胸躍る夏八木勲の情念の芝居、驚きの名作発見!――春日太一の木曜邦画劇場

胸躍る夏八木勲の情念の芝居、驚きの名作発見!――春日太一の木曜邦画劇場

2003年作品(121分)/ケイエスエス/レンタルあり

 なんだ、この映画は――!

 何も事前の情報なく触れた作品でそんな驚きに出くわすのは、映画ファンにとっての一つの楽しみであるだろう。

 ただ、これだけ情報が氾濫している現代、しかも筆者が専門にしている旧作の場合は事前情報がゼロの状態で観るのは困難といえる。ただ、それでも時おり「なんだ――?」となる出会いも訪れたりする。

 今回取り上げる『人斬り銀次』が、そんな一本だ。

 この作品を見つけたのは、数年前のこと。とある中古ビデオ屋の閉店セールで、レンタル落ちと思しき本作のDVDパッケージが目に入り、足が止まったのだ。そこには大好きな夏八木勲が、スーツ姿に日本刀をぶら下げて大写しになっていた。驚いた。公開は二〇〇三年。夏八木がこれだけ大々的にフィーチャーされる、という状況が当時まず考えられなかったからだ。

 そして驚きは、まだある。夏八木の横には特攻隊員の軍服に身を包んだ竹内力。これまた日本刀を構えている。夏八木ファンとして恥ずかしい話だが、本作の存在を知らなかった筆者は、全く内容が想像できないミステリアスなパッケージに見入っていた。そして気づけば、レジに運んでいた。どんな内容か、早く知りたい。その一心だった。

 戦後間もない頃に多くの愚連隊をその刃にかけ逮捕された元特攻隊の主人公・銀次。物語は彼が五十年後に出所するところから始まり、過去と現在を交差させながら進んでいく。そして、過去の銀次を竹内が、現在の銀次を夏八木が演じているのだが、夏八木がとにかく凄い。

 銀次はホームレスとして暮らすのだが、この時の夏八木の放つ、老いてボロボロに疲れ果て、生気も覇気もまるでなく、生きているだけでも辛そうな雰囲気。そして何も語らず誰とも接さず、ただひたすら川面に向かって坐禅を組む姿の哀愁。戦争で全てを失った男の背負った孤独な人生がそこにいるだけで伝わり、とにかく画(え)になっていた。

 もちろん、そのまま終わるはずはない。平穏に暮らしたい――それだけを望む銀次に対して、五十年前の因縁が立ちはだかり、銀次は陰謀に巻き込まれていく。ここからの夏八木がまた最高だ。襲いくる大量の敵を相手にした殺陣(たて)の迫力、眼光の鋭さ。その一方での「過去の亡霊たち」と対峙した時の狂気じみた苦悶の表情。序盤から一転してのギラついた様は、往年の夏八木の野性味を彷彿とさせるものがあり、ファンとしては胸を終始躍らせることになった。

 約二時間、ひたすら夏八木による情念の芝居を堪能できる素敵な一本。よもやの驚きの名作に出会えた。

(春日 太一/週刊文春 2018年10月4日号)

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