なぜジャニーズは海外市場を掴めない? BTSとの比較で分かった“日韓アイドル”の圧倒的格差

ジャニーズとBTSを比較し、圧倒的な格差があると指摘 嵐の海外挑戦は成功とは言えず

記事まとめ

  • 中居正広、山下智久、長瀬智也ら、ジャニーズから退所する芸能人が相次いでいる
  • ジャニーズに限らず、日本のアイドルはK-POPにマーケットを奪われ続けているという
  • 日本のアイドルはK-POPと比べ、コンテンツの運用やファンのグローバル化で劣るらしい

なぜジャニーズは海外市場を掴めない? BTSとの比較で分かった“日韓アイドル”の圧倒的格差

なぜジャニーズは海外市場を掴めない? BTSとの比較で分かった“日韓アイドル”の圧倒的格差

ジャニーズ事務所 ©AFLO

ジャニーズ一強の崩壊》JO1の白岩瑠姫も…元Jr.の「韓国系プロダクション」流出が止まらないワケ から続く

 日本で男性グループの群雄割拠が生じにくかったのは、それまでジャニーズが国内マーケットをなかば独占状況に置いていたからだ。

 ジャニーズは、地上波テレビを中心とする日本のエンタテインメント業界を巧みに渡り歩き、覇権を強めてきた。グループの冠番組に後輩を出演させるバーター戦略をはじめ、競合グループの露出に圧力をかけるという噂は常に囁かれていた。これが、つい最近までの日本の「男性アイドルの難しさ」の背景だった。(全2回の2回目/ 前編から続く )

■国内市場で“圧倒的勝者”だったジャニーズ

 事実、テレビ朝日の『ミュージックステーション』に、ジャニーズ以外の男性アイドルグループが出演しにくい状況はいまだに続いている(現在は元ジャニーズJr.が在籍するJO1がいつ出演するかが注目ポイントだ)。さらに、雑誌やスポーツ新聞にジャニーズ担当を準備させることで、露出やスキャンダルもコントロールしてきた。

 結果、ドメスティックなマーケットでジャニーズは圧倒的な勝者として君臨してきた。それは、成熟しきったレガシーメディアへの徹底した適応によって築かれ、競争が生じにくい環境も構築した。閉鎖的な市場における限定的なゲームを攻略しきったのである。

 しかし、こうしたジャニーズの独占状況が崩れつつある。 前編 で見てきたように、K-POPや吉本興業、元ジャニーズJr.、そしてSKY-HIなど多くの参入が続いている。

■公取委の「注意」が端緒となった

 その端緒となったのは、やはり2019年7月に公正取引委員会から「注意」されたことだ。ジャニーズ事務所は、新しい地図(元SMAPの3人)の地上波テレビ出演に圧力をかけていた疑いがあるとされた。芸能プロダクション同士の競争を阻害し、ジャニーズ帝国の支配を許していた“業界の掟”は、当局の監視によってついに終わりを迎えた。

 その後、ジャニーズからは退所(契約解除)する芸能人が相次いでいる。錦戸亮、中居正広、手越祐也、山下智久、長瀬智也、岩橋玄樹などだ。つい最近も、近藤真彦の退所が報じられたばかりだ。

 また、ジャニーズに限らず所属プロダクションからの移籍・独立も目立つ。日本の芸能界には、やっと自由競争の経済原理が働きつつある。

 ジャニーズのコンペティターが増える背景には、メディアとエンタテインメントの大きな変化も重要なポイントだ。

■ネットではジャニーズの覇権は機能しない

 ジャニーズは地上波テレビを中心とした国内のメディア状況にアジャストして覇権を強めてきたが、2010年代はスマートフォンとSNS、そして映像・音楽のネットメディアのさらなる浸透によってレガシーメディアは完全に相対化された。YouTube、Netflix、Amazonプライム、Disney+、Hulu、ABEMA、Spotify、Apple Music等々、エンタテインメントを取り巻くメディア空間はこの5年ほどで激変した。

 多くの男性グループの誕生も、この多様なメディア状況があるからこそだ。主戦場は、もはや地上波テレビや雑誌などではなくYouTubeやSNSだ。音楽で言えば、単価の高いCDを国内の熱心なファンに売ることよりも、YouTubeやストリーミングサービスを通じてグローバルに音楽を届けることが必要とされる。K-POPが率先してやってきたのは、まさにこうしたことだ。

