あの日マツダスタジアムの雨に消えたファイターズ・金子弌大のヒットを忘れない

あの日マツダスタジアムの雨に消えたファイターズ・金子弌大のヒットを忘れない

広島戦でホームインする金子弌大

 一足遅れて、やっとファイターズも交流戦が終わりました。6月16日マツダスタジアム、1勝1敗で迎えた対カープ3戦目です。本来の試合は6月3日でしたが、雨で4回途中ノーゲームになってしまっていたのでした。

 ノーゲーム宣告の時点で5-2とリードしていたので、仕切り直しの試合で勝てなかったらヤだなあと取り越し苦労をしておりましたが、結果は8-1の快勝。前回のコラムでプロ初勝利のことを書いた伊藤大海の4勝目、更に交流戦最多勝と防御率1位も確定です。ルーキーの交流戦防御率1位は初めてなんだそうで、ファイターズは7勝11敗と負け越した交流戦でしたが、終わり良ければすべて良しという気分になる勝ち方でありました。

 ただ、実は、心残りがほんとに全くちっともないという訳でもないのです。

■パ・リーグの投手がタイムリーヒットを打つというお祭り騒ぎが起こってしまった

 3日は最初から雨の中の試合でした。ファイターズが1回表に早くも1点を先制しますが、カープもその裏すぐに追いつきます。両先発、床田寛樹も金子弌大も投げにくいんだろうなあと思いながらテレビを観ておりました。しかし雨でも何でも始めたからには試合成立してほしいと思うのがファンごころ。1試合だけのためにまた広島まで来るのは大変です。でも雨は強くなるばかり、2回表には実に41分間もの中断となりました。この時はてっきり中止だなと思っていたんです。同点の序盤で別にダメージないし……え? 再開?

 仕方ない、再開してしまった以上は5回まで頑張りましょう。清水優心がゲッツーを打ってしまいましたが試合進行の観点からは問題なしです。ツーアウトで打順は金子弌大、すみやかに三振してチェンジかと思いきや何と四球で出塁してしまいました。ここからタイムリーとか色々あって4人の打者が打席に入って、金子弌大はホームインまでしてしまったんです。えーと2点リードは嬉しいんですが大丈夫なんですか普段やらない走塁なんかして。ほら2回裏に連打されて1失点。雨があがった訳ではないので、ランナーが出るとはらはらします。こんなことやってる間にまた雨が強くなって今度こそ中止になったらどうするんだっ。

 という願いもむなしく3回表にまたしてもランナーがたまっていきました。ファイターズのチャンスでファイターズファンがやきもきするというのもおかしな話ですが、うっかりリードを奪ってしまったが故の邪念です。この雨だからノーゲームもやむなしと割り切ることができません。せっかくのリードがフイになったらもったいない、早く進んでくれと念じる中、ツーアウトランナー二・三塁で打席には金子弌大。何で2イニング続けて打順が回ってくるんですかほんとにもう。残塁でいいからここはさっさと終わらせて……えええっ?

 バット一閃。深々とセンターを破る2点タイムリーツーベースヒットを、何とパ・リーグの投手である金子弌大が打ってしまいました。これでリードは3点に広がりましたが、いや、あの、その、えーとっ。

 勝ってるからそのまま終わってほしいというだけだった邪念に、ここで変化が生じたのであります。

 パ・リーグの投手の打撃成績。これは交流戦の大きな楽しみです。いや、たとえ「成績」がなくとも打席に入る姿を見るだけでもうかなりテンションが上がります。ヘルメット姿の新鮮さ。あっ右投げだけど左打ちだったの?という今更の発見(もちろん選手名鑑にはちゃんと記載されていますが、パ・リーグの投手がどっち打ちかなんて普段は意識の外なので)。意外にファウルで粘っていたり、送りバントをぎこちなく決めたり、バットを振るその一挙手一投足だけでいちいち盛り上がれるのです。ましてやヒットなど打とうものなら、もうお祭り騒ぎですよ。岩本勉なんか、パ・リーグの投手初のホームランを未だに持ちネタにしてるくらいですよ(そのあと相手に2本打たれて負け投手になったというオチまで含めて)。

 そのお祭り騒ぎが起こってしまいました。しかも打点つきです。俗に言う自援護というやつです。

■投打のヒーローとして試合後のマイクを握る金子弌大の姿も見てみたかった

 これ、消えてほしくない!

 降雨ノーゲームは珍しいことではありません。リードしていたら惜しくなりますが、ビハインドだったのでちょっとホッとする場合だってある訳で、ならして見れば収支はトントンでありましょう。やり直しの試合で、また取り返せばいいんです。

 でも。試合そのものはやり直せますが、中止になった試合で起こっていたヒットも好投もファインプレーも、よみがえらせることはできません。最初から存在しなかったことになっておしまいです。

 野手はヒットも打点もまた次の試合で稼げばいいのですが、金子弌大の場合そうはいきません。交流戦のビジターゲームに登板してチャンスで代打を送られずにそのまま打席に入って打つ、そんな機会、この先ずっとプレーを続けたとしてもはたしてまた巡ってくるものかどうか。ましてやそこで本当に結果を出すなんてことが。

 千載一遇。一期一会。ここで会ったが百年目(だんだん変になってきた)。野球の神様への願い事は、この打席が記録に残ってほしいというただその一事のみになっておりました。極端なことを言えばもうリードを保てるかどうかは二の次で、ここから逆転負けでもそれはいいのです。いやそれはもちろんこのまま勝てば投打のヒーローをひとりで兼任で、それに越したことはないんですけれども……。

 4回表、再びの中断。そして、そのまま試合中止となったのでした。

 試合後の金子弌大は《「結果的に幻になったが、打ったのは事実なので」と笑顔を見せた。》(サンケイスポーツ)とのことです。うん。記録は残りません。でも彼は確かに打ったし、ファンはそれを確かに観ました。気の早い話ですがシーズン終了後に2021年のファイターズを振り返る時、きっとこのことも挙がるでしょう。これからずっと交流戦の時期になるたびに思い出して語られるかもしれません。

 この3日の試合が流れたので、16日に伊藤大海が交流戦の最後を締めくくることになりました。終わり良ければすべて良しと思いつつ、投打のヒーローとして試合後のマイクを握る金子弌大の姿も見てみたかったなと、やっぱり少し思ったんです。少しだけはね。

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(青空百景)

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