テレビにはまだ夢はあるのか? フジテレビ『567↑8』で行われた“レジェンドディレクター”片岡飛鳥の「血の伝承」

テレビにはまだ夢はあるのか? フジテレビ『567↑8』で行われた“レジェンドディレクター”片岡飛鳥の「血の伝承」

『567↑8』 TVerより

「ついにフジテレビ、“あたおか”になったね」

 江頭2:50は自身のYouTubeチャンネル「エガちゃんねる」(21年3月28日配信)でそのように語った。

 なんとフジテレビが「エガちゃんねる」とのコラボ企画を申し込んできたというのだ。放送時間は2時間半。江頭にとっては3年ぶりのフジテレビ出演。しかもメインキャストとしての出演だ。さらにはナレーションには、江頭のファンということで、山田孝之が立候補して務めてくれることになった。

 そしてもっとも注目すべきは、演出(クレジット上では企画構成)を務めるのが『めちゃ×2イケてるッ!』の総監督・片岡飛鳥だということだ。『めちゃイケ』終了後は、我が家のYouTube番組「我が家・杉山の悪口を1000個いただくまで帰れない酒場」を作ったことはあったが、テレビでは鳴りを潜めていた片岡。彼にとっても実に3年ぶりにテレビ番組を手掛けることになったのだ。

■「休んでいる間、ずっと牙を研いでいたってことがわかった」

 片岡飛鳥は、筆者が行った「文春オンライン」での インタビュー連載 で、『めちゃイケ』を「汗や涙どころじゃなくて、なんかもう、血の味が混じっているような」番組だと形容し、その番組が終わって1年の時点では「前線から外れたのに『俺がまた!』っていうのも違う、とは思っていて……なぜならフジテレビも変わろうとしている大事なタイミングですから、今の自分はでしゃばるべきじゃない」と心境を吐露していた(以下、片岡飛鳥の発言は当該連載のもの)。その一方で今後やりたいこととして「フジテレビの“新たなブランド”を作って、“新たなファン”を獲得できるディレクターを育てること。育てるというか自分の教わってきたことは伝えておく」ことだと語っている。

 その第一歩が『567↑8』(フジテレビ)と名付けられたこの番組なのだろう。

『めちゃイケ』が終わって「どんな感じだろう」と疑っていた部分もあったという江頭は3年ぶりに対面した片岡について以下のようにその印象を語っている。

「緻密だったねえ、職人だったねえ。イカれてたでしょ? 休んでいる間、ずっと牙を研いでいたってことがわかった。俺にも、ものすごく厳しかったねぇ」(「エガちゃんねる」=前出)

 3月29日深夜、『567↑8』は始まった。

■「ウソは絶対ダメ」と語る江頭が…

 ある日の「エガちゃんねる」収録後、私服姿の江頭2:50が、地下駐車場から愛車プリウスで帰ろうとした刹那、「8ちゃんねる」を名乗る「ブリーフ団」風の男が車にぶつかってくる。車から出てきた江頭を集団でそのまま拉致。いかにも『めちゃイケ』感のある演出。「ついに、片岡飛鳥が動き出した!」とワクワクするオープニングだった。

 フジテレビの若手ディレクター6人からなる「8ちゃんねる」の面々は「エガちゃんねる」と自分たちの作ったVTRのコラボを希望し、一度、江頭に観てほしいという。

 強引なやり方に「お前らふざけんじゃねえよ。もうそういうのやめようぜ」と抗議する江頭に「江頭さんこそ、そういうのもうやめませんか? ここまでの流れ、全部台本通りじゃないですか」と暴露する「8ちゃんねる」。「ちょっと待ってよ。そういうの言っちゃうの?」と困惑する江頭に「それを言わないでやることのほうが僕らの世代にとっては古いのかなって。駐車場とかも全部台本通りじゃないですか」と明かしてしまうのだ。

 江頭もYouTubeでも「ウソ」は絶対ダメだと語る。だが、「お言葉を返すようですけど、さっき僕らと一緒にウソを全力でやって」と指摘された江頭は「だからそれはウソじゃなくて、“設定”じゃん…」と弱々しく反論する。

■“ウソ”が前提だと“ホント”の部分を探すようになる「嘘席食堂」

 それを受けるように「テレビの中にウソはあってもいいですよね?」と企画されたのが、かまいたちがMCの「嘘席食堂」だ。もちろん『相席食堂』(ABC)のパロディで、ド深夜の番組とは思えないほどしっかりセットが作られているところからも、力の入れようが伝わってくる。ディレクターは「K」こと、2012年入社の玉野鼓太郎。

 テレビの「ウソ」は視聴者に嫌われる。

 バラエティのウソはひとつ残らず探し出され、許されないことが多い。けれど「みなさん、テレビのウソを探すのにそろそろ疲れていませんか?」という主旨で、「ぼる塾・田辺さんの打ち合わせは実は結構、細かい」、「金子恵美は実は夫のことを許してない」といった全編が「ウソ」という前提のVTRが流れる。

 そうやって「ウソ」が前提のVTRを観ていると不思議な現象が起こる。その中に垣間見る「ホント」の部分を探すようになるのだ。テレビは本来、虚実皮膜を行き来するのが面白さのひとつだ。『めちゃイケ』はまさにそういう番組だった。だが、いつしか「虚」が蔑まれ、「実」ばかりが尊ばれるようになった。けれど本当は「虚」があるからこそ「実」がより面白くなるのだ。

■演者とディレクターの相性が光る「ハイパーハードボイルドひとリポート」

「H」こと2020年入社の新人・原田和実はまだADだが、今回大抜擢され、劇団ひとりの虚実入り交じったフェイクドキュメンタリーを制作。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(テレビ東京)ならぬ「ハイパーハードボイルドひとリポート」だ。

