星野源「こじらせ中年」を演じさせたら日本一? 役者としての魅力を超濃厚解説

星野源「こじらせ中年」を演じさせたら日本一? 役者としての魅力を超濃厚解説

新垣結衣との結婚を発表した星野源 ©文藝春秋

 一時期、私が住むおしゃれではない街でおしゃれ風カフェが増えた。不思議なことに、いつどの店に行っても星野源の歌がかかっていた。何かの呪い? 星野源をかけておけば、おしゃれなの? 確かに、ふんわりとした歌声と優しいメロディは会話や作業を邪魔しない。居心地のいい空間だと錯覚を起こす。波音とかせせらぎとかさえずりとか星野源。自然界と同列のはびこり方だ。それが5〜6年前の話。

 そんな星野源が、先月ドラマの共演を機に人気女優・新垣結衣との結婚を発表。多彩な才能をもつ彼だが、「俳優としての暗躍っぷり」を振り返ってみようと思う。

■リアルだった「あきらめの理論武装」

 今でこそビッグスターだが、どうしてもぬぐえない刷り込みがある。大人計画の隅っこでニコニコしながらギターを弾いたり、飛んだり跳ねたりしていた頃、星野源といえば「童貞」だった。童顔じゃなくて童貞。大人計画での称号が尾を引き、童貞役が異常に多かったので、永遠に童貞の看板を背負うものと思っていた。

 最も深く脳に刻まれたのは、映画『箱入り息子の恋』(2013年)の主役である。市役所勤めの実家暮らし、貯金が趣味で、アマガエルを飼う男・天雫健太郎35歳。

 あがり症で人の目を見て話すことができず、彼女いない歴=年齢の童貞だ。アマノシズクという珍しい名字が途絶えてしまうことを危惧した両親(平泉成&森山良子)は息子のために婚活を始める。本人はコンプレックスが強く、コミュ障を自覚しており、「結婚はしない。ひとりで生きていくだけの貯えをする」と断言。

 ところが、偶然出会った目の見えない女性・今井奈穂子(夏帆)と恋に落ちる。親の猛反対や命の危機、数々の壁にぶち当たりながらも愛を成就させる物語だ。

 とにかくこの役は影の薄さが必須で、ただ辛気臭いだけではつとまらない。コメディだがコミカルな動きは封じ、純粋にコンプレックスの強さと内なる変化を表現。なまじ賢いがゆえの「あきらめの理論武装」はリアルで、男として値踏みされた経験をもつからこその配慮もある。星野源は徹底して地味に徹し、完璧に演じた。

■星野源「こじらせ三部作」の共通項

 結婚のきっかけになった『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年・TBS)の津崎平匡役も、この天雫に通ずるモノがあった。潔癖症の一歩手前、生活信条にこだわりがある「プロの独身」だ。

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 インテリジェンスと経済力とそれなりのデリカシーを持つ津崎が、家事代行を完璧にこなす知的な女性・森山みくり(新垣結衣)と出会い、「契約結婚」から愛を育んでいく物語。初夜に逃げる臆病な一面はあったものの、思いやりといたわりはちゃんとある。なんつっても「上に立つでも、下手に出るでもなく、対等な関係で話し合いができる」男を見事に体現したのだ。

 最新の「こじらせモノ」は、映画『引っ越し大名!』(2019年)の片桐春之介役。姫路藩の書庫番という地味で影の薄い男なのだが、本好きが高じて博識ではある。ただし、武芸の才は皆無。藩の中では皆から小馬鹿にされ、カタツムリと呼ばれている。

 姫路藩では度重なる国替え(藩の引越し)で台所は火の車。しかも引越を仕切っていた名奉行が亡くなるという危機的状況。その代理を押し付けられるのが春之介だ。幼馴染で刀番の源右衛門(腕も立つし手も早い高橋一生)、亡くなった奉行の娘・於蘭(高畑充希)とともに、無理難題の超低予算国替えを成功させる。しかも出戻り&子持ちの於蘭と結ばれ、最終的には国家老まで昇進する。

 ということで、星野源「こじらせ三部作」の共通項が揃った。「インテリで博識」だが「非社交的」で「不遇」、「経済力あり」だが「人、特に女性を決して下に見ない」、それゆえに「幸福な結末(童貞も無事卒業)」を迎える。未経験の男性に勇気と希望を与えつつ、心構えと矜持も叩き込んでくれるのでいいお手本だ。

 今は容姿端麗だが力や圧や我が強い男性より、知性と配慮と敬意と柔らかさのある男性のほうが結果的に女性票を獲得する時代。そこに星野源はピタッとハマったのだ。

■とにかく巻き込まれる災難体質

『引っ越し大名!』では気の弱さにつけこまれる、いわば「巻き込まれ」系だが、星野源が遭遇する災難はまだまだある。しかも、わりと頻繁に劇中で死にかける。

 映画『地獄でなぜ悪い』(2013年)ではヤクザの娘で元人気子役のミツコ(二階堂ふみ)に騙され、極道の抗争に巻き込まれる役。

 偶然出会ったミツコに10万円で「1日恋人のフリをしてほしい」と頼まれ、鼻の下を伸ばして無償で快諾するも、それが地獄の一丁目。災難に巻き込まれたときの星野源は、最高におかしい。

 実はこの映画、劇中でまっとうな小市民は星野だけ。日本刀や拳銃で極悪非道に暴れまくるヤクザ(國村隼や堤真一)、テンションと思考回路が異様な映画オタク(長谷川博己)、恋したミツコは残虐極まりないドS娘。

 たった一日の偽装恋人のはずが命を狙われ、大量のコカインにまみれて右腕は切り落とされるわ頭に刀刺さるわの一大事。無茶ぶりと暴力に白目を?きながらも、ミツコを守ろうと超微力ながらナイト気取り。星野源の表情がいちいち切なくて、いちいち可笑しいのだ。

■災難を引き寄せる吸引力はダイソン以上!

