ベイスターズ暗黒時代の応援歌「ライジング」は、なぜ生まれ変わったのか

ベイスターズ暗黒時代の応援歌「ライジング」は、なぜ生まれ変わったのか

9月22日、球団史上初めてシーズン主催試合の観客動員数が200万人に到達したベイスターズ

 ハマスタの電光掲示板ほどステキなものはないとつくづく思うのだ。

 あの場所には、ベイスターズの選手が打席に入ると不思議な数字が映し出される。相手投手やチームとの対戦成績、前回の打席、最近5試合の成績……等々、相手投手が完封ペースの投球を続けていても、大量の点差で負けていたとしても、毎回毎回、重箱の隅という隅をほじくり返してでも“実は打てますぜ”という有利な情報を出してくれるのだ。たとえそれが1打数1安打みたいな容易く千切れる希望の糸でも、「対メッセンジャー打率10割」と見れば、“いけるんじゃないか”とその気にさせられてしまうもの。執念深いマイナス思考が情けないほど染みついてるおじさんが、あの数字にどれだけ前を向かせてもらったか。

 物事は捉え方ひとつだ。受け手の捉え方や見方の角度で、不安も期待に変わる。

■チャンステーマ「ライジング」に込められた思い

 昔から秋のベイスターズはおそらく強かった。数字とか調べたわけじゃないが実感として確かな手応えがある。消化試合の帳尻合わせ。100敗ペースで負け続け、最下位が続いていた頃でも、秋口に優勝やCS争いをするチームに勝っては「余計な事しやがって」という罵声を何度か浴びた。余計なものなどひとつもありゃしないのだ。筒香の初本塁打も、国吉の快投も、この時期にあった歴史的な出来事。毎年オフに楽しい夢が見れたのも、この季節のおかげだとも思っている。

 あの頃。正確にいえば2010年頃だろうか。「ライジング」という応援歌が生まれた。分類上はチャンステーマになるのだろうが、チャンスとは名ばかり。試合終盤大差のビハインドで。序盤での大量失点で。追いつかない程度の反撃のお供に。大型連敗時にはプレーボール一発目から演ってみたりと、球場全体が“覆しがたい絶望”に飲み込まれそうになったとき……すなわち、あの時代のほぼ全ての試合でその曲は発動していたような気がする。

「あの頃はスタンドが空席だらけだったけど、バカみたいに一生懸命応援している人たちがいたんですよ。周りから『そんなに負けてんのに、何で必死に応援してるの?』とか冷笑されてもね。そういう人たちがまた明日も前を向けるようにしたい。そして、チームに蔓延る沈み切った悪い流れをどうにかして変えたい。選手の心に火を点ける切っ掛けを作りたい。そのためには、選手にばっかり求めてるんじゃなくて、俺たちから変わっていかなければいけないんじゃないか。という思いを込めて作ったんですよ」

 ライジングを作詞した「横浜ベイスターズを愛する会」の団長谷口雅也さんが言う。彼が「当時心にあった思いを率直に書いた」という歌詞は以下の通りだ。

Let‘s Go Bay 不器用で カッコ悪くても 選手を信じ 声を枯らし
Let‘s Go Bay  変えてゆく 俺たちが変える 想いよ届け 君の下へ

熱く 熱く 熱く 立ち上がれ

 改めて歌詞を書き出してみると……やはり複雑な心境が蘇る。

 なんて純粋で健気な詩であろうか。「かっとばせ」も「ホームラン」もない。何があっても信じているから、ただ戦う姿勢を見せてくれと願う。ささやかだ。ささやかな願いだ。おじさんはこの曲を聞くと、条件反射で涙が溢れてくるベイスターズの犬となってしまう。

■あまりにも負けが込んでいた特殊な時代であったが故に……

 しかし、この詩は受け方によって、いろんな解釈ができてしまうのだ。故にあの頃のファンであり、選手の中にはダイスキという人もいれば、嫌悪感を示す人も少なくはなかった。

 本来は「どんな逆境でも俺たちは現状を変えられると信じて愚直に頑張るあなたを応援する。この想い届いてくれ」という訳であることはわかる。だが、チーム状態が悪い方へ転がりはじめると、その歌詞は怒りと諦観を吸収しながら暗黒面へとトランスフォームして行く。一例をあげれば「不器用でカッコ悪い」は主語が“選手”から“信じて応援する自分”に変わり、届けという「想い」も負け続けていると一体どんな想いだと不穏になってくる。この曲が掛かると「俺たちは帰る」と言ってハマスタを後にする友人もいたなぁ。

「僕は終始一貫してポジティブな曲のつもりなんですけどね。まぁ、あの時の状況じゃ周りは『そうですか』と素直に受け入れてくれないわけです。『また諦めた』とか『出た、ヤケクソ!』なんてよく冷やかされました。応援団が諦めるわけないですよ。ヤケクソは……正直ちょっとはあったけど」

