「上杉謙信はめちゃくちゃ強い」「今川氏真は使えない」気鋭の作家たちはゲーム『信長の野望』からどんな影響を受けていたか?

「上杉謙信はめちゃくちゃ強い」「今川氏真は使えない」気鋭の作家たちはゲーム『信長の野望』からどんな影響を受けていたか?

紀伊国屋書店で行われた歴史時代小説フェア

「毎年元日に読む」「身分の低い忍びが…」「ミュージシャンも1stアルバムが一番いい」若手実力派が真剣に選んだGWに読みたい“偏愛”小説と作家デビューまでの道のり から続く

 ステイホームのGWこそが、歴史時代小説という知的な「武器」を手に入れる大チャンス! その道標として、いま最も注目を集める気鋭の歴史小説家7人が「初心者にお勧めの短篇」「ビジネスに役立つ歴史小説」「自身が偏愛してきた作品」などを縦横無尽にご案内します。お話いただいたのは、谷津矢車さん、武川佑さん、澤田瞳子さん、木下昌輝さん、川越宗一さん、今村翔吾さん、天野純希さんの7名です。(全4回の3回目。 1 、 2 、 4 回目を読む)

◆ ◆ ◆

■ゲーム『信長の野望』の洗礼を受けて

――皆さんは年齢、キャリアとも近いですが、同世代だからこそ意識される部分はありますか?

天野 もちろんどんな作品を書いているかとか、意識もしますけど、第一に「やっと同世代の人たちがいるようになった」という思いのほうが強いですね。この中では僕が一番デビューしたのが早いわけですけど、当時は同世代の人が全然いなかったので。

谷津 年齢は僕が一番下なんですけど、20代でデビューしたので、もう小説家生活8年目なんです。デビュー時は周りに20代がいなかったので、だいぶ寂しい思いもしましたが、最近は20代の歴史小説家もどんどん出てくるようになりました。やはり若い人が入ってきて切磋琢磨できる環境というのはとても嬉しいです。

澤田 歴史小説は、どうしても女性の作家が少ないですよね。先日、唐の時代を描いた『 震雷の人 』(文藝春秋)で松本清張賞を受賞されたのが女性の千葉ともこさんなので、すごく嬉しいニュースでした。あと、千葉さんも含めて、最近の新人の方は、いままでの歴史小説が扱っていないところに手を伸ばされる印象があります。

谷津 加えて、古い作品をきちんと咀嚼したうえで、自分なりに新しい花を咲かせる人が多いですよね。

武川 やっぱり歴史小説を書いて新人賞に応募される方って男性が多いんですかね?

今村 歴史に限定したら男性のほうが多いんじゃないかな。

武川 女性の場合、歴史小説ではなく時代小説を書く方が多い気がする。どうしてなんでしょうね?

天野 女子はゲームの『信長の野望』はやらないからじゃない?(笑)

今村 たしかに。歴史もののゲームをやっても、もう少しキラキラした世界観の『戦国BASARA』にいきそう。みんな、『信長の野望』はやってた?

木下 やってました!

今村 『信長の野望』をプレイすると、史実として正しいかではない部分で、みんなが何を求めてるか分かるんですよ。たとえば上杉謙信はゲーム内でめちゃくちゃ強いから、「ああ、謙信に対してこういうイメージを持ってるんだな」って。

天野 今川氏真は使えないとかね(笑)。

澤田 ゲームで男性と女性を区切っていいかはわかりませんが、女性にとって歴史に親しみやすい入口が少ないのは確かでしょうね。

天野 ゲームだと『刀剣乱舞』とかは? ミュージカルになったりと、女性ファンが相当多いと聞いていますが。

澤田 うーん、女性の傾向として、小説などのフィクション作品に行かずに、モノに走る人が多い気がします。

天野 モノ?

澤田 美術作品などの現実の作品を見にいく人は多いけど、小説には来ないという意味です。特に中世以降は女性読者が少ないと感じます。私の場合、古代小説も書きますが、古代は意外と女性の読者が多いんですよ。それは女性を引きつけるフックが、他の時代と比べて多いんですね。

天野 なるほど。

■本能寺の変以外も信長は謎に満ちている

澤田 女子高に通っていたとき、宝塚歌劇団を好きな子が周りにいっぱいいました。すると、その子たちは『ベルサイユのばら』が好きだから、フランス史にすごく詳しくなる。当時は藤本ひとみさんがフランスものを書いていたので、みんな読んでいたんですね。それらを見てきたので、好きなものから小説にいくケースというのは間違いなくあるんですが、『ベルサイユのばら』のような、女性にひっかかるものがなかなか見つからないのが現状だと思います。

今村 韓国の歴史小説を書いたら、意外と流行るんかな。韓国や中国のドラマが女性の間でまたブームでしょ。

澤田 たしかに後宮ものは人気ですね。

谷津 後宮ものはいま小説界でもブームですよ。その点、日本の歴史小説は女性を主人公にした作品が少ないかもしれません。

澤田 もし日本の歴史で女性を描くなら、織田信長の妹・お市の方を書きたいなって思ってるんです。あんな兄がいたら大変でしょうし(笑)、どうして北ノ庄城で死んだのか、個人的に納得がいかない。信長がらみだと、本能寺の変以上に私の中ではミステリーで。

木下 信長の話になると、どうしても本能寺の変が大きな謎ととらえられがちなんですけど、荒木村重や浅井長政がどうして裏切ったかというのだって、重要な謎なんですよね。明智光秀だけを大きく取り上げることにちょっと違和感があります。

