もしも岡本和真がいなかったら、どんな気分でペナントを見ていたのだろうか?

もしも岡本和真がいなかったら、どんな気分でペナントを見ていたのだろうか?

今季、4番打者として大きな成長を遂げた岡本和真 ©時事通信社

 広島V3!

 新幹線の車内でスーツ姿のおじさんが広げるスポーツ新聞にはそんな見出しが躍る。この原稿は、カープがセ・リーグ3連覇を決めた翌日、そして東京ドームで村田修一の来場セレモニーが開催される前日にのぞみの座席で書いている。

 今年も素直にカープは強かったなあ……なんつってレッドブルを飲みながら、気持ちはすっかり28日に東京ドームの巨人対DeNA戦で行われる村田さんのセレモニーに向いている。もしかしたら、「一度クビにしたくせに」と突っ込むマスコミもあるかもしれない。でも、突然の自由契約で昨秋のファンフェスタに村田さんは来れなかった。つまり、巨人ファンと前背番号25はちゃんと別れを言えてない。こんな気まずい終わり方より、最後はお互い笑って「別れても友達でいましょ」って握手できた方がいいと思う。将来的にコーチとしても戻りやすくなるし……とは言っても、あれだけの実績があれば「今さらなんだよ」とか意地になってもおかしくないところを、東京ドームに来場までしてくれるなんて大人だ。男・村田というより、大人・村田。俺はそんな村田さんが好きだった。

 この手のセレモニーやイベントはやってもやらなくても文句を言う人は言う。引退試合にしてもそうだ。全員が満足なんてことはない。今日はどさくさにまぎれて正直に書いちゃうと、個人的に巨人主催試合で行われる人文字アートを作る“アランチョ・ネロ”や“オレンジアフロ配布”にはまったく魅力は感じない。でも、普段それはSNS等で言わないようにしている。なぜなら、自分のように「年間数十試合は球場観戦する30代男性」は最初からそういうイベントの対象じゃないからだ。だって、放っておいてもドームへ行くんだから。

 なんか楽しそうとオレンジアフロをきっかけに新規ファンが球場へ出かけ、固定客になってくれるならそれでいい。今の世の中、あらゆるものに怒り狂ってる人もいるが「果たして、自分がその対象なのか?」は冷静に判断したい。一歩間違うと、ラーメン屋に入って「オヤジ、カルボナーラ食わせろ」なんて要求する意味不明な客になりかねない。それは野球ファンじゃなく、ただの野球クレーマーだ。

■背番号25を継承した「4番岡本」の覚醒

 前置きが長くなったが、今回の村田さんセレモニーを実現できた一因は、背番号25を継承した岡本和真の成長にある。だって、これで期待のスラッガーが昨年と同じく打率1割台で2軍暮らしみたいな状況だったら、シーズン中にヒステリックな“村田待望論”が噴出して、それどころじゃなかったはずだから。岡本は村田をしっかり過去にした。プロ4年目の今季は春季キャンプで二岡打撃コーチとスイングの軌道を見直し、春先から好調をキープ。6月2日のオリックス戦から第89代4番打者に座り、「138試合 打率.307 31本塁打 95打点 OPS.929」という堂々たる成績を残している。

 途中、32打席無安打や右手親指に死球を受けて21打席無安打があった時も由伸監督は岡本を4番から動かさなかった。ああ見えて、由伸さんは良くも悪くも頑固だ。気まぐれな外国人選手の扱いは相変わらず不器用だし、就任1年目にはどんなに批判されようが長野久義を2カ月近く4番で使い続けた。同じように2018年は22歳の実力と可能性を信じ、巨人の4番を託した。長嶋茂雄は松井秀喜を育て、原辰徳は坂本勇人の才能に懸け、高橋由伸は岡本和真を信じたわけだ。

 反省を込めて懺悔すると、数年前、唐突に外野起用されている岡本を見た時「これは巨人では大成できないかもな」と思ったのは事実だ。というのも、その数カ月前に当時の2軍監督にインタビューした際、「彼はずっと三塁手で育てますよ!」なんて力強く宣言したのを目の前で聞いていたから。大田泰示の反省がまったく生きていない。その場しのぎの一貫性のない育成プランには驚き呆れてしまった。しかし、今季は1軍で覚悟を決めて新25番を中軸に据えた。色々言われることも多い由伸監督だが、これは間違いなく功績のひとつだろう。

