高橋留美子「私は永遠の“中2病”なんです」 担当編集が“驚愕”した『犬夜叉』声優との宮古島でのできごと

高橋留美子「私は永遠の“中2病”なんです」 担当編集が“驚愕”した『犬夜叉』声優との宮古島でのできごと

『週刊少年サンデー』で行った応募者全員サービス の『犬夜叉』複製原画を持つ森脇健人さん

「ボツになった扉絵をTwitterで…」「2週間で質問4000件以上」 《神光臨》漫画家・高橋留美子さんが公式Twitterを開設したワケ から続く

 高橋留美子さんが『週刊少年サンデー』で連載中の『 MAO 』が熱い盛り上がりをみせている。『MAO』は、小1の時に事故で家族を失った中学3年生の少女・黄葉菜花(きばなのか)が、大正時代に漂流。運命的に出会った陰陽師の少年・摩緒と、苦難を乗り越えながら自身の「謎」を解き明かしていく大正怪奇ロマンだ。『MAO』の立ち上げから関わっている担当編集の「モリケン」さんこと、森脇健人さんに、高橋作品と高橋さん本人の魅力についてお聞きした。(全2回の2回目。 前編 を読む)

■休んでいる間の雑談から構想が生まれた

──森脇さんは『MAO』の立ち上げ前から高橋さんの担当編集をされていらっしゃるとお聞きしました。2009年から連載していた『境界のRINNE』が2017年に完結したあと1年半くらいお休み期間がありましたが、何か特別な事情があったのですか。

森脇 今回はこれまででいちばんお休みのスパンが長かったんですけど、特に「休みたい」という明確な理由があったわけではなく、気づいたらこんなに休んでいた、という感じです。

 なので、休んでいる間も1週間に1回くらい雑談がてら打ち合わせをしていました。そのなかで、アガサ・クリスティの全作品を一気読みして面白かったという先生の話から、次はダークな感じでちょっとミステリー仕立ての話を描きたいという構想が生まれました。

 ご自分でもおっしゃっていますが、高橋先生の作品は「アドリブ型」が多いんです。これは、まずキャラクターと舞台設定があって、そこで誰がどうなるかというのを、その都度考えていくというスタイルです。しかし今回の『MAO』はミステリー仕立てなので、綿密にストーリーラインを組み立ててやっているそうです。これは今までにない新しい取り組みで、すごく楽しいと言っていました。

■「呪い」をテーマにした作品が生まれるまで

──『犬夜叉』や「人魚シリーズ」もダークな側面があります。『MAO』は設定やキャラクターは『犬夜叉』に似ている部分もあるように感じますが、なぜ「呪い」をテーマに描かれたのですか。

 前作の『境界のRINNE』が学園コメディーだったので、あえてシリアスな方向に絞ったということでしょうか。

森脇 最初は、安倍晴明のライバルの蘆屋道満(あしやどうまん)に興味があるということで、彼をテーマにしたストーリーも考えていたそうです。でも、昔読んだ中島らもさんの『 ガダラの豚 』というアフリカ民族の呪術をテーマにした小説が面白かったという話から、「閉鎖された社会と呪術」で盛り上がり、「呪い」をテーマに構想が固まっていきました。

──生と死を真っ向からとりあげた「人魚シリーズ」も、かなりシリアスな内容でした。『うる星やつら』で、コメディーアクションに親しんでいた読者には衝撃でしたが、結果として「るーみっく・わーるど」がさらに広がったように思います。

森脇 高橋先生の作品は毎回新しいファンが生まれています。同年代の男性ファンを獲得した『うる星やつら』の後の『らんま1/2』では、小中学生など若いファンに向けた作品を描かれました。「人魚シリーズ」は今でも人気作品のひとつですが、先生のなかには、常に新しい読者を楽しませたいという気持ちがあるんだと思います。

■少年漫画家に大切な要素は「中2病」の心

──せっかく獲得したファンにウケないかもしれない作品を描くことは怖くないのでしょうか。

森脇 「自分が中高生の時に漫画にたくさん楽しみや喜びをもらったので、中高生が楽しめる作品を描き続けたい」という思いが高橋先生の中に強くあります。よく「私は永遠の“中2病”なんです」と冗談交じりで言っていますが、少年漫画家に大切な要素って、実はこの「中2病」の心なんです。夢のある話を描けるかどうかは少年誌漫画の大事な要素で、先生がそれをずっと持ち続けていられるのは、ある意味「永遠の“中2病”」だからという部分があるような気がします。

