原作ファンを裏切った真利子監督の“宮本愛”!! エンドマークなき閉幕『宮本から君へ』第12話

原作ファンを裏切った真利子監督の“宮本愛”!! エンドマークなき閉幕『宮本から君へ』第12話

テレビ東京系『宮本から君へ』番組サイトより

 池松壮亮演じる主人公・宮本浩が勤めている弱小文具メーカーは、まるでサッカーW杯で優勝を遂げたかのような大騒ぎです。大手製薬会社へのクリアファイル納品のプレゼン結果が伝えられ、「ありがとうございます!」と涙ながらに絶叫する宮本を見て、みんな奇跡が起きたとばかりにクラッカーを鳴らして、祝福します。新米サラリーマン・宮本が最後の大暴走を見せた『宮本から君へ』(テレビ東京系)第12話を振り返りましょう。

(前回までのレビューはこちらから)

 文具問屋の安達(高橋和也)から、宮本の携帯電話に連絡が入りました。同僚の田島(柄本時生)らはコンペに勝ったと勘違いして大喜びしますが、残念ながらコンペには破れ、益戸(浅香航大)のいる大手文具メーカーが納品することに正式決定したのでした。小田課長(星田英利)に「勝っても負けても、結果を噛み締めたい」とサウナで全裸宣言していた宮本は、全力を尽くしても敗者となった結果をとことん噛み締めます。誰も宮本に声を掛けられずにいる中、岡崎部長(古舘寛治)が歩み寄り、「けじめだ。これを持って、朝いちでお詫びにいけ」と商品券の入った紙包みを渡します。お土産や金券を用意して、相手のご機嫌をとる営業スタイルは宮本がずっと拒んできたものですが、岡崎部長はそれを命じたのです。宮本が大暴走の末、手に入れた結果です。どんなにつらくても、この結果を噛み締めるしかありません。

 翌朝、大手製薬会社との仲介役だった「ワカムラ文具」の島貫部長(酒井敏也)のもとに、宮本は一連の騒ぎの謝罪に向かいます。先輩の神保(松山ケンイチ)と小田課長も付き添っていますが、宮本はひとりで詫びに行かせてくださいと頼みます。自分のケツは自分でぬぐいたいという宮本のこだわりでした。小田課長は「無駄骨も喰おうと思えば喰える」と、宮本を「ワカムラ文具」へと送り出します。本当、宮本は上司と先輩に恵まれています。

 島貫部長のいる営業部のドアをノックしようとした瞬間、島貫にいつもお茶汲みを命じられている女子社員の富永ちゃん(桜まゆみ)が出てきました。富永ちゃんは宮本がコンペに破れた真相を打ち明けます。宮本の土下座攻勢に島貫部長は根負けして見積書を書いたと思いきや、島貫は見積書の金額を宮本の提示額よりも高く設定して、大手製薬会社に送っていたのでした。何というタヌキ親父ぶりでしょうか。怒りで震える宮本ですが、宮本が島貫を敵に回したことにも責任があります。意を決した宮本がドアを開けると、島貫だけでなく、コンペに勝ったお礼を伝えにきた益戸も待ち構えていました。宮本が上司を誰も連れていないことに、島貫は顔をこわばらせます。営業先が再び修羅場と化していきます。

 宮本はスーツの内ポケットに手を入れたまま、ツカツカと島貫のいるデスクの前まで進みます。これが菅原文太か高倉健ならチャカかドスをギラリと取り出すところですが、一介のサラリーマンである宮本は残念ながら拳銃も刃物も持ち合わせていません。岡崎部長から渡された商品券を渡すのか? いや、宮本が内ポケットから出したのは、「営業 宮本浩」と記された一枚の名刺でした。「ふざけているのか!」と顔を真っ赤にした島貫に対し、宮本は執拗に名刺を差し出します。「名刺」という名のとおり、宮本浩という名前を何度も何度も島貫に突き刺そうとするのでした。見かねた益戸が宮本を後ろから羽交い締めにしながら「転職しろ! お前には営業は無理だ!!」と諭します。宮本とは水と油の関係だった益戸ですが、宮本のこれからのことを親身になって考えた上での本音だったような気がします。

■ズタボロの宮本の前に現われたヒロインは……?

 しがない中小企業の営業マンたちの熱い祭りは終わりました。宮本の過剰な情熱なら、もしかしたらビジネスの常識を覆すことができるかもしれないと信じた小田課長と神保でしたが、彼らの一瞬の夢も潰えて、日常業務へと戻ることになります。神保はこの負け戦を最後に、新会社を設立しなくてはいけません。「ドン・キホーテ」という、あまりにも自虐的な店名のカラオケパブで、慰労会を開く宮本、神保、小田課長の3人でした。

 何ひとつ思いどおりに物事が進まないことにフラストレーションが溜まっている宮本は、隣席のサラリーマンがぶつかったことをきちんと謝らないことに腹を立てます。自分も島貫に詫びを入れることができなかったのに、他人の不手際はカチンとくるものです。宮本はこの頭を下げることのできないサラリーマンと殴り合いのケンカを始めますが、相手はボクシング経験者で宮本は血だるまにされてしまいます。宮本も殴り返すものの、むしろそのことが宮本は頭にきます。ボクシング経験者なら、初心者のパンチは簡単に避けることができるはず。宮本は「ボクサーなら、俺のパンチをかわせよ」と叫びますが、「僕も、ただのサラリーマンです、ボクサーじゃありません」と相手は冷静に返すのでした。日々の業務に鬱屈を感じているのは宮本だけではありません。酔っぱらい同士のケンカでも、宮本はみじめに完敗を喫するのでした。

