『サマーウォーズ』主演・神木隆之介28歳 子役出身でも「素直なかわいい人間でありたいよね」と公言できる深い理由

『サマーウォーズ』主演・神木隆之介28歳 子役出身でも「素直なかわいい人間でありたいよね」と公言できる深い理由

『サマーウォーズ』より ©スタジオ地図

「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」

 鼻血を垂らしながらエンターキーを叩く小磯健二=神木隆之介。この『サマーウォーズ』(09)の名場面をもって、神木隆之介が声優という境地を完全にものにしたと感じた人は多かったろう。

 7月16日に「金曜ロードショー」で放送される『サマーウォーズ』。細田守監督の名を世に知らしめることになったヒット作だが、神木隆之介が声優としての才能を一気に開花させた作品でもある。

■2歳でデビュー、子役のイメージを打破

 1995年、2歳で子役としてデビュー。剣豪からナード(極めて内向的な文化系)まで演じられる実力派俳優、エポックメーキングなアニメ作品には欠かせぬ声優として活躍し、子役のイメージを打破したどころか、才能と魅力を拡張し続けている。その原動力の源、表現者として生きるうえでのテーマとなり、周囲から愛される性格を形作ったのは幼い頃から母に厳しく言われた3つの家訓だという。(※1)

 雑誌やCMに出ることで成長を記録していけたらと考えた母親が、事務所に応募してデビュー。だが、その記録とは家族アルバム的な意味合いではなく、生後間もなく「生存の可能性は1%」の大病を乗り越えるも体の弱かった息子が“生きていた証”を残したいという切実なものだった。

 玩具のCMに出演し、証を残せたと満足した母から「もう、(子役を)やめてもいいんだよ」と言われた神木は「現場で大人と話をするのが楽しかったので、『続ける』」と即答。(※2)「五十にして天命を知る」という言葉があるが、神木は生まれて数年で天命を知ったのである。

■『千と千尋』坊、『ハウル』マルクル役に抜擢

『グッドニュース』(99)で、中居正広の息子役を演じてドラマ・デビュー。以降、『QUIZ』(00)、『涙をふいて』(00)、『ムコ殿』(01)などのドラマに出演し、瞬く間に人気子役に。いまにして思うと、彼には子役の“あざとさ”みたいなものが感じられなかった。ルックスだけでなく、イノセントな子供本来の可愛さも滲み出ていた気がする。数々の作品で顔を合わせている大後寿々花も、『あいくるしい』(05)のときは、「神木君は電車の本をずっと読んでいて、その話ばかりしていたのですが、今回は電車の話はしなかったし、すごく変わっていて驚きました」と『遠くの空に消えた』(07)での共演時に目にした、神木のピュアっ子ぶりを振り返っている。(※3)当時の彼の言動は無意識なものだと思うが、《神木家の家訓 その1:性格のかわいい人でありなさい》が活かされたエピソードではないだろうか。

 そのイノセンスぶりと高い表現力に着目したのが、宮崎駿監督。『千と千尋の神隠し』(01)で湯婆婆が溺愛する息子で巨大な赤ん坊・坊、『ハウルの動く城』(04)ではハウルの弟子・マルクルのボイスキャストに抜擢。8歳で坊を演じ、「監督に教えてもらったとおりにセリフを言って、仕事という感覚はあまりなかった」と振り返っているが、声は可愛いのに容姿は奇怪で性格は傲慢な坊は鮮烈な印象を残した。(※4)

 以降、長瀬智也、竹内結子、篠原涼子と共演した『ムコ殿』(01)、悪役レスラーの父に複雑な想いを抱く息子を演じた『お父さんのバックドロップ』(04)、上戸彩が扮する女子高生をエロチャットの世界へと導く小学生を演じた『インストール』(04)など、映画にドラマにと引っ張りだことなる。

■「演じるというのは、魂を削ること」

 そんななか、映画初主演作『妖怪大戦争』(05)で三池崇史監督と出会ったことで、当時11歳だった彼の演技に対するマインドが一変する。三池監督から、役柄の置かれたシチュエーションなども意識して演じることを徹底的に叩き込まれ、「演じるというのは、魂を削ることなんだ」と説かれて奮起、俳優としてさらに邁進することを誓ったという。(※2)この謙虚な姿勢、そこから確実になにかを学んでいく姿勢は《神木家の家訓 その2:実るほど頭を垂れる稲穂かな》の賜物ではなかろうか。

