「漫画も気象予報士も外国語も、全部やらないと食べていけないから」 矢部太郎が語る“漫画が評価されたとき”の“米屋”のような気持ち

「漫画も気象予報士も外国語も、全部やらないと食べていけないから」 矢部太郎が語る“漫画が評価されたとき”の“米屋”のような気持ち

「『大家さんと僕』は誰も読まないだろうと思って描き始めた」と語る矢部太郎さん

「ほかの友だちみたいにテレビゲームや超合金のオモチャがほしかった」 カラテカ矢部が絵本作家の父に思う“大好きだけじゃない”気持ち から続く

 大ヒット漫画『 大家さんと僕 』(新潮社)を描いた矢部太郎さんの最新作『 ぼくのお父さん 』(新潮社)。売れっ子漫画家になった自分を、矢部さんご自身はどう思っているのでしょうか。実の父である絵本作家・やべみつのりさんからのメッセージもご紹介します。(全2回の2回目。 前編 を読む)

【マンガ】『僕のお父さん』を読む

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■子どもの目線で描いた『ぼくのお父さん』

――『ぼくのお父さん』は、大ヒットとなった前作『大家さんと僕』に次ぐ作品です。プレッシャーや気負いはありませんでしたか。

 プレッシャーはそれほどなかったです。自然に描きたいテーマだったし、お父さんがユニークな人なので、きっと面白いものになるだろうという思いもあったので。ただ、『大家さんと僕』のときは、そもそも誰も読まないだろうと思って描き始めたので、自分の感覚だけで描いていた部分があったのですが、自分が思っていた以上にたくさんの方に読んでもらえたので、ギャグや言い回しが自分勝手にならないように気をつけました。

――「ぼく」という言葉がひらがなになっています。あえて『大家さんと僕』と変えたのはなぜですか。

 今回は、子どもの目線で描いているのでひらがなにしました。それと、カラーにしたのも思い入れがあります。何をするのも新鮮で、キラキラしていた子ども時代の思い出はカラーで表現したかったので、現代の自分はモノクロで、過去をふり返る部分はカラーで、と描き分けました。あっ、だからといって、今がモノクロのような毎日、という意味ではないんですけど……えーと……。

――大丈夫です、伝わります(笑)。オールカラーで豪華だなと思っていたら、カラーには「色鮮やかな思い出」というイメージがあるのですね。

「絵本作家のお父さん」の話を描くので、全体的に絵本っぽい感じがいいかなという思いもありました。見開きのイラストは、四季をイメージして描かせてもらいました。『週刊文春』の和田誠さんの表紙みたいな絵もいいですよね。いつかああいう絵も描きたいなと思っています。

■お父さんの帽子

――「父親が絵本作家」というのは、子どもにとって自慢でしたか。

 自慢というか……。いつも家で絵を描いているし、どこに行っても絵を描くので、ほかのお父さんとはちょっと違うなと思っていました。ほかのお父さんは毎日スーツを着て会社に行くのに、うちはいかないし、いつも帽子をかぶっているし、「変わってる」なと。

――漫画に登場する帽子も独特です。お父さんの手作りなのですか。

 僕の中のイメージで描いたらああなったんですが、後から昔の写真を送ってもらったら普通の帽子で、記憶と全然違っていました。あれはさすがにお父さんからも「電気スタンドのカサみたいで、ちょっと変」と言われました(笑)。

 でもつい先日も「100円ショップの300円コーナーに似ている帽子があった」と買ってかぶっているそうなので、あのタイプの帽子は気に入っているんだと思います。

■お米屋さんなのに、お米以外のものを置いている、みたいな

――漫画家としても高い評価を受けておられる矢部さんですが、「芸人」「俳優」「漫画家」など違うジャンルで活躍することに葛藤を感じたり、違和感を覚えたりすることはありませんか。

 漫画を評価していただけるのは「芸人が描いた」ということで、かなり下駄を履かせてもらっているからだと思っています。俳優として声をかけていただけるのも芸人だからだし、漫画を読んでもらえるのも芸人だから。なので自分では「本物の俳優さんや漫画家の方とは違う」と思ってやっているところがあって、そこに対しての葛藤や違和感はありません。