澤田 信長の面白いところって、あの時代を書こうと思ったら、天皇家、諸大名、文化や築城など、何を書こうと思っても信長を通らざるをえないところで。

天野 でも信長を書くときって、めちゃくちゃプレッシャーがかかる……。

木下 天野さんがここにいる誰よりも信長を書いてるじゃないですか(笑)。

谷津 イメージが付きすぎちゃっているから、そのイメージを守りつつ、独自性を出すのが難しい気がします。研究が進んでだいぶ人物像が明らかになってきたところもありますし。

武川 最近の研究だと、歴史学者の金子拓、柴裕之両先生らが、従来からイメージされるエキセントリックな信長ではなく、幕臣として室町幕府を再興しようとしていた保守的なところがあるんじゃないかという説を唱えていて、そういった学説が今後、歴史小説に反映されていくのかなと予想しています。大河ドラマの『麒麟がくる』を観ていても、真面目でナイーブな信長の部分が多く出ていて、フィクションの中の信長像というのも変わっていくのかなと。

木下 僕は先日、『 信長 空白の百三十日 』(文春新書)という新書を出したので、信長については相当分析しました。精神科医じゃないので、確実なことは言えませんが、信長は自己愛性パーソナリティ障害だったと考えています。要は、長く付き合えば付き合うほど信長から人が離れていくんですね。桶狭間の戦いのときに信長について行った配下も、その後ほとんど皆愛想を尽かしている。信長の謎って色々あるけど、最終的には彼の性格に行きつくんじゃないかな。

天野 僕も『 信長 暁の魔王 』(集英社文庫)を書いた際、精神医学の本を参考にしました。母親との仲が悪かったというので、育児放棄とかそういう本を山ほど読みましたね。

今村 結局、色々な研究が進んでも、信長という人間はどこかミステリアスなところを持っていて、それが魅力であり、同時に一つの答えに当てはめるのが難しいのかもしれないですね。

■実際に現地に行かなければ分からない!

――新型コロナウイルスという大きな出来事がありましたが、皆さんの執筆スタイルになにか変化はありましたか?

今村 あんまり変わらないんですけど、史料が手に入りにくい時期はありました。図書館が閉まったりして。

澤田 そうそう。困ったのは史料ですね。

木下 取材に行けないのは困りました。題材によりますけど、現地にしかないような史料もありますし、実際にそこに立たないと感じられない空気も大切だと思ってまして。

谷津 ありますね。行ってみたら、意外と寒かったとか。

今村 距離感とかも実際に行ってみないと分からへんよね。

谷津 そういえば、以前、福井に取材に行ったところ、その一週間後に武川さんも取材に訪れたとか。

武川 関東民なので、雪が降ってるときの福井の寒さを確かめたくて行ったんですけど、今年は全然雪が降ってなくて、困りました。

谷津 越前の雪って、どうも関東の人間がイメージする雪と違うみたいですね。めちゃくちゃ重いって聞いたことがあります。

今村 作家になる前、週に一回福井に仕事で行ってたけど、一メートルくらいすぐに積もるんですよ。ちなみに、武川さんが取材に行った、一週間後、僕も福井に取材に行ったんです。

天野 もしかして、書こうとしている題材がかぶった?

武川 それが微妙にかぶってなくて、安心しました。

澤田 ネタがかぶるのは怖いですよね。

天野 そうなんですよ。長崎に取材に行ったら、取材先に川越さんのサインがあったときは、「しまった」と思いましたよ(笑)。

今村 長崎のどこに行ったんですか?

天野 後に台湾に渡り、鄭氏政権の祖となった、鄭成功の生家です。母親が日本人なんですよね。

今村 あ、そのあたりを書くんですね。これからの歴史小説って、世界の中の日本を描くか、日本の中の狭いところにぐっと寄るかの二択が主流になるんじゃないかと思っていて、僕の場合は引いた作品を多く執筆したいと思ってる。世界の中の日本を描く物語をいっぱい作っていきたいですね。

天野 うん。僕も引いたところから日本を見る方向に行ってるかな。

今村 川越さんも引いて見る派でしょ? いままでも日本の外を描くことが多いし。

川越 漂流してる人をよく書いている気がします。「ここじゃないな」ってずっと思っている人に興味があるんだと思う。

武川 私は逆に寄る派なんですよ。ミクロのミクロに行きたい。地方の領主とか、戦で負けちゃった人が好きなんでしょうね。以前、新発田重家を短篇で書いたことがありますが、もうちょっとで上杉家を潰せたかもしれないくらいの感じがすごく良くて。

【 続きを読む 】一休さん、西遊記、平家物語、ナポレオン、ドイツ人の傭兵…歴史小説家7人が告白した「これから書きたいマル秘ネタ」

※この大座談会に参加した7名の歴史作家が勧める、(1)初心者にお勧めの短篇、(2)ビジネスに役立つ歴史小説、(3)自身が偏愛してきた作品について、文庫を中心に販売する歴史時代小説フェアが、紀伊國屋書店小田急町田店、吉祥寺店、国分寺店などで開催中です(緊急事態宣言中は休業)。

初出:オール讀物2020年12月号

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一休さん、西遊記、平家物語、ナポレオン、ドイツ人の傭兵…歴史小説家7人が告白した「これから書きたいマル秘ネタ」 へ続く

(「オール讀物」編集部/オール讀物 2020年12月号)

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