苦しいときこそ――西武の守護神・増田達至の登場曲にベリーグッドマンが込めたメッセージ

苦しいときこそ――西武の守護神・増田達至の登場曲にベリーグッドマンが込めたメッセージ

©文藝春秋

 負けない気持ちがあるから また君の力になれる――。

 このフレーズから始まるメロディーがメットライフドームに流れると、昨年の西武ライオンズは1度も負けなかった。

 昨季、5勝33セーブで無敗だった守護神・増田達至投手の登場曲「ライオン」だ。

 文句なしにかっこいい曲だけど、ライオンズの守護神の登場曲が「ライオン」なんて、あまりにもピッタリすぎはしないか?

 そんな思いを出発点に、「ライオン」のことが知りたくなり、曲の作り手であり歌い手である3人組ボーカルユニット「ベリーグッドマン」のメンバーMOCAさんに、「ライオン」の誕生秘話を取材させてもらった。

 そこには、増田へのエールだけではなく、亡き友への熱い思いがあった。ライオンズファン、そしてベリーグッドマンのファンの方々にも是非、知っていただきたい。

■増田とベリーグッドマンの共通点

「これまであんまりはっきりとは言ってこなかったんですけど」とMOCAさんは前置きした上で、教えてくれた。

「『ライオン』は、増田投手に向けて作らせてもらった曲なんです」

 元々、増田とベリーグッドマンに特別な交流があったわけではない。きっかけは増田がベリーグッドマンの楽曲「コンパス」を登場曲に使っていたことだった。

「プロ野球選手で僕らの曲を最初に使ってくれたのが増田投手でした」

 MOCAさんは宮崎県・延岡学園高校で甲子園を目指していた元球児。その経験を踏まえたアツい曲も多い。今でこそ、多くのプロ選手が登場曲として使うが、その最初が増田投手だったというわけだ。

 そんな折、前田健太投手(現ツインズ)からの依頼で楽曲を提供することになった。もちろん、うれしいことではあったが、3人の中にはこんな思いがあったという。

「順番を飛ばした感覚というか。『増田投手に失礼やんな』と。僕らが名もないときから曲を使ってくれていたのに」

 そこで、「増田投手に曲を作ろう」となった。増田がマウンドに上がり、強打者たちと対峙する姿と、自分たちが今までの辛かった日々に負けずに立ち向かってきた姿を重ね合わせて形にした。

「ライオンは『百獣の王』と言われて、1番強いとされている。でも、絶対に弱さも併せ持っている。それでも、『負けるわけにはいかん』という、自分たちの中で、ライオンってそんな象徴」

「増田投手は口数が多いタイプの人ではないし、LINEとかでも『ありがとうございます。』とかで終わるタイプの人。でも、胸に秘めている強い思いがなかったら、あのマウンドに立ち続けることはできないだろうし、自分たちの『コンパス』を愛してくれていたなら、絶対に思いは一緒なはずだと。『おれは多くは語らないが、この曲がおれの思いだ!』っていうのを、球場の人たちやチームメートに感じてもらえるようにと意識しました」。MOCAさんの口調が熱を帯びた。

■「負けない」心の強さを持ってほしい

 ベリーグッドマンはMOCAさん、Roverさん、HiDEXさんの3人組。全員が増田と同じ1988年生まれだ。

 元々、それぞれがソロ活動をしていたところから結成されたため、自分が歌うパートはそれぞれ自分で歌詞を考えるのだという。

 MOCAさんが歌うパートで、思いが最もこもり、「歌うときはいつもウルッとくる」という歌詞がある。

「『絶対負けない』雲の上 またあいつの分まで頑張って」という部分だ。

「雲の上」に、思い浮かべる人がいる。

 山口慎二さん。延岡学園高時代の友人で、1年生の秋ごろに亡くなった。

「柔道部の練習中に倒れて、そのまま亡くなりました。友達を亡くす経験は初めてでした。野球部で厳しい練習が続く日々の中で、友達を亡くすという衝撃的な経験をしたのが、僕の中ではずっと残っていて」

「あいつの分まで」という気持ちは、今もMOCAさんの心に強く刻まれている誓いだ。

「戦う原動力というか、『なんで戦わなあかんねん』みたいなときに、思い出すというか。それが増田投手にも当てはまるかどうかは分からないんですけど。『あいつの分まで』と、気持ちが入ります」

 RoverさんとHiDEXさんにも、それぞれが好きなフレーズと理由を聞いた。

Roverさん「絶対に負けないで 今の自分には負けないで」

「この部分は鼓舞するというよりも、あなたの成功を懇願する、という気持ちを込めています。『勝つ』ことよりも『負けない』心の強さを持ってほしい。そして負けない気持ちで戦って、いつか必ず勝ってほしい。これこそまさに『ライオン』なんだ。そんな思いをつづっています」

HiDEXさん「後悔を嘆くよりぶれない決意を」

「後悔することをめちゃくちゃしてきましたが、ぶれずに続けた結果、今の自分がいるので、その気持ちを書きました」

■「ライオン」に込めた、魂の叫び

「ライオン」を作ったころ、ベリーグッドマンとしては「あまりいい状況ではなかった」とMOCAさんは振り返る。

「メンバーとぶつかったり、プロデューサーさんとなかなか歯車がかみ合わなかったり。そんな葛藤をしていた時だったと記憶している。『負けるか! この音楽シーンで絶対勝つんだ』という思いで生み出した、魂の叫びのような曲です」

 増田に対するメッセージももらった。

「少しでも長くプロ野球で輝いている姿を見たい。お体に気をつけて頑張っていただきたいという思いと、今、日本も世界も元気がない状態なので、増田くんのアツい投球で日本を盛り上げてくれたらなと、すごく期待しています!」

 そして、増田にも「ライオン」への思いを聞いた。

「この曲の全部が好き。抑えをやらせてもらってから、ずっとこの曲で投げてきている。このまま一緒に(現役が)終わるまで、この曲でいこうかなと考えています。ともに今まで、この西武ライオンズでやってきたのを思い出す感じもあります」

 今、増田は苦しんでいる。4月22日のオリックス戦で2季ぶりの黒星を喫すると、5月1日の日本ハム戦でも、3点のリードを守れずに負け投手となった。

 言うまでもなく、彼の力はライオンズに必要不可欠だ。「ライオン」を聞いていると、「苦しいときこそ前を向いて戦おう」というメッセージが伝わってくる。戦う気持ちを持ち続けている限り、必ず、また日は昇る。

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(山口 史朗)

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