浮気、不倫、セクハラ案件もあったけど…「デュエットソングの歴史」に見る“戦後ニッポン”の価値観

浮気、不倫、セクハラ案件もあったけど…「デュエットソングの歴史」に見る“戦後ニッポン”の価値観

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 歌は世につれ、世は歌につれ――。

 昨年から、これまでの常識や当たり前に続くと思っていたことが、一気に変わることを体感している。ステイタスも、ジェンダーの問題も、人の距離感や思いの伝え方も、価値観が変わる歴史のターニングポイント。

 そこでふと思い出したのが「デュエットソング」である。

■いざ妄想タイムトラベルへ!

 賑やかな繁華街で、男と女が見つめ合い、恋の駆け引きをする。主導権はたいてい男。

 顔を寄せ「お前」「あなた」と囁き合う距離感。「新宿」「銀座」など場所に対する強い憧れ、アップダウン激しい恋愛観。そして、コロナ禍で今後どう進化していくのか、おおいに気になる「カラオケ文化」との密接な関係。いろんな方向で「土の時代」の特徴がギュッと凝縮された昭和のデュエットソングは、たった40年前のヒットとは思えないほど描かれる景色が違う。これはとても貴重な時代の置き土産。

 カラオケで大勢とワイワイいいながら歌うのは難しい時期だが、聴くには最適の時期である。今カラオケで歌いたいけど歌えなくてウズウズしている方も、歌えないその気持ち、妄想タイムトラベルで発散しよう。

 CDや動画を横に、往年の名曲を流しつつ、デュエットソングの物語へ、いざ、ご一緒に!

■ナイトクラブ、キャバレー時代の“囁き歌唱系”

「心の底まで しびれるような……」

 ムード歌謡系のデュエットソングをあまり聞いたことがない世代も、この歌詞から始まる「銀座の恋の物語」(石原裕次郎&牧村旬子)は聞いたことがあるだろう。

 1950年代後半〜1960年代前半に流行した、この「銀恋」や「東京ナイト・クラブ」(フランク永井&松尾和子)などの、囁き歌唱系デュエット。これはデュエットソング・タイムトラベルをするうえで真っ先に押さえておかねばならない。大勢に聞かせるというよりも、横にいるパートナーの耳元にいかにセクシーに愛を届けるか。それに命を懸ける感じの名曲はゾクゾクする。 

 特に「東京ナイト・クラブ」は歌い出しから見事。「なぜ泣くの 睫毛が濡れてる」という男性パートの歌詞からは、ものすごい超至近距離で女性を見つめていることが窺える。それに女性は「好きになったの、もっと抱いて」と返す。きゃー!

 この時期のデュエットソングの濃厚接触モードは、カラオケがまだ存在せず、デュエットを歌える場所がナイトクラブやキャバレーだったことがおおいに影響しているだろう。

 接待や仕事帰り、専属バンドの演奏をバックに、お気に入りのホステスと歌う贅沢。歌詞とはいえ、歌えばとりあえず「好きになったの、もっと抱いて」と言ってもらえるのだ。顔じゅうの筋肉が緩まったに違いない。

 もちろん、そんなコソコソウフフソングばかりではない。1960年代は、青春スターによる「アオハルデュエット」も名曲揃いだ。

 橋幸夫&吉永小百合の「いつでも夢を」や山内賢&和泉雅子の「二人の銀座」から溢れる若さと希望よ。聴くだけで生きるエネルギーのシャワーを浴びる感覚が本当に心地よい。ただ、この2曲とも、一つのマイクに二人が顔を寄せ合い歌うスタイル。今はこの間に仕切りが入る時代になったのだなあ、と少し切なくなる。

■19歳とは思えない色気にドキドキ

 さて、高度成長期が終わり、不景気など時代の不安が大きくなってきた1970年代。音楽的にフォークソングやニューミュージックが花盛り。デュエットソングも口説きソングが減り、今歌っても十分通用しそうな内容が多いのが興味深い。

 1974年に大ヒットした「貧しさに負けた いえ世間に負けた」という衝撃的な歌詞から始まる「昭和枯れすすき」(さくらと一郎)は、昭和を「令和」と変えるだけで、かなり状況がマッチ。時代は巡るものだと妙に感心する。全く嬉しくない繰り返しだが。

 郷ひろみと樹木希林の「お化けのロック」(1977年)は大ヒットドラマ「ムー」、「林檎殺人事件」(1978年)は、「ムー一族」の挿入歌で、恋愛とはまた別の摩訶不思議な世界だ。今見てもじゅうぶん新しく、フリ&仮装込みで、動画映えする曲である。

 そしてなんといっても1978年の「カナダからの手紙」(平尾昌晃&畑中葉子)。平尾昌晃の「いつもあなたがぁ〜ん♪」というねっとりとした歌唱と、19歳とは思えない畑中葉子の色気ある艶やかな声は、いつ聴いてもドキドキする。 

 しかし歌詞を改めて読むと、カナダからのラブレターを読み上げているソーシャルディスタンスなラブソングだった。今なら「カナダからのZoom」という感じだろうか。

 会えない気持ちを歌う遠恋デュエットソングは、皮肉にも今の時代しっくりくる。

■不倫、浮気、セクハラ…80年代は炎上案件ばかり!?

