本ハム戦で、菊池雄星投手が7回のマウンド2死を奪ったところで交代を告げられた。ベンチに戻り、グラブを叩きつけて悔しさを露わにした日本一左腕の姿に、指揮官は「あれぐらいあっていい。むしろ、嬉しいぐらい」だと、勝利への執念とエースのプライドを讃えた。6月、故障から復帰した背番号16は、きっぱりと言った。「4、5月と、本調子ではなくて、中継ぎ陣にも野手の方にも助けてもらって、勝たせてもらってきた。だからこそ、これからは僕がみんなを助けられるような投球をしたい」。

「このままでは終われない」「チームの優勝に貢献したい」。そんな、リベンジ誓う選手たちの意地と執念も戦力の1つに加わった西武。10年ぶりの悲願達成へ向け、勝利への渇望はますます高まるばかりだ。

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(上岡 真里江)

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