 劇団ひとりは「売れたくない」とうそぶき、タクシーの運転手を恫喝したり、楽屋の洗面台で大便をしようとしたり、朝の番組のインタビュー中にブチギレしたりと「売れる」ためには必須の「好感度」を度外視した振る舞いを繰り返す。

 サインを求める親子に対し、色紙を折り曲げ拒否するとディレクターが「さすがに今のはないんじゃないですか?」と抗議。言い合いになり、お互いが手を出しケンカになってしまう。劇団ひとりもそんなやりとりにノッているのがよくわかる。

 そのVTRを観て江頭は「ディレクターとの関係って色々あってさ、演者とディレクターには相性があると思うんだよ」と語り始める。片岡飛鳥は自分を追い込んでくれる存在だと例を挙げた上で「そういう演者とディレクターの関係、大切にしてって言いたい」などと熱く語る。「ちょっと語りすぎたかな」と照れ笑いを浮かべる江頭が新鮮だった。

■コロナ禍ゆえの不謹慎「ゼロ-1グランプリ」

 出色だったのはコロナ禍での賞レースを謳った「ゼロ-1グランプリ」。制作したのは「T」こと2009年入社の角山僚祐。司会は遠藤章造と西野未姫。審査員は黒沢かずこ、ハチミツ二郎、松村邦洋、ウエストランド井口、海原はるかという最初はなぜこのメンバーなのか不思議に思ってしまうようなメンツ。

 周りが企画に全乗っかりの中、井口だけが「この大会、何すか?」と困惑しながら「僕、審査員? 実績も残してないのに」と疑問を呈す。すると「年末にきっちり実績は残していますよ」と遠藤。ハチミツも「厚生労働省が実績認めているよ」と補足。そう、司会・審査員全員がコロナ感染の判定が「positive」だった経験がある人たちなのだ。

 “決勝進出者”は、おいでやすこが、サンシャイン池崎、なかやまきんに君、阿佐ヶ谷姉妹、ひょっこりはん、ハリウッドザコシショウといった、大声や歌声など「音」が重要な芸人たち。だが、飛沫防止の観点からマスクを付ける代わりに声を出してはいけないというルール。それでもハリウッドザコシショウを筆頭にサイレント状態でも十分に面白く、審査コメントもハチミツが「痺れましたね。いまでも痺れているんですけどね、左手が」など巧みにコロナをネタにする。不謹慎スレスレを攻めた名企画だった。VTRを観た江頭も刺激を受け、自らも「ゼロ-1」スタイルでネタを披露するのだ。

■クレームが来るのは、“突き抜けなかった”時

『めちゃイケ』はクレームを受けることが少なくない番組だったが片岡飛鳥は、クレームが来た時は「自分たちが面白いと思うことを表現したつもりが、“突き抜けなかった”」と反省していたという。“突き抜けなかった”、ということは「面白さが足りなかった」ということであり「あまり笑えなかった」ということで、すなわち「後味がよくなかった」ということだと。

「僕自身は番組というのは作り手の価値観から始まるべきだと考えています。まずはディレクターの見方とか考え方で『こういうことが面白いと思う』っていうのが投影され、そこに演者やスタッフが共鳴しあって、思いっきり世にぶつけていく。うまくいけばそのオリジナリティが見た人の記憶に残り、うまくいけば『面白かったから次も見よう』という気持ちにつながっていく、みたいなイメージですかね。その“突き抜ける”感じがないと、他の人が作る番組と何がどう違うんだってことになってしまう」

 今回の「ゼロ-1グランプリ」は不謹慎という誹りを受けるかもしれない種類の企画かもしれないが、「突き抜けた」面白さが確かにあった。

「テレビっていうのはブランド商売だから、そこを戻すには新たなブランド性があって、新たに顧客の信用を得るしかない」と片岡は言う。ただ、その打開策は「そこそこ面白い番組をつくって、そこそこの視聴率をとりにいく」ということではない。「当たり外れはあるだろうけど、もっと“変な番組”が出てくることが必要」なのだ、と。

『567↑8』はまさに企画によって「当たり外れ」はあっただろう。けれど「変」な番組には違いなかった。

 片岡飛鳥からフジテレビの若いディレクターたちに“血”の伝承が確かに行われてきている。

■江頭がディレクターへ読み上げた「手紙」

 江頭は最後に「手紙」を読み上げた。

「マジメじゃなきゃお笑いは作れないって今日のVTRを見てつくづく思いました。お前たちがこれからもマジメに作っていけば、きっと新しい『8ちゃんねる』になっていくと思います。その途中で俺みたいに人からバカだと思われたり、理解されずに嫌われることを恐れずに突き進んでください。俺の好きな言葉に『99人に嫌われても、1人が笑ったらそれで勝ちじゃねえか』というのがありますが、人間、マジメにさえやっていればそれを観ている人がいていつかきっと受け入れてもらえると思います」

 マジメに狂った笑いをやり続けた江頭ならではの説得力がある言葉だ。その一方で「エガちゃんねる」へのコラボは「全員不合格」の判定をくだした。

「なぜならお前たちは人が通った道を行くよりも、自分で道を切り開いていくべきディレクターだからです」

 それは江頭の口から伝えられた片岡飛鳥からのメッセージでもあるだろう。フジテレビに脈々と流れる“血”を受け継ぎつつ、先人の模倣ではなく、「自分」でしか作れない表現をしていくことでしか、未来は切り開くことはできない。かつて江頭は「1クールのレギュラーより1回の伝説」という至言を残しているが、この『567↑8』のような挑戦は「一夜限りの“伝説”」で終わらせてはならない。

 江頭は最後にこう叫んだ。

「テレビはまだまだ夢あるぜー!」

(てれびのスキマ)

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