新宿署の刑事が自分に恋情を抱く女を逮捕するために、瀬戸内海へ

新宿署の刑事が自分に恋情を抱く女を逮捕するために、瀬戸内海へ

『新宿警察』(藤原審爾 著)

 世の新刊書評欄では取り上げられない、5年前・10年前の傑作、あるいはスルーされてしまった傑作から、徹夜必至の面白本を、熱くお勧めします。

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 個人としての幸せを捨て、社会に奉仕するために働くことを選んだ究極の職業人。それこそが刑事だと信じた藤原審爾は東京・新宿を舞台に、愛すべき男たちの闘いを描き続けた。その『新宿警察』シリーズは、日本における警察小説の最も偉大な祖型であり、頂点でもある。

 新宿署の根来(ねごろ)刑事の元に、凶報が届いた。かつて彼が逮捕した凶悪犯、山本が脱獄したというのだ。根来を憎悪する山本は、ライフル銃を携えて潜伏した。自分を刑務所に送った男をあの世に送るために(「復讐の論理」)。

 シリーズの主人公は、新宿署きっての敏腕刑事・根来だ。自分に淡い恋情を抱く女をはるばる瀬戸内海まで逮捕しに行くことになる「ズベ公おかつ」のようにロマンスを感じさせる話もあるのだが、基本的に根来に私生活はない。すべてを刑事という職業に捧げているからだ。「復讐の論理」では、唯一の肉親である妹の登志子までが山本によって命を狙われることになる。

 根来を囲む新宿署の面々も魅力的な人間揃いだ。戦前からの叩き上げで後輩からの信が篤い徳田は、無軌道な若者が起こした騒ぎを描く「新宿ゴキブリ」で人生の練達者らしい姿勢を示した。猪突猛進型で普段は考えるよりも行動するほうが得意な山辺がちらりと弱みを見せる「慈悲の報酬」は、刑事の厳しい現実を生々しく書いた逸品である。

 スリル溢れる捜査小説「真夜中の狩人」から都会人の哀感溢れる「新宿裏町小唄」まで内容は多彩であり、どの作品でも登場人物たちの肖像と事件の顛末とが鮮やかに浮かび上がってくる。三長篇・五十七短篇のすべてが必読と言っていいだろう。電子書籍の全集で読むことができるのでぜひお試しを。(恋)

(徹夜本研究会/週刊文春 2018年9月20日号)

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