福良さんありがとう。オリックス最終戦、アホみたいに泣いた

福良さんありがとう。オリックス最終戦、アホみたいに泣いた

試合前にメンバー表を交換する福良監督と栗山監督

 7回裏、宮西尚生が出てきた。敵地・京セラドームのオリックス最終戦だ。宮西は昨日、打たれたばかりだ。このところ2戦連続でリリーフに失敗、負け投手になっている。さすがの鉄腕も疲れの色は隠せない。僕はテレビの前で正座だ。宮西たのむぞ。先頭の大城滉二にけっこういい当たりをされたが、センター西川遥輝が好捕。ふうっと息をついたら「J SPORTS?STADIUM」の実況席がのんびりした話を始めた。

大前一樹アナ「まぁ、このままこの人がこの回しっかり抑えて、チームが勝ちますとホールドポイントが325ということになって、プロ野球記録ということになって来るんですよ」

解説の野田浩司さん「あぁ……。ホールドポイントが出来たのは何年前でしょうね。彼がデビューしたときはおそらくもう出来てますよね?」

大前アナ「それはもう出来てますね」

野田さん「そうですよね。だからそこはもう(救援登板の記録は)全部含んでるわけですよね。2000年代前半ぐらいじゃないですかね。僕は2000年で引退したんですけど、たぶん2000年はなかったと思うんです」

大前アナ「あ、そうですか!」

野田さん「その後だと思うんですよね、たぶん」

 その間、伏見寅威がセカンドゴロでアウトになってるわけだが、僕はちょっと面白くなっちゃって緊張感が切れた。「いやー90年代でしょ。初代ホールド王、島崎毅でしょ」とツッコミを入れる。グリーンスタジアムでイチローに打たれたじゃん。ビジター中継はやっぱりテンションが違うんだなぁ。僕らのようにハラハラしていないんだ。「宮西尚生が2戦連続で試合を壊す非常事態」がピンと来ないだろうし、敢えてここで宮西を使った意図がピンと来ない。だからすっかり雑談モードなんだ。

■「何にも盛り上がらない記録達成の瞬間」の切なさ

 宗に代わって代打・飯田大祐が出てきたところで、さすがに訂正が入った。「調べましたら、ホールドの仕組みが出来たのはパ・リーグが先で96年だそうです」「あ、そうですか。すいませんウソばっかり言いました(笑)」。誤解なきようにお願いしたいのだが、僕はこののんきな感じをぜんぜん責めてない。むしろ過剰にピリピリしていた自分に気づいて、頭をかくような感じだ。こっちばっかり入れ込んでるけど客観的に見たら消化試合なのかもしれないなぁ。

 ただ何となく不安なのは大前アナがさっき言った「チームが勝ちますと」だった。飯田がセカンドゴロを打ったとき、ちょうど「同点の場合でもホールドはつくんですよね」という話が出ていて、そのまま「飯田が倒れてスリーアウト、宮西今日のゲームは7回を三者凡退に抑えました。ゲームは終盤7回を終わっています」と締めた。で、CM明けても特にプロ野球記録達成の言及はなし。これはカン違いですよね。(勝ってる状態で次の投手に渡せば)その後、チームが負けたってホールドはつきます。したがってホールドポイントの単独新記録325はたった今、達成されたんだけど、何にも盛り上がらない。結局、試合終了まで(ファイターズが勝った場合にホールドがつくという)カン違いが続いていた。

 これは何なのかというと秋の気配だと思う。シーズンがもう終わる。試合が淡泊になる。実況クルーも身が入らない。Aクラス、Bクラスはほぼ決まってしまった。野田浩司さんにも大前アナにも、ミスをわざわざ言挙げするようなことになってまことに申し訳ないのだが、僕はこの「何にも盛り上がらない記録達成の瞬間」に、ものすごく感傷的な気持ちになって、あぁ、シーズン本当に終わるんだ、もう取り返しがつかないんだとしんみりした。

 僕ら野球バカは野球から出られなくなってしまう。シーズンの大勢が決しても、まだまだミラクルが起こるかもしれないと考える。個人の記録達成を(頼まれもしないのに)願っている。それも宮西の325ホールドポイントみたいな大記録だけじゃない。清宮2割に乗せないかなぁ的な、本人も気にしてないようなことをひたすら考える。夜中、あと何打席で何本ヒット打てばちょうど2割に乗るなんて電卓で計算する。清宮の活躍を願うのは本心だけど、実際問題、これは野球から出たくないのだ。

■栗山監督の名参謀だった福良さん

 試合が進んで9回表、オリックスベンチでは好投した東明大貴(7回6被安打2失点)に福良淳一監督がずっと何か話している。福良さんは今季限りの退任を発表された。東明に伝えておきたいことがあるのだろう。

 9回裏、ファイターズのマウンドは守護神、石川直也だ。すっかりたくましくなった。性格も切り替えがきいてクローザー向きだ。多少失点してもそこから粘れるようになった。要は勝てばいいんだ。この日もT-岡田に12号ソロを打たれ、ヒヤッとさせたが、1点差を守り切り、2対1の勝利。

 試合が終わった。栗山英樹監督が福良さんのもとへ駆け寄って握手する。それから中田翔が出てきた。帽子を取って挨拶する。福良さんはにこやかに握手して、ポンポンと中田の肩を叩く。これはまいった。アホみたいに涙が出てくる。

 福良さんは栗山監督の名参謀だった。1年目、監督経験のない栗山さんの考えを先読みして、やりやすいように先手先手で現場をまわしていった。栗山さんが気がつかないところは全部福良さんが拾っていった。福良さんは全体が見える人なんだ。現場の叩き上げだ。人のこともていねいに見る。中田翔は高校の恩師に対するような表情をした。だって鎌ヶ谷の2軍監督だったもんな。

■みんな、野球から出て行かないでくれ

 この日、引退会見をした小谷野栄一はこう語った。

「今日もゆっくりお話しする機会つくってくださって、さっきも病気のことも言いましたし、いちばん大変だったときにいちばん近くで見守ってくださって、支えてくださって、こういう人になりたいって。福良さんと出会ってなかったら、こんなに野球やれなかったと思うんで……」

 パニック障害を抱え、プレーはおろか外出も出来なくなった小谷野を見守り、ひとつずつやれることをつくってやって、2軍戦で打席に向かえないでいれば、審判に言って少し時間をもらったり、本当に細やかな気遣いをされていた。小谷野は「人のいいところを見られる人」「憧れというか尊敬する存在」と語る。

 福良さん辞めないでくれよ。小谷野も辞めないでくれよ。矢野謙次辞めないでくれよ。石井裕也辞めないでくれよ。松井稼頭央も、大隣憲司も、新井貴浩も、後藤武敏も、杉内俊哉も、浅尾拓也も、岩瀬仁紀も、荒木雅博も、みんな書ききれないよ。野球を終わらせないでくれ。野球から出て行かないでくれ。

 テレビを消してベランダに出たんだ。見事な月だ。虫の声だ。今夜、ファイターズはCS進出を確定させた。西武は連勝が続いている。もう、どうしたって届かない。もうすぐ9月が終わるんだよ。

附記 :宮西投手のホールドポイント日本新記録達成の瞬間に関して、「交代完了のタイミングではないか?」というご指摘をいただきました。なるほど、それはそうですね。(文中、CM明けの)8回表ハムの攻撃時点では、まだ宮西投手が回またぎする可能性が残ります。だから正しくは8回裏、浦野投手が登板し、継投が成立して「ホールド確定」ですね。ありがとうございます。

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(えのきど いちろう)

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