 コロナ前に『犬夜叉』の声優さんたちと宮古島に旅行に行った時、学校の隣に使われていない焼却炉を見つけたことがありました。

 僕らは「古くて汚い焼却炉」としか思わなかったんですが、先生はその焼却炉に興味を持ち、「どんな構造になっているんだろう」「どんなドラマがあったんだろう」と妄想して「もしかしたらこの焼却炉でこういう小学生の二人が……」と、1本短編が描けるような「ストーリー」を語り出したんです。同じ体験をしているのに、先生はそこにドラマ性を感じてひとつの面白いエピソードを生み出せるんだ、と衝撃でした。そういう部分をお持ちになっているということが、先生のおっしゃる「永遠の“中2病”」ということなんだろうなと思います。

 少年誌はウソをついてなんぼと言ったら語弊がありますが、いかに面白いウソを描けるかが大事なので、先生としてはネタがあればそれをふくらませて面白くしようということでやってこられたのではないかと思います。

■僕ら編集者よりたくさん本を読んでいる

──作品を「面白くする」原動力は、想像力だと。

森脇 加えて、膨大なインプットです。高橋先生はとにかくいろいろな作品をご覧になっています。週に1回は本屋に行き、いま連載しているものから人気の作品まで、漫画、小説、雑誌問わず全部購入して読んでいるので、すごいなあといつも思っています。

 Twitterのおすすめの本への回答でも浅田次郎さんの『蒼穹の昴』や、アガサ・クリスティ作品をあげておられましたが、僕も先生から「この本面白かったよ」とおすすめしていただいたことが何度もあります。下手したら僕ら編集者より、たくさん本を読まれているかもしれません。とにかく「すごい作家さんだな」と思うことばかりです。

■どの年代にも普遍的に面白いと思える魅力

──高橋さんの作品は「古びる」ということがないように感じます。昔の作品を今読み返しても面白いですし、大人から子どもまで面白いと思える作品を描き続けるのは、想像力を磨き、絶え間なくインプットもされているからなのですね。

森脇 小学生のファンの方から「お父さん・お母さんの本棚にあって読んだらはまってしまいました、すごい大好きです」というファンレターをいただくことが多いんですけど、これは、どの年代にも普遍的に面白いと思えるものを描いていらっしゃるからだと思います。ここ最近は、「お父さん・お母さん」だけでなく、「おじいちゃん・おばあちゃんの本棚にあって……」というのもあるので、全方位網羅しているなというのは感じます。

 先日連載が終了した『進撃の巨人』の作者の諫山創先生がテレビに出ていらっしゃのを、たまたま高橋先生と一緒に見ていたことがあります。「次作の構想はあるんですか」と聞かれた諫山先生が「今はまだ次描けるかどうかわからないですね」とこたえていた時に、高橋先生が「また描きたくなるものですよ、漫画家というのは」と静かにおっしゃいました。何度も何度も新しい作品を立ち上げて大ヒットをとばしている高橋先生だからこそ、そういう気持ちがわかるんだろうなと、背筋が伸びる思いでした。国民的ヒット作を出したあと、高橋先生も諫山先生と同じような気持ちになったことがあるんだと思います。でもまた次を描きたくなる。だからこそ「諫山さんもそうだと思うよ」と言う高橋先生のお言葉には重みを感じました。

■出版社から送られてくる献本もすべて読んでいる

──本当に、漫画がお好きなんですね。

森脇 とにかく、漫画がお好きなんだというのはいつも感じています。どんな作品でも読みますし、出版社から送られてくる献本も、すごい量ですが、すべて読んでいます。小学館のパーティーなどで、若手漫画家さんが先生にご挨拶に行くと、「いつも読んでいます」「あの展開は面白かったです」と高橋先生からお声をかけているので、みなさん感動されています。

 あとは本当にお優しいというか気遣いの人というか。僕ら編集部が差し入れしたお菓子なんかも「美味しかったです」と必ず感想を言ってくださるんですよ。あれ、地味に嬉しいです。愛にあふれているんですよね。

■高橋先生の作品をひとことでいうと「愛」

──連載終了したキャラクターへの感謝の気持ちを綴ったTwitter公式アカウント「 高橋留美子情報 」の質問への回答にも、高橋さんの優しさがあふれていました。

森脇 高橋先生の作品って、ひとことでいうと「愛」なんです。誰かに嫉妬したり愛したりする感情って、誰にでもありますよね。高橋先生はそれを本当にうまく描くなと思います。

『MAO』は、900年くらい続く愛と憎しみの物語です。過去にとらわれている人たちが未清算の過去をどう清算していくのかという物語のなかに愛情や憎しみが詰まっています。そこに注目して読んでみるとまた面白いので、ぜひ読んでいただきたいです。

 最後に宣伝してもいいですか? 7月16日に『MAO』の第9巻が発売になるので、よければみなさん、買ってください(笑)。

(撮影:今井知佑/文藝春秋)

(相澤 洋美)

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