 全力を出し切れば、満足できる結果が待っていると信じて、ここまで突っ走ってきた宮本ですが、残念ながら入社して1年ちょいのサラリーマンが1週間そこら頑張ったことに報いるほど、世間は甘くありません。身も心もズタボロになった宮本がひとりで夜の外濠公園を歩いていると、そこには夜空を眺めている子どもたちがいました。大都会・東京でも晴れた夜にはシリウスやベガなどの明るい星を見つけることができるようです。ふと目をやると、子どもたちの横には甲田美沙子(華村あすか)が佇んでいました。以前、外濠公園で転んだ子どもに手を差し伸べていた美沙子と、またまた遭遇してしまったのです。美沙子は相変わらずキュートなルックスで、思わず声を掛ける宮本でした。

■視聴者を置いてけぼりにした驚愕の幕切れ

 4月からスタートした『宮本から君へ』は第12話となる今回が最終回です。コンペに破れた宮本は、原作どおり年上のOL・中野靖子(蒼井優)との仲を深め、これからの希望を感じさせるエンディングになるのだろうと予測していたのでしたが、真利子哲也監督はそんな原作ファンの期待をあっけなく破りました。第1話から第11話までずっと新井英樹の原作コミックに忠実に映像化してきた真利子監督は、熟考に熟考を重ねた挙げ句、最後の最後で暴走してみせたのです。人生のどん底にいる宮本の前に、包容力のある大人の女・靖子ではなく、過去の女・美沙子を出すのでは意味合いがまったく異なります。

 再会を果たした宮本と美沙子はバーに立ち寄り、カクテルを傾けながら近況を伝え合います。美沙子と付き合っていたのは、わずか数カ月前のことなのに、ずいぶん昔のことのように思えてきます。美沙子には酷い捨てられ方をした宮本ですが、昔と同じような笑顔を浮かべる美沙子を見ているとどうでもよくなってきます。美沙子は甘く囁きます。「私たちあのまま付き合っていたら、どうなっていたかな。相性はよかったんだよ」と。美沙子とは1回だけSEXした直後に別れたのですが、美沙子は「相性はよかった」と証言しているので、SEXが別れた原因ではなかったようです。宮本ならずとも男性視聴者がホッとした瞬間です。

 美沙子は宮本を捨てて、元カレとヨリを戻したわけですが、結局はまたそのカレに捨てられたそうです。捨てられた翌日に宮本と遭遇したので、美沙子は宮本こそが自分にとっての“運命の人”だと感じているようです。美沙子をもう一度抱いて、仕事の悔しさを忘れればいいじゃないか。これは一生懸命頑張った自分への、神さまからのご褒美に違いない。宮本の頭の中には、そんな考えが去来したことでしょう。ですが、宮本は棚から落ちてきたボタモチは決して口にしようとはしません。自分の手で掴み取って豪快に食べてこそのボタモチなのです。

宮本「ぶっ殺すぞ! このクソったれ女! 俺とてめえの関係は憎むか惚れるかの二つに一つだ。どっちだ、不幸美人さんよお! てめーがいい顔すれば、誰だって尻尾振ると思ってんのか!?」

 バーを出た宮本はあらん限りの暴言で、追いすがろうとする美沙子を罵倒し尽くします。つらいことがあるとどうしても身近な男性に依存してしまう美沙子に対する、宮本なりの精一杯のエールでした。「宮本さんのバカッ!」という美沙子の怒声を背中に浴び、宮本は「くそ! くそ!」とつぶやきながら夜の街へと消えていくのでした――。

「えっ、これが終わり?」と多くの視聴者が驚いたTVドラマ版『宮本から君へ』のエンディングです。原作コミックの三分の一も消化できていないので、第2シーズン、第3シーズンに期待を寄せる声もネットには上がっています。本編そのものには「終わり」とも「完」とも打たれていませんが、でもTVドラマ版『宮本から君へ』はこのブツ切れ感ある終わり方がやはりベストでしょう。靖子でも美沙子でも、宮本が異性との恋愛に生きる希望を見出しての終わり方では、宮本が美沙子に誘われて会社をサボって海へ出掛けた第3話の頃からちっとも成長していないことになるからです。人間はそう簡単には成長しません。でも、宮本はどん底の中で辛酸を舐め尽くすことで、さらにパワーアップした猛烈な暴走をいつかまた見せてくれるはずです。

 孤高の漫画家・新井英樹の会社員時代の体験をベースにした原作コミック『宮本から君へ』ですが、実際に新井英樹は飯田橋にあった文具メーカーを1年2カ月で辞め、漫画家へと転職します。『宮本から君へ』で長編デビューを果たして以降、その過激さに拍車が掛かり、漫画史に残る『愛しのアイリーン』(安田顕主演映画として、9月14日より劇場公開)や『ザ・ワールド・イズ・マイン』といった大暴走ドラマを生み出すことになるのです。

 池松壮亮が全力で演じ切った宮本浩は、結局は仕事も恋愛も何ひとつうまく収まりませんでしたが、そのガムシャラな暴走ぶりは、まるで夜空を彩る流れ星のように観る者の心に焼き付きました。そして、夜の街へと人知れず消えていきました。宮本が残したものは一体、何だったのでしょう? 職場や飲み会の席で、受け取ったり、差し出す名刺が、今後はこれまでになく重く感じられるのではないでしょうか。とてもちっぽけだけど、名刺一枚分の熱さと重さを視聴者に伝えて、宮本は去っていったように思います。3カ月間にわたる大暴走の熱い余韻を残し、宮本浩は伝説のサラリーマンとなったのです。
(文=長野辰次)

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