“漫画でもでき過ぎ”ソダシの奇跡 なぜこれまで「強い白毛馬」がいなかったのか?

“漫画でもでき過ぎ”ソダシの奇跡 なぜこれまで「強い白毛馬」がいなかったのか?

桜花賞を制した白毛馬ソダシ

 ソダシが桜花賞を制した。

 白毛馬によるクラシック優勝は、世界初のこと。しかも自身初めてとなるクラシック出走で成し遂げた快挙だった。

 人目を惹く白毛馬による偉業は、競馬という枠を超えて大きく注目され、その日19時からの『NHKニュース7』でも報じられた。桜花賞とはいえ、競馬の結果が同番組で取り上げられるのは極めてまれなことだ。

■いままで“強い白毛”がいなかった理由

 ではなぜ、強い白毛馬がこれまで現れなかったのか?

「1990年代までに生まれた日本の競走馬の中でも白毛は圧倒的に少なく、8頭だけです(突然変異4、遺伝4)。そのうち中央競馬で走った4頭は、すべて未勝利に終わりました。白毛は弱い、白毛は走らない。そういったイメージがついたのは、この頃の印象でしょう。種牡馬や繁殖牝馬になれた白毛馬にしても、白毛の遺伝の有無など実験的な目的が主で、必ずしも強い馬を作る意味ではありませんでした。結局、絶対数が少ないので、強い白毛馬が出る確率も非常に低かったのです」(『日刊スポーツ』レース部長の岡山俊明氏)

 2000年以降となると昨年までに32頭の白毛が生まれているが、それでも他の毛色に比べればまだまだ希少だ。

 遺伝にせよ突然変異にせよ、白毛として生まれ競走馬として登録されたサラブレッドが他の毛色に比べて虚弱、あるいは身体能力で劣るといった生物学的要因を有していることはないという。

 ただレースを戦う上で、白い馬体は明らかに不利に働く。

「何しろ目立つので、人気を背負えばマークされやすい。後ろを走る馬からすればすぐにわかるので、仕掛けの目標になってしまうのです」(岡山氏)

 しかし緑のターフの上、あるいはダークな色合いの馬群の中でひときわ美しく映える白毛に、ロマンを託す者もいる。ディープインパクトなど数々の活躍馬を所有してきた日本競馬界の名物オーナー、金子真人氏である。

■シラユキヒメから白毛の花を咲かせたい


 ソダシの物語は、その祖母の誕生から始まる。1996年、当時の日本を代表する種牡馬サンデーサイレンス(青鹿毛)とウェイブウインド(鹿毛)との間に、突然変異で白毛の牝馬が生まれた。彼女を購入した金子氏はシラユキヒメと名付け、競走馬として愛情を持って育てた。デビューが遅かったこともあり9戦して3着が最高だったが、中央競馬で初めて馬券に絡む着順に入った白毛馬として、ファンに記憶されることになる。

 引退後、シラユキヒメは繁殖牝馬となった。

「父はサンデーサイレンスだし、母の母はアメリカのG2馬。未勝利に終わったものの、シラユキヒメは良血ですからね。しかしそれだけではなく、金子氏にはシラユキヒメを始祖として、白毛の系統の花を咲かせたいという夢があったはずです」(岡山氏)

 白毛は他の毛色(鹿毛、栗毛など)の遺伝子に対して優性で、遺伝によって生まれた白毛馬は、両親のどちらかが必ず白毛である。突然変異で生まれた白毛も、親になれば子孫に白毛の遺伝子を伝えることができる。

「金子氏はシラユキヒメに、自身が持つブラックホーク、クロフネ、キングカメハメハといったG1馬を掛け合わせたのをはじめ、シラユキヒメ系統の牝馬に代々、自身のG1馬を種付けし、生まれた白毛を所有してきました。そのことからも、白毛の強い馬を作りたいという意図が見て取れます」(岡山氏)

■ユキチャン、ブチコも活躍し…

 シラユキヒメ産駒の白毛の勝ち頭は、NHKマイルカップ馬クロフネとの間に生まれたユキチャンである。地方交流重賞を3度制すなど、5勝を挙げた。

 またユキチャンの全妹マシュマロも、白毛として初めてJRAでの新馬勝ちを達成。

 そしてダービー馬キングカメハメハとシラユキヒメの交配で生まれた子は、白い馬体に鹿毛の斑が入っていたことからブチコと名付けられ、ユキちゃんに次ぐ4勝をマークした。

「シラユキヒメの子供は10頭が競走馬デビューしていて、うち7頭が勝ち上がっていますから、繁殖牝馬としては素晴らしい結果です。しかしその子孫がクラシックまで獲る活躍をするとは、ほとんどの人が予想していなかったのではないでしょうか」(岡山氏)

 ブチコも引退後に繁殖入りし、クロフネの種がつけられて初仔が生まれた。

 両親や祖母のシラユキヒメ同様、日本一の規模と環境を誇るノーザンファームで生まれ育ったその白毛馬は、オーナーの金子氏によってサンスクリット語で『純粋』『輝き』を意味するソダシと名付けられた。

■桜花賞で圧勝「漫画だとしてもでき過ぎだ」

 2020年7月に7頭立ての3番人気だったデビュー戦で勝利し、白毛として史上初の芝の新馬勝ちを記録すると、続く札幌2歳ステークス(G3)では白毛初の芝重賞制覇。3戦目のアルテミスステークス(G3)も制すと、1番人気に推された12月の阪神ジュベナイルフィリーズを鼻差で勝って世界初の白毛G1馬となり、同時に無傷の4連勝も達成。

 そして迎えた5戦目、桜花賞の結果は御存知の通り。好位から抜け出し、追いこんでくる馬を抑え切るというデビュー以来のレーススタイルでの快勝だった。

「無敗のG1馬ですから強いことは確かでしたが、阪神ジュベナイルフィリーズは接戦でしたし、抜けた存在とは思いませんでした。そんな印象を覆すソダシの真のポテンシャルを見せつけられたのが、今年の桜花賞だったのです。白毛で、無敗のまま、初めて出走したクラシックを、1分31秒1というとんでもないコースレコードで勝ってしまった。漫画だとしてもでき過ぎだ、あるわけないと笑われてしまうような、奇跡とも言うべき話です。それが現実に起こったのは、何を置いてもオーナーの熱意の賜物でしょう」(岡山氏)

 これほどの強さを持つ白毛は海外でも例がないため、すでに世界の競馬界でソダシの名は知れ渡っているという。

■ぬいぐるみが6分で完売、次の照準は?

 もちろん日本での人気も絶大。桜花賞直前の9日には、公式グッズとしてソダシのぬいぐるみが売り出された。2歳G1を勝ったばかりでぬいぐるみが作成されること自体、異例のこと。だが一人につき1個の購入制限が設けられていたにもかかわらず、発売から6分で予定個数が完売してしまった。

 そして桜花賞後には、こんな反応も。

「ソダシの記録的勝利はニッカン紙面でもかなりのスペースを割いて報じたのですが、読者の皆さんからの『大きく扱ってくれてありがとう』といった声がいくつも寄せられました」(岡山氏)

 当のソダシ陣営は人気に奢ることも、クラシックを初制覇しただけで満足するつもりもない。すでに5月23日のオークスに照準を定めているという。

 それどころか実は同30日に開催される日本ダービーにも、ソダシは登録されているのである。そちらに出走する可能性も、決してゼロではない。

 もしオークスをスキップしてダービーに出場し、並み居る牡馬を抑えて白毛の牝馬が優勝するようなことがあれば、眩いばかりの『輝き』が放たれるはずだ。

(河崎 三行)

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