 ライジングはその特異な発動条件故なのか。いつしか勝負を諦めた時点で掛かる「負けテーマ」と囁かれるようになり、「ヤケチャンテ(ヤケクソのチャンステーマ)」なんて俗称も囁かれるようにもなった。

 あまりにも負けが込んでいた特殊な時代の特殊すぎる状況の曲。全員が全員「悪霊退散悪霊退散、流れよ変われ、流れよ変われ」と修験者の如く一心不乱に唱え続けたのだ。戦中派の人たちが軍歌を聞いて涙を流すかのように、苦労時代の歌ってやつは、思い入れが強くなりすぎる。平和が訪れると、人によっては様々な思いが去来するのもしょうがない。

 だが、2012年。戦争が終わり、DeNAという進駐軍がやってきた。次第にチームに光明が見え始めて来ると、ライジングは戦時歌謡の如く使用頻度が極端に少なくなっていく。

■「ライジングは生まれ変われる」

「俺の中では『もう、あの曲の時代ではなくなった』ということで、ライジングは応援の選択肢からも外していたんです。よっぽどのことがない限りね」

 ある意味でライジングを使わなくなったことが、ベイスターズが変わったことの証でもあった。

 2018年。優勝を目指してはじまったシーズンで、ベイスターズはBクラスにあえいでいた。左腕王国といわれた3本柱は軒並み成績を落とし、昨年固まったはずのセンターラインはあえなく崩壊。梶谷もケガで離脱し、優勝は絶望的。CSも微妙という状況で後半戦に入る。

 8月27日。全国星覇会、横浜ベイスターズを愛する会の二団体が公式ブログとFacebookで、それぞれに「ライジング」を積極的に使用することを宣言。

 続く9月6日。今度は球団がペナント最終1カ月のスローガンとして「VICTORY is within US.  熱く、熱く、立ち上がる。」を発表した。

 球団が公式でライジングを発動させたのである。

 賛否は当然分かれた。若いファンの反応は概ね好意的だったが、反対派のほとんどはあの時代を知るコアファン。「何故、負けテーマを今やるのか」「暗黒を思い出させる」「大嫌い!」など寄せられる予想以上の反響に球団側も戸惑ったという。そして改めて調べれば調べるほど、様々な思いを持つ人がいることを知り『使ってはいけない曲だったんじゃないか……』と不安になっていく。球団からライジングの使用を持ちかけられた谷口氏ですら当初はまだ複雑な思いがあったというのだから無理もない。

 だが、一方で両者には確信に近い思いがあった。

「ライジングは生まれ変われる」と。

■時代とともに変わった解釈

 切っ掛けは7月22日の阪神戦だった。

 3−11とリードされて敗色濃厚となった9回裏。リードに立った全国星覇会・倉橋氏は、ライジングを選択する。最終回の8点差。それでもベイスターズは佐野、中川、楠本らのタイムリーで4点を返す粘りを見せる。スタンドの熱がどんどん大きくなり、一体となっていく。試合は11対7で敗れたが、その声量に、一体感に、ベイ愛の谷口氏は震えた。

「あの時のライジングは過去最高のライジングでした。スタンドが見事に一体になって、絶対に諦めないという雰囲気がぐいぐい伝わってきて……リードを取っていた倉橋に嫉妬しました。やるなぁって言いましたもん。その時思ったのが、みんなライジングの根底にある想いを、ずっと心の傍に置きながら応援してきたのかなって。そう思ったんです」

 この時の最終回のスタンドを、球団の担当者も同じような思いで見ていた。試合後、すぐに応援団の下へ行くと熱い思いを訴えていたそうだ。

「ライジングは変われます。この曲は勘違いされているので、正しい解釈に戻したい。シーズンで言えばこれからの季節は、ビハインドでの終盤になります。この曲と同じ状況です。積極的に使っていきませんか?」

 時代や背景が変われば、解釈なんて変わっていく。

 ガラガラの球場で半べそ掻きながら歌っていたライジングが、今、満員の球場で大きな合唱となっている。おそらく、主語である“俺たち”の解釈はもっと大きなものになっているのだろう。

「応援ってものはどんどん育っていくもの。最初は『たとえ俺一人でも変えてやる』って思いでも、今は昔からのファンも新しいファンも一緒になってこの厳しい状況を変えていくという思いになっている。球団の熱意も伝わってくるし、選手たちが本気で前を向いてやっていることもわかる。こんな時代が来るなんてね」。

 生まれ変わったライジングが発動してからの成績は12勝5敗。今年一年。ずっと悪い流れの泥濘で足掻いていたベイスターズが、ついに単独3位まで上がってきたのだ。もはや、負けテーマでもヤケチャンテでもない。

 秋のベイスターズは強い。ひとつになったベイスターズはもっと強い。

 まずは今日の東京ドームでの巨人との最終決戦。おじさんは信じてる。

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(ベイスターズおじさん)

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