 1980年代になると、70年代に登場したカラオケがどんどん進化し、カラオケと相性がいいデュエットソングが大豊作。景気が良くなって人々も元気が戻ってきたのだろう。歌詞も、昭和30年代の「東京ナイト・クラブ」系とはまたテンションが違った下心ムンムン、「あわよくば」の嵐だ。

「居酒屋」(五木ひろし&木の実ナナ)や「男と女のはしご酒」(武田鉄矢&芦川よしみ)、「男と女のラブゲーム」(葵司郎&日野美歌)……。行きつけの店に飲みに寄ったら、その日のうちに帰れないくらいの勢いである。

 その他にも、愛人とのホテルの密会を描いた「アマン」(シルヴィア&菅原洋一)、「3年目の浮気ぐらい大目に見ろよ」と開き直る「3年目の浮気」(ヒロシ&キーボー)、そして谷村新司が小川知子の胸元に手を入れながら歌う「忘れていいの」(小川知子&谷村新司)。不倫、浮気、セクハラという今なら炎上案件が粒ぞろいだ。

■常夏に浮かれた男女のノリノリな世界観

 また、1984年には、デュエットソングのターニングポイントとなる一曲が登場する。「ふたりの愛ランド」(石川優子とチャゲ)である。

 場所は居酒屋でも繁華街でもなくリゾート地、デュエットソングに必須だった小道具の「酒」は登場せず、曲はポップに。石川優子とチャゲの底抜けに明るい歌唱によって、デュエットソングの幅がグッと広まった。常夏に浮かれた男と女のノリノリかつセクシーユーな世界観は今でも人気だ。

 かくして、デュエットソングは老若男女幅広く愛されるジャンルに格上げとなった。初対面でもカラオケの分厚い本(当時はタッチパネルではなく本!)を渡し、「一緒に歌いません?」と声をかけるシーンもスナックのよくある一風景と化した。

 会社の歓送迎会や接待で、上司にコミュニケーションの一環として、強引にデュエットを入れられた人もいるかもしれない。「デュエットしようよ」という誘い方によってはセクハラ案件になる時代が来ようとは、この時期は誰も想像もしていなかっただろう。

■カラオケの進化とともに曲にも変化が

 その後カラオケの進化で、上手な素人が街に溢れるようになる。そのニーズに合わせ、高度な歌唱テクニックを披露できるデュエットソングが生まれていく。

 特にパンチがあったのは、鈴木聖美withRATS&STARの「ロンリー・チャップリン」だろう。歌詞がスタイリッシュだし、本家の歌いっぷりもソウルフル。カラオケ猛者たちが歌自慢をするのに申し分ない一曲で、ガンガン入れた。男性も女性も自己流のテンポで歌い、結果、デュエットというより歌唱力の殴り合いみたいになっているケースもよく見たものである。

「ロンリー・チャップリン」を作曲した鈴木雅之は、デュエットソングを多く出しているが、1994年の「渋谷で5時」も名曲中の名曲。

 平成初期の文化の発信地「渋谷」という場所名を取り入れたのもポイントを押さえているし、パートナーの菊池桃子のセリフ「あれ、買っちゃおうかな」もバブルの余韻を感じさせて最高だ。

 そして男女掛け合いデュエットソング衰退期の1990年代後半に生まれた、数少ない名曲が、1999年の浜崎あゆみ&つんくが歌った「LOVE〜since 1999〜」。両者の湿気たっぷりの声に、ムード歌謡に近い色気を感じて好きだった。

■令和のデュエットソングはどうなる?

 その後も多くのデュエットソングが誕生してはいるのだが、あまり一つのジャンルとして強い印象はなくなったのも事実。多分、「feat.(フィーチャリング)」「with」表記が増えたのも、一つの大きな要因だろう。恋愛ソングというより「自分の価値観」を歌う流れになったというのもある。

 ネットがコミュニケーションの要となった2000年以降は、人との対面を重視し、場所にステイタスを感じるという「束縛・制約を楽しむ文化」は薄れていった。

 ただ、だからこそデュエットソングを聞くと、ネット以前の時代の風景がなんともリアルに見え、ここ40年ほどの価値観の急速な変化に驚いてしまう。

 聴くだけで時代の変化が見えてくるのが、流行歌の面白さ。これからも、「令和」「風の時代」を感じる新しいデュエットソングがどんどん生まれてほしい。

 今回妄想タイムトラベルをして、ハーモニー、ツインボーカルというのはドラマ性を感じる魅力的な歌唱スタイルであるとつくづく思った。

 新しい様式が出て、古い価値観が淘汰されていく時代。カラオケ文化も今まで通りとはいかないが、「密を避けながら楽しめる」新たな機能や方法が出てくるだろう。

 歌は世につれ、世は歌につれ。伝えるパッケージやハードは変われど、歌そのものに「オワコン」という文字はない。往年の名曲にパワーをもらい、進化していくのみである。

 皆さんの心のデュエットソングはなんでしょうか。

(田中 稲)

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