 気象予報士の資格を取ったのも、外国語を習得したのも、全部やらないと食べていけないからやっているだけなので、どれが本当の自分か、みたいな悩みや葛藤も、まったくないです。むしろ、芸人だから何でもやれてラッキーだなと思っています。

 本当はお米屋さんなのに、お米以外のものを置いている、みたいな感じなんですかね。週刊誌とかも売ったりして、米屋なのか本屋なのかわからなくなる、みたいな。えー……、たとえが悪かったですね。苦しくなってきました(笑)。でも、漫画で声をかけてもらえるのは嬉しいです。

■親子コラボの紙芝居

――「漫画家・矢部太郎」と「絵本作家・やべみつのり」の初めての「親子コラボ」も実現するそうですね。

 ラフをお父さんが描いて、文章と仕上げの絵を僕が描いた紙芝居が9月に発売になります。タイトルは、誰もが知っているあの『うさぎとかめ』です。

 漫画は近くで読むものですが、紙芝居は遠くにいる人にも見てもらえるようにしなくてはいけないので、線を太くとか、絵をハッキリ描くとか、人物が重ならないようにとかいろいろなマナーがあるんです。絵本ともまた違う発見や新しい気づきがあって面白かったです。

 絵本の場合は、長く読まれるものにしたいので、時代的なものはあまり入れないとお父さんから聞きました。携帯電話やテレビを描かないとかいろいろあって、それがベストセラーになる秘訣だそうです。

――矢部さんご自身も、いつか絵本を描いてみたいと思われますか。

 卒業文集で「将来は絵描きになりたい」と書いたこともあったんですけど、ずっとそう思っていたわけではないんです。というのは、僕の中では、いつも絵を描いていて、子どもと一緒に面白がり、子どもの絵や造作に本気で感動するような、お父さんみたいな人が絵本作家になるんだろうという思いがあったので、お父さんとは違うタイプの僕が、絵描きになるのは難しいだろうというのは、自分でも何となく思っていました。

 でも、子どもの頃、お父さんと一緒にカルタや紙芝居を作って楽しかったり嬉しかったりした経験が、いま漫画を描くことにつながっているので、それはすごくよかったなと思います。

■やべみつのりさんからのメッセージ?

絵本作家・やべみつのりから

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 親バカですが、よく描けているなと思います。

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 自分で言うのもなんですが、つくづくへんな「お父さん」ですね。高度成長期に「全力でのらないぞ!」という気合いを感じます(笑)。

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 自分の好きなことを、子どもと一緒にやっていたなあと改めて感じました。僕自身が子どもと楽しみながら、生き直していたように思います。子育てをされている皆さん、子育てを楽しんで、子どもから学んでください。子どもはみんなおもしろい!

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 マンガとしても、シンプルななかにポエジーがあって、読者に想像する余地を残していていいなと思いました。幼い息子視点で父親のことを描いたのもユニークなんじゃないかな。お父さんの帽子は、電気スタンドのカサみたいで、ちょっと変だけど(笑)。

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 締め切りを守らず編集者を困らせているところなどは今も変わっていないので、太郎は成長して活躍しているようだけど、僕自身は成長していないなあ。

やべ・みつのり

1942年生まれ。絵本作家、紙芝居作家。絵本に『かばさん』『あかいろくん とびだす』、『ひとは なくもの』(共著)、紙芝居に『かめくんファイト!』『かわださん』などがある。96年に第34回高橋五山賞奨励賞を受賞。

(取材・構成:相澤洋美、撮影:山元茂樹/文藝春秋)

【マンガを読む】「お父さんは何でも絵に描きます」懐かしの家族の思い出を振り返る…矢部太郎さんが描く「ぼくのお父さん」

【マンガ】「お父さんは何でも絵に描きます」懐かしの家族の思い出を振り返る…矢部太郎さんが描く「ぼくのお父さん」 へ続く

(矢部 太郎)

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