■期待される巨人生え抜き右打者初の記録

 2018年の巨人は勝率5割に届かず、DeNAとの3位争いがやっとという状態だ。それでも、我慢してペナントを追えるのはこの男の存在が大きい。たとえ、広島に大差をつけられようと「岡本が3割30本クリアできそうだからまあいっか」。救援陣が毎度おなじみの炎上をかまそうが「岡本がホームラン打ったからまあいっか」。スマホを落として画面が割れても「岡本が育ったからまあいっか」ともはやなんだかよく分からないけど、多くの巨人ファンは新4番バッターに救われている。もしも岡本和真がいなかったら、俺らはどんな気分でペナントを見ていたのだろうか? 想像しただけでゾッとする。

 でも、冷静に考えると年間7完封のエース菅野がいて、打率リーグ2位のショート坂本がいて、さらに岡本が出てきたにもかかわらず、優勝とは程遠いリアル。仮に14勝8敗の菅野が19勝3敗でもカープには届かない。現に背番号19が沢村賞を始め投手タイトルを総なめにした昨季もチームは4位だった。野球はひとりの力じゃどうにもならない。例えば、田中将大が24勝0敗と神がかった連勝記録を作った13年シーズンの楽天にも15勝を挙げたルーキー則本昂大がいた。だから、菅野もオフにはチームの底上げを目指し海外自主トレに多くの後輩投手を連れて行ったのではないだろうか。

 1年前、巨人では若手野手が育たないと散々突っ込まれていたが、今年はその発展途上の若手がそれなりに育った。でも、それだけじゃ勝てなかった。育成と補強、どっちかじゃない。どっちもバランスよく上手くやるのが編成の仕事だ。強力打線の広島や西武が生え抜きを並べているからと右へ倣えじゃなく、巨人は巨人のやり方で再建すればいい。チーム背景はそれぞれ違う。10年前、スタメンに由伸やガッツ小笠原のビッグネーム、それに若き亀井や坂本がバランスよく並んだあの感じこそひとつの理想じゃないかと個人的には思う。

 今も「個」では何人か素晴らしい選手がいる。彼らをベースにいかにチームを再構築するか。残念ながら故障離脱してしまったが、そのポテンシャルが開花しつつある吉川尚輝がショートを守れれば、坂本の身体の負担を考えキャプテンの将来的な三塁転向も現実味を帯びる。ルーキーキャッチャー大城の成長が打線の厚みに直結する。なにより、岡本という今後10年はクリーンアップを託せそうな和製大砲が出現した。巨人で過去に40発放った右打者は小久保裕紀やラミレスといった移籍組だ。長嶋さんも、原さんも、坂本も生え抜き右打者は誰もその壁を突破できていない。だから、来季の岡本には誰も届かなかった「40本の壁」をぶち破ってほしい。
 
 野球界の時の流れは早い。あの頃、しのぎを削ったライバル落合中日の黄金期を支えたベテラン陣が続々と引退。頼れる杉内俊哉も愛すべき矢野謙次も現役に別れを告げ、原巨人の中心選手たちも終わりが近い。球界全体でも本当に今季は多くの時間をワリカンした名選手たちが引退してしまった。平成という時代にももうすぐサヨナラだ。寂しさがないと言ったら嘘になる。けど、不思議と未来に絶望はない。

 だって、確かに岡本和真の時代が始まったのだから。

<追記>
 28日夜、東京ドームには村田修一が来場した。特製タオルは開場30分ほどで完売し、スーツ姿でグラウンドのマイクの前に立ち挨拶。9回裏に長野のサヨナラ弾で決着がついた試合後は、巨人時代の応援歌、そして横浜時代の応援歌が流れる中を場内一周へ。リズムに合わせ涙を流しながら自ら拳を振り上げちゃう人の良さに、降り注ぐ拍手と大歓声。その背中は、まさに“男・村田”というより“大人・村田”だった。そう、37歳のひとりの大人だ。これからも頑張れ、村田さん。いつの時代も、引退セレモニーは、戦いを終えたプロ野球選手が「普通のおじさん」に戻る儀式である。

 See you baseball freak……

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(プロ野球死亡遊戯)

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