 もうひとつ、災難作を。『プラージュ〜訳ありばかりのシェアハウス〜』(2017年・WOWOW)の主人公・吉村貴生は旅行代理店勤務の冴えない男。

 上司からは中身スカスカの「ヘチマ」と呼ばれ、同期の女性は上司に寝取られ、やけ酒をしていたら、よからぬ輩と意気投合。その場でたった一度覚せい剤を打ったために逮捕される。200万円で保釈されるも当然解雇。とりあえず家に戻ってAV鑑賞中(いや、そこな!)、火事で家を失う。災難を引き寄せる吸引力はダイソン以上!

 この貴生、初めはまったく反省がない。罪の意識もない。酔った勢いのうっかり不運くらいの感覚で、すこぶる能天気なのだ。家も仕事も失った貴生が身を寄せたのがシェアハウス「プラージュ」(オーナー役は石田ゆり子、住人は仲里依紗、中村ゆり、渋川清彦にスガシカオ、眞島秀和ら手練れが勢ぞろい)。

 ここはワケありの前科者が集う場で、それぞれの過去と今もなお続く苦しみが交錯している。彼らが白眼視される現状を見て、貴生は徐々に罪の重さと厳しい現実を知ることになる。

 罪の意識も反省の欠片もなかった貴生の姿は、逆に「いつ犯罪に巻き込まれ日常を失うかもわからない」怖さを見せつけた。思い通りにならずとも平々凡々安穏に暮らしていた日々がどれだけ尊いものか。己の浅はかさを噛みしめる主役に、星野源はぴったりだった。以上が、星野源の「巻き込まれ三部作」(薬物山盛り)である。

■リストラ・無職つながり

 さらにつなげるよ。『プラージュ』で解雇・無職となった星野源だが、もうひとつ忘れちゃならないリストラモノが『11人もいる!』(2011年・テレ朝)だ。

 大家族ホームコメディで、父(田辺誠一)と母(光浦靖子)と8人の子供(神木隆之介に有村架純、加藤清史郎ら)で真田家は計10人なのだが、前妻の霊(広末涼子)も同居して11人いる、という物語。星野の役どころは田辺の実弟。10年勤めた会社の社長(佐藤二朗)が借金をして逃亡、なぜか自分だけが借金とりに追われて自殺未遂まで経験。

 解雇され無職となり、真田家に居候している。マイナス思考で辛気臭く、作る笑顔は微妙に嘘くさいというコミカルさは、大人計画で鍛えたコメディ筋肉でお手の物。物干し場でギター片手に歌う姿は『寺内貫太郎一家』オマージュだが、西城秀樹ほどかっこつけさせてはもらえない。一家からは関心をもたれず敬意も払われず、影が薄い。「影の薄さはある意味天賦の才能」と思わせた。

 そんな星野源だが、いつまでも影が薄い童貞の陰キャで、濃ゆい人々に巻き込まれて死にかけてはいられなくなってきた。人気者の宿命だが、「え? ヤダ、ちょっとカッコイイ!?」という役も増えてきちゃったからだ。

■くすぶってこじらせている役をずーっと演じてほしいんだけど

 まずは、産婦人科医療の厳しい現実を描いた『コウノドリ』(2015年・2017年、TBS)だ。

 星野が演じるのは患者にも医師にも厳しく冷徹な産科医・四宮ハルキ。1ミリも笑わない無愛想の背景には、自分を戒めている贖罪の念がある。

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 5年前の四宮は喫煙妊婦を厳しく叱ることもできない優しい笑顔の産科医だった。ところが、その妊婦が早期胎盤剥離を起こし、大量出血で亡くなる。子供は重度の脳性麻痺で今も入院中。喫煙を禁じることも命を救うこともできず、この家族を不幸にしたと自分を責め続けて、時々悪夢をみるほどのトラウマも抱えている。

 また、『MIU404』(2020年・TBS)では機動捜査隊の刑事・志摩一未役。常に冷静沈着、やんちゃで甘えん坊な相棒(綾野剛)とはやや距離を置いて任務をこなす。距離を置くのは、証拠を捏造して警察を辞めた相棒(村上虹郎)の死に、責任を感じているからだ。警察内部でも疑いの目で見られ、時には罵声も浴びせられるが、決して多くを語らず、心の奥で深く悔やんでいるという役どころ。

 そして、映画『罪の声』(2020年)では、子供の頃の自分の声が世間を揺るがした未解決事件に悪用された主人公。31年前、複数の大手企業が脅迫・恐喝された事件だが、いずれも未遂に終わり、金も人命も奪われていない。それでも親族が罪を犯したかもしれないという疑念、現在の幸せが壊れるかもしれない恐怖、そして知らなかったことで別の罪悪感に苛まれる難役だった。以上が星野源「罪悪感三部作」。

 要するに、ここ最近の星野源は「罪悪感が重量級の主演俳優」なのだ。童貞で陰キャからの大躍進。もう変なあだ名で呼ばれて馬鹿にされることもなく、何ならちょっと二枚目風な空気も醸し出すようになって。

 個人的には、老いてもなおくすぶってこじらせている役をずーっと演じてほしいんだけどな。ということで、結婚後の出演作に過剰な期待を寄せて、お祝いの言葉に代えさせていただきます。

(吉田 潮)

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