カープ3連覇で思い出した、あの日の黒田博樹のこと

カープ3連覇で思い出した、あの日の黒田博樹のこと

2016年に現役を引退したの黒田博樹 ©文藝春秋

 2018年9月26日、Mazda Zoom-Zoom スタジアム。広島東洋カープは球団初のリーグ3連覇を成し遂げた。V9おめでとうございます。ありがとうございます。

 優勝してすぐのタイミングでコラムの順番が回ってくるとは私は持っているのかいないのか。コラムが好評なら持っている、だめなら……持ってない、と。所詮勝ちか負けか。対戦式野球コラムだから。そうか。

 今シーズンの優勝は苦しかった。カープは強力な優勝候補とあげられたが、しかし開幕から何人もの怪我人、続出した不調な選手たち、交流戦は苦手に逆戻り。新井さんの引退表明も逆ブーストになり「新井さん! チームを置いて行かないで」状態に。マジックの最後はヤクルトが負けたから減ってくれたパターンが増えた。実にしんどい優勝だった。連覇とはかくも困難なのか。2017年も去年よりしんどいなあと思った。25年ぶりの2016年の優勝がいちばんすんなりいったのではないだろうか。皮肉なことに。

■思い出したのは、あの日の黒田博樹の姿

 優勝の瞬間を観るべくテレビの前にいたとき、思い出していたのは東京ドームでの黒田博樹だった。25年ぶりの優勝の日の黒田ではない。その更に1年前の東京ドームのマウンド。2015年6月30日、完封勝ち目前でのサヨナラ負けをくらった黒田だ。

 私はその頃野球の応援席漫画を描いていたこともあり、各球場ホーム、ビジターかまわず様々な席を購入し観戦していた。あの日の東京ドームは初めて女性専用席「ガールズジャイアンツシート」に座った。席がピンク色の場所で漫画の参考にと写真を撮りまくって、そして黒田の好投を観て、0−0の展開にはらはらしていた。特別な席なので試合後にグラウンドに降りてその日のヒーローインタビューに登場した選手と記念写真を撮ってもらえるという特典がある。8回前に指定された場所に集合して試合終了を待つのだ。

 グラウンドからの写真も撮れるならと取材魂で私は7回裏に席を立ち、集合場所へ向かった。そのとき大歓声がカープ側から聞こえた。丸がソロホームランを打ったのだ! スコアボードに初めて1が入った。私は嬉しくて笑いながら走ったと思う。集合場所は地下のモニターひとつがぽつんとあるコンクリートの暗い部屋だった。

 当たり前だが、ガールズジャイアンツのイベントなので私以外は全員巨人ファンだ。特典のある席を選んで買う皆さんだから見るからに熱烈なファンだった。好きな巨人選手のユニフォームを着てグッズを手に持ってはしゃいでいる。私だけ普通の服にカメラだけ持ってうつむいていた。失礼になるけぇカープが勝った瞬間の笑みを隠さねば、と。1点勝っとるんじゃけ。

 可愛いチアの女の子2人が来て「一緒にここから巨人を応援しましょう!」と場を盛り上げ、加えて球団職員の男性が「このあと! サヨナラして! 皆さんグラウンドに行きましょー!」と畳みかけた。コンクリートの部屋はキャーッという応援の声が響き渡り、9回裏の巨人の攻撃をモニターで見守る形となった。

 黒田は投球数100球を越えていたが続投を志願しマウンドに立った、日本復帰後の初完封もかかっていた。1死、あと2人。

 そして。同点タイムリーを打たれ、犠飛でサヨナラ。

■試合後、どうしてもマウンドに登れなかった

 きゃあああああと悲鳴のような歓声に包まれた待機場所は立ち上がった巨人ファンの歓喜のステップとハイタッチで揺れた。ひとり、立てずにうずくまったままの私。

「さあ、グラウンドに行きましょー!」とにこやかに誘導する職員さんに「はーい!!」と満面笑みで続く集団、押されるように私もグラウンドに出た。残ったライトの巨人応援団は浮かれて応援歌を繰り返し歌っていた。イベント参加者みんな嬉しそうにグラウンドを歩く。私はぼそぼそと写真を撮った。はしっこにある用具の写真を這いつくばって撮ったりしたので、警備員さんから不審な目で見られた。多くのファンはマウンドにあがり、お互いを写真に撮っていた、投げる真似をしたり、土をさわったり。

 私は、どうしてもマウンドに登れなかった。だって! つい数分前まで黒田がいたんだよ! そこに。サヨナラをくらった黒田が。負けた彼がいた土を私は踏めなかった、どうしても。近くまで行ったがそこまでだった。つらくて涙が出た。こんな日にジャイアンツシートを買ってしまう自分。なんて巡り合わせだ、と。

 その1年後。優勝を決める日に黒田は先発した。東京ドーム2016年9月10日。私は三塁側2階席でその瞬間を迎えた。奇しくも最後の打者はサヨナラ犠飛を打った亀井選手であった。巡り合わせなのか、これも?

 あの日のサヨナラ負けがあったから同じ場所での優勝は更に意味を持った。この優勝のためにあの日負けたのかと思うほどに。

 勝ちは負けと共にある。同じ球場で負け、勝ち、同じマウンドで打たれ、抑え、同じバッターボックスで三振し、ヒットを打つ。

 負けに意味はない、だけど勝ちの裏にある負けには意味がある。

■どんな巡り合わせでも戦うしかない

 万年Bクラス5位が定位置、その時代を支えてくれた選手たちもきっと優勝の同じ場所にいたと思いたい。負けが勝ちを支えていると思わずにやってられるか25年。優勝を知らないまま去った選手のなんと多かったことか。暗黒と言われた時代にカープで戦ってくれてありがとう。応援すらしんどい時代、戦っている選手はどれほどもどかしかったか。

 東京ドームで14連敗なんてね、ナゴヤドームでも勝てなくてね、ああ、どこでも負けていたんだった、借金しかなかった。でも好きなままだったよカープ。

 負けた黒田が1年後同じマウンドで優勝投手になる、そんな美しいことってある? 信じられない夢が運命の巡り合わせで現実になった日々をカープファンは選手と共有できた。

 実はこのコラムの順番は事情があって入れ替わった。私は本日更新分ではなかった。優勝の日がまだわからないうちに変更があったのだ、これもまたなんという巡り合わせだろう。できれば杉作監督に書いて欲しかったと震えたが、人生はそういうものだと野球も仕事も教えてくれる。びっくりしている暇はない、次の戦いがあるのだ。思い出せCS敗退を。どんな巡り合わせでも戦うしかないのだ。戦え広島東洋カープ。応援する。これからどんな運命の采配があろうとも。

 来シーズンはもっと苦しくなるんでしょう? 胃が痛くなるんでしょう? 大丈夫、25年越えたファンには3連覇という胃薬がある。苦しいからこそ、また優勝が甘いはず。知ってる。4連覇いこう。

 ちなみに、サヨナラくらったジャイアンツイベントの選手との記念写真。明るい巨人ファン数十人の後ろでひとり、首が斜めになっているのが私です。自分の頭すら真っすぐにできなかったあの哀傷の日。痛みを覚えているからこそ心から言える。

 おめでとう、3連覇。

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(石田 敦子)

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