巨人・松原聖弥、香月一也、廣岡大志が出られなくても、それは「宝の持ち腐れ」ではない

巨人・松原聖弥、香月一也、廣岡大志が出られなくても、それは「宝の持ち腐れ」ではない

松原聖弥

 ホープの松原聖弥はスタメンを外れ、開花の兆しを見せていた香月一也、廣岡大志は2軍に落ちた。

 せっかく若い芽が成長して、もう少しで花を咲かせようとしているのに……と、もどかしさを覚えるファンも多いようだ。

 だが、読売ジャイアンツという球団の86年に及ぶ歴史のどこを切り取っても、「宝の持ち腐れ」という批判が顔を出すに違いない。宝の持ち腐れの金太郎飴だ。

■20年前の巨人と今の巨人とでは明らかに違う

「江藤を獲ったあたりで醒めた」

 4年前、「元巨人ファンミーティング」という取材の皮をかぶった飲み会を催した際、元巨人ファンの参加者の間で異様に盛り上がった。1994年に中日から落合博満、1995年にヤクルトから広澤克実、1997年に西武から清原和博……と毎年のようにFAでスターをかっさらうなか、ダメ押しのように2000年に広島から江藤智を獲得。その時点で巨人に魅力を感じなくなり、巨人ファンをやめたという人が何人もいたのだ。

 とくにファーム戦まで見に行く熱心なファンのなかには「せっかく若手を応援しても、1軍でチャンスをもらえないから応援しがいがない」と巨人から離れていった人もいた。

 その後も巨人は「大物選手を獲りすぎ」と批判を浴び続けている。昨年オフもDeNAでFA権を取得した梶谷隆幸と井納翔一を獲得している。

 だが、今の巨人が「若手の墓場」と化しているかといえば、そうは思えない。

 ドラフト関連の取材をしている者から見ると、今の巨人は明らかに変わりつつあることがうかがえるのだ。

 今から3年前、巨人のファーム戦を見ていて、将来チームの顔になるような大器がいるとは思えなかった。ちょうど岡本和真や吉川尚輝が1軍に抜擢されたタイミングだったこともあるが、全体的に小粒に見えてしまった。

 他球団のスカウトのなかには「巨人は上層部の目がきついから大変なんじゃないかな」と同情的に見る人もいた。獲得した選手に欠点があれば、「なぜこんな選手を獲ったんだ」と重箱の隅をつつかれる。そのため、なるべく欠点の少ないバランスのとれた選手を多くドラフト指名することになる。その結果、スケールの大きな選手が育ちにくい循環になってしまっていた。

 その点で、今や球界の頂点に立つソフトバンクとは対照的だった。ソフトバンクは周知の通り、千賀滉大、甲斐拓也、石川柊太ら数々の原石を育成選手から登用して、開花させてきた。

 巨人がバランス型のドラフトをするのに対して、ソフトバンクは一芸型のドラフトを展開していた。

 ソフトバンクの福山龍太郎アマスカウトチーフは、こんなことを言っている。

「各球団10名前後のスカウトがいますが、100人が見て100人が『ドライチ』と思う選手は誰が見てもいい選手です。支配下のドラフト指名は複数のスカウトがいいと思う選手になることが多い。一方で育成ドラフトはスカウトの色が出ます。未熟な部分があっても、『この部分に光るものがある』と担当スカウトが評価すれば、ウチは育成選手として獲得していきます」

 近年で象徴的なドラフトだったのは、2017年だ。ソフトバンクは育成ドラフトで指名した6人中5人が支配下登録を勝ち取り、そのなかには周東佑京という大ヒットもあった。一方で巨人は育成指名した8人中7人が、わずか3年のうちに球団を去っている。

 しかし、原辰徳監督が就任した直後の2018年を境に、巨人のドラフト戦略は明らかに変わってきた。一芸に秀でた選手を数多く指名するようになり、指名傾向がソフトバンク寄りになってきたのだ。

■この二人が本格開花すれば、ソフトバンクと戦える

 2018年ドラフトでは、1位の高橋優貴以外は育成選手を含め9人が高校生。そのなかには今や先発ローテーションのキーマンになった戸郷翔征がいた。その後も2020年ドラフト5位の秋広優人に代表されるように、ロマンあふれる好素材を続々と獲得している。

 とはいえ、育成強化に本腰を入れてほんの数年で大きな成果を求めるのは酷だ。そこでもうひとつ編成面で注目したいのは、トレードの活性化である。

 原辰徳監督の第3次政権が発足した2019年以降、「飼い殺し」を避けるかのように数多くのトレードを敢行している。そこで獲得したのが香月や廣岡といった、今年20代半ばになる有望選手だ。今の巨人はどの年齢層にも、スケールの大きな若手がひしめいている。

 また、競争もある程度フェアに行なわれている。昨季ようやく規定打席に到達した吉川尚輝ではなく、状態のいい若林晃弘が中心的に起用されているのがその証拠だ。

 今や地位を築いたベテランにしても、当然ながら若手時代があった。坂本勇人、丸佳浩、梶谷隆幸といった働き盛りの中心選手たちも、それぞれの道筋でチャンスをつかみ、スター選手にのし上がっている。プロ野球という世界は、そんな叩き上げの怪物が生き残っていく。若手は極めて厳しい競争のなかで、少ないチャンスをつかむしかない。

 とはいえ、いずれは松原や吉川尚が常時試合に出られるようになるのが、巨人にとって望ましいのではないか。エンターテインメント性だけを考えればの話だが。

 松原のとんでもない体勢でもヒットにしてしまう、型にはまらない打撃。ライトゴロを決めてしまう強肩。さらに仙台育英高3年夏にベンチ入りすらできず、甲子園のアルプススタンドで太鼓を叩いていたドラマ性。

 吉川尚の走攻守のスピード感。とくに二塁守備の美しい身のこなしだけで、入場料を払う価値がある。

 この二人が本格化してくれば、「打倒ソフトバンク」はお題目ではなく、現実感を増してくる。松原と吉川尚にとって、今は殻を破るための過渡期である。

 昨年冬、松原にインタビューする機会があった。梶谷が巨人に移籍してくることについて聞くと、松原はこう答えている。

「吸収できるものは吸収していきたいですし、梶谷さんが来たからといって試合に出られないというのでは僕も成長できないので。ああいう選手を抜かして、やっとレギュラーになれるのだと思います。通らなければならない道なので、なんとか食らいついていきます」

 5月25日からセ・パ交流戦が始まる。DHが使えるということは、必然的に野手のチャンスが増えることを意味する。誰が千載一遇のチャンスをものにするのか。それは巨人の近未来を左右すると言っても過言ではない。

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(菊地選手)

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