 しかし、ネットではジャニーズの覇権は機能しないどころか、2018年頃まで真剣に取り組まなかったためにいまだに後塵を拝している。競争を排除してまでドメスティックなマーケットに過剰適応し、典型的なガラパゴス化に陥って国際競争力を失った。

 公取委がジャニーズを「注意」したのは、こうした状況を重く見たためでもある。「競争法」とも呼ばれる独禁法は、各業界におけるプレイヤーが健全に競い合うことを監視する法律だ。競争を排除しようとしたジャニーズの支配体制は、明確にそれに反していた。

■「破壊的イノベーション」に足を踏み出せなかった

 そんなジャニーズは、現在きわめて大きな困難に直面している。創業者姉弟の退場もあったが、新たな時代への適応に右往左往しているように見える。

 その混迷は、典型的な「イノベーションのジレンマ」と言える。国内市場に準拠した「持続的イノベーション」に注力した結果、K-POPがやってきたようなグローバルな市場を大きく変化させる「破壊的イノベーション」に足を踏み出せなかったからだ。

 それは、10年以上前に日本の家電や携帯電話メーカーが通った道でもある。

 たとえば00年代前半まで優れた技術で液晶テレビの世界をリードしてきたシャープは、韓国のサムスンやLGにあっという間に逆転され、挙げ句に台湾・鴻海(ホンハイ)に買収された。現在の世界シェアは、サムスンとLGに次いでソニーがかろうじて3位に入り、それをハイセンスなどの中国メーカーが猛追している状況だ。

 携帯電話では、90年代から00年代にかけてiモードなどドメスティックな技術で高機能の製品を生み出し、あるいはシャープのザウルスやソニーのクリエのような斬新なPDA(携帯情報端末)も存在し、さらにソニーのウォークマンは音楽受容のイノベーションを起こした。だが、Appleによる破壊的イノベーションによって、現在のスマートフォン市場では見る影もない。現在の世界シェアは、先頭のサムスンをシャオミやファーウェイなどの中国メーカーが追う展開だ。

■K-POPにマーケットを奪われ続けている

 経営学者のクレイトン・クリステンセンは、1997年に上梓した『イノベーションのジレンマ』でこう記している。

〈 最高の顧客の意見に耳を傾け、収益性と成長率を高める新製品を見いだすことを慣行としている企業は、破壊的技術に投資するころには、すでに手遅れである場合がほとんどだ。――クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』序章(玉田俊平太監修・伊豆原弓訳/翔泳社/Kindle版)〉

 ジャニーズをはじめとする日本のアイドルがいま直面しているのも、この困難さだ。囲い込んだ顧客に従来型の満足度の高いサービスを提供し続けた結果、新しい音楽と斬新なダンス、そしてラグジュアルなミュージックビデオを送り出してきたK-POPにマーケットを奪われ続けている。10年前、少女時代とKARAに夢中だった小学生は、BLACKPINKとTWICEに夢中な大学生になっている。それが2021年の現実だ。

 90年代中期から10年代中期までの20年間、たしかにジャニーズは国内の芸能・音楽マーケットでは頭ひとつ抜け出たプレイヤーだった。しかしクリステンセンが指摘したように、既存ファン向けの優れた経営をしていたからこそK-POPのような機動的な策を採用できず、そのリーダーの座が揺らぎつつある。しかも公取委に「注意」されたように、それは競争相手(外敵)を強権的に排除しうる立場にいたからこそ生じてしまった慢心によるものだ。

■ジャニーズが抱える“最大の弱点”

 男性グループに話を戻せば、この状況における今後のポイントはふたつにまとめられる。

 ひとつは、コンテンツのグローバル対応だ。そこでは、ドメスティックな空間で通用してきた作法は通用しない。現状は、K-POPルーツのJO1やORβITは十分な対応を見せ、最近はジャニーズのSexy ZoneやSnow Manも意欲的な曲を発表するようになった。ジャニーズはゆっくりとだが自己変革の道を歩みつつある。