 2009年、細田守監督の『サマーウォーズ』で、数学に関しては非凡な才能を持っているがコミュ障気味という主人公・小磯健二のボイスアクトを務める。婚約者を装うバイトを持ち掛けてきた校内のアイドル・夏希(桜庭ななみ)の一挙一動にドギマギし、彼女の実家に結集する個性豊かな家族たちにホッコリし、架空世界から現実世界に侵食する凶悪アバターとの戦いにアガるさまを、コミカルかつエモーショナル、親近感たっぷりに体現。

「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」と、鼻血を流しながら現実世界の崩壊を食い止めた瞬間、とてつもないカタルシスが押し寄せると同時に声優・神木隆之介の存在の大きさを感じた。

■コメディとナード俳優への挑戦

 2011年の宮藤官九郎が脚本を手掛けた『11人もいる!』では、貧乏な家をなんとかしようと考えるあまりに突飛な行動を取ってしまう主人公の高校生・真田一男を怪演してコメディもイケる俳優であることを知らしめた。翌年の『桐島、部活やめるってよ』(12)では、校内ヒエラルキーの底辺でもがきながらもゾンビ映画の制作に情熱を燃やす映画部員の高校生・前田涼也を大熱演し、ナード・キャラもこなせる俳優の地位も確立して『屍人荘の殺人』(19)のミステリー・オタクの大学生・葉村譲役やauのCM『意識高すぎ! 高杉くん』シリーズの高杉役に繋げている。

「芝居を通して自分が知らない自分に出会うことを期待している」と話している神木だが、コメディとナード俳優への挑戦、それによる子役出身のイメージ打破は《神木家の家訓 その3:真逆の意見も一度は受け入れなさい》を実践したものだろう。

■自他共に認めるオタク気質を活かして3次元化

 そして、2016年に新海誠監督『君の名は。』(16)で主人公・立花瀧の声を務める。かねてから作品の聖地巡りをするほどの熱狂的な新海誠ファンだっただけに、オファーされた際は夢なのかと思いつつも「新海監督の作品は実写にいちばん近いアニメーションだと思っていて、飾らない感じで、透きとおった声のイメージだったので、本当に僕でいいのか」とファンならではの冷静な作品分析に裏打ちされた苦悩を語っている。(※5)しかも、ヒロインの宮水三葉(上白石萌音)と中身が入れ替わるという難役でもある。だが、興行収入250億円、国内歴代興収ランキング第5位のメガヒットを記録。神木の力量と新海監督の眼力が生み出した結果でもあると言っていい。

『るろうに剣心』シリーズ(14〜21)では瀬田宗次郎、『バクマン。』(15)では高木秋人、『3月のライオン 前後編』(17)の桐山零、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(17)では広瀬康一と、自他共に認めるオタク気質を活かして名作コミックの主人公や人気キャラを原作の世界観を壊すことなく3次元化してみせた。

■佐藤健と独立「心はもう、部長です」

 今年、『コントが始まる』(21)でコメディ俳優、28歳のシンジを演じた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(21)と『100日間生きたワニ』(21)で声優と、それぞれの真価を発揮する一方で佐藤健と「株式会社Co-LaVo」を設立して独立した。

 神木家の家訓について「『素直なかわいい人間でありたいよね』というのがあるんです。でもそれは、何も知らない素直ではなく、黒い部分も白い部分も全部知ったうえでの素直さ、それをふまえて謝罪と感謝がきちんとできることが大切だと」とも明かし(※6)、デビュー25周年を迎えた去年には、自身のことを若手だと思うのか、ベテランだと思うのか問われると、「心はもう、部長です」「(部長として)『そろそろ若いヤツ育てるか』みたいな」「エンタテインメント業界の人たちがうらやむようなことをやってみたい」と今後の展望を語っていた神木(※2)。

 すでに現時点で“部長”どころか“会社設立者”であるだけに、「うらやむようなこと」には期待してしまう。それがなんなのか見当もつかないが、こちらこそ「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」の所存で新たなフェーズを待ち受けたい。

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【参考資料】
「 新R25 」(2019年2月14日、※1)
「日経エンタテインメント!」(2020年11月、※2)
『遠くの空に消えた』パンフレット(※3)
「女性自身」(2020年11月3日号、※4)
「ユリイカ」(2016年9月号、※5)
「女性自身」(2015年10月13日号、※6)
『行列のできる法律相談所』(2007年12月2日放送)
「週刊文春」(2019年12月12日号)
「フィガロジャポン」(2021年1月号)

(平田 裕介/文藝春秋)

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