 ただ、それと同時に重要なのは、コンテンツの運用だ。いくら素晴らしい作品を創っても、それが行き届かなければ意味がない。必要とされるのは、徹底したプロモーションとそれを実行するためのオペレーションだ。CJ ENMと吉本興業によるJO1がその点に長けているのは間違いないが、ジャニーズの弱点はここだ。

 事実、活動休止前のの海外挑戦は決して成功とは言えない結果となった。他グループでも、意欲的な全編英語曲がCDのみの収録だったり、YouTubeで公開したMVが日本国内でしか観られなかったりするケースも散見される。そうしたコントのような事態を続けているかぎり、ジャニーズが海外市場を掴むことはない。

■BTSを世界的アイドルに押し上げたARMY

 もうひとつは、ファンのグローバル化だ。たとえばBTSがこれほど世界的な人気となったのは、国を超えるファン・ARMYの活発な活動があったからこそだ。スマートフォンとSNSが広く浸透した2010年代後半に、小さなプロダクションだったにもかかわらずBTSの人気が爆発したのも、けっして無関係ではない。BTSメンバーが論争に巻き込まれたときも、ファンが結束して論陣を張り、さまざまな言語でみずからの主張を伝えていった。

 もちろんそうしたファンの強大な力は、任意の集まりである以上、悪い方向に転ずるリスクもある。そこでファンがいかに連帯して、集団としての統制を保つかによって、アーティストの価値も問われてくる。見方を変えれば、ファンたちがアーティストのプロモーションを代行するような時代になっている。

■エンタテインメントのグローバル化は止まらない

 こうした日本とK-POPのアイドルの比較に対しては、「日本のアイドルにも十分良いところがある!」といった感情的な反論がしばしば寄せられる。そこで長所として挙げられるのは概してアイドルのパーソナリティであり、それがファンとしての熱い思いとして語られる。そうした個々の思いを否定する気はないが、グローバル経済や文化産業の議論に対して内閉的なサブカル島宇宙における印象批評を向けている時点で、やはり論点はずれている。

 経済学的には、音楽や映像を中心とするエンタテインメントは情報財に相当する。デジタル化とインターネットは、この情報財(コンテンツ)の複製および流通コストをかぎりなく小さくした。たとえばフィルムがデジタルとなり、CDが配信となったように。

 そうしたとき、コスト減によって各コンテンツの単価は下がるものの、マーケットは全世界に拡大する。しかもそれは(良し悪しはともかく)民主主義国家ではけっして避けることができない。中国や北朝鮮のように、国家レベルでインターネットを遮断するのは単なる検閲だからだ。

 そして、このエンタテインメントのグローバル状況は今後さらに加速する。情報財の流通におけるもっとも大きな非関税障壁は言語だが、これから10年は、自動文字起こしやAIによる自動翻訳の飛躍的な進化によって、さらにグローバルな流通性が高まると考えられる。

■10年後の音楽シーンはどうあるべきか?

 そうした将来における日本のアイドルシーンや芸能界などに必要とされるのは、BTSのARMYたちのような広い視野だ。SKY-HIも「『日本は日本、海外は海外』と切り捨てていい話ではない」(BMSGオフィシャルページ「 WHAT'S "BMSG" 」)と述べているように、しっかりと現状と未来を見つめなければならない。人口減がさらに進む日本だけでは、今後マーケットが縮小するだけだからだ。

 5年後、10年後の日本のアイドルシーンや音楽シーンがどうあれば良いか、それをマスコミや業界人をはじめ、ファンも考えるタイミングに来ている。救いなのは、ネット対応のスピード感が乏しいジャニーズに対しファンたちが強い苛立ちと危機感を募らせていることだ。

 今後もインターネットはなくならず、ITはさらに進化する。スマートフォンのように、われわれの生活を大きく変えるようなイノベーションも遠くない未来にまた生じるだろう。

 男性アイドルグループも音楽も芸能界も、そうした社会の変化とともにある。社会は固定的ではなく絶えず変化する。現在そこで生じているジャニーズやK-POPなどの競い合いは、2020年代の社会変化の反映だ。この競争を、より良い音楽と芸能状況につなげていかなければならない。

(松谷 創一郎)

関連記事(外部サイト)

×