《決勝進出ならず》競泳・瀬戸大也が抱える“お友達人事”の弱点 「ちょっと信じられない」発言の裏にあった真実

《決勝進出ならず》競泳・瀬戸大也が抱える“お友達人事”の弱点 「ちょっと信じられない」発言の裏にあった真実

400m個人メドレーでは予選敗退、200mバタフライでも準決勝敗退と苦戦が続く瀬戸 ©JMPA

 これが本当に、あの瀬戸大也の姿なのだろうか。

 目を疑う光景が続いている。東京五輪初日の男子400m個人メドレー予選に出場した瀬戸は、この種目で金メダル獲得を命題として5年間、練習と試合を積み重ねてきた。2019年のFINA世界選手権(韓国・光州)での200m、400m個人メドレー2冠、200mバタフライでの銀メダルという快挙すら、すべて東京五輪の400m個人メドレーで金メダルを獲得するためのもののはずだった。

■「東京五輪の400m個人メドレーで金」という目標

 瀬戸がこれだけこの種目に拘泥するのは、理由がある。幼いころから得意としてきたというだけではなく、同い年のライバルである萩野公介に中学生時にはじめて勝った種目でもあり、はじめて世界一に輝いた種目でもあるからだ。そして、5年前のリオデジャネイロ五輪の同種目で、予選で最高の泳ぎをしておきながら、決勝では疲れから失速してしまい銅メダルに終わった。瀬戸にとって400m個人メドレーと言う種目は、競技者としての喜怒哀楽がつまった種目なのである。

 だからこそ、目標としていた東京五輪で金メダルを獲りたかった。そのための準備は完璧に行ってきたはずだった。

 だが、現実は「9」という数字とともに砕け散った。

■瀬戸の頭をよぎったリオ五輪での“失敗”

 東京五輪400m個人メドレー予選。最終組に登場した瀬戸は、バタフライ、背泳ぎと順調に飛ばし、気づけば2位以下に1秒以上の差をつけていた。平泳ぎを終わっても、身体ひとつほどの差をキープしたまま。最後の自由形は、スピードを上げても良かったが、そこで瀬戸の頭にあったのは、リオデジャネイロ五輪の“失敗”だった。

「リオデジャネイロ五輪では予選で力を使いすぎて、決勝で思うような泳ぎができなかった」

 そこで、自由形で少し力を温存する作戦を立てていた。

 300mまで、しっかりといつもどおり泳げていれば、自由形で力を少し温存しても問題なく決勝に進んでいけるはず。そう考えていたが、誤算が生じる。

 周囲の4選手が自由形で一気に瀬戸を追い込んできたのだ。それに気づいたが、瀬戸は落ち着いていた。落ち着き過ぎていた、と言っても良いかもしれない。スピードを上げる周囲を横目に自分のペースで泳ぎ切った瀬戸は、4分10秒52でフィニッシュした。

■0.32秒差でこぼれ落ちた決勝進出の切符

 すべてのレースが終わり、予選の総合順位が出たとき、決勝進出ラインの8位までのリストに、瀬戸の名前はなかった。

 電光掲示板が切り替わり、9位以下の選手たちの名前が表示されたとき、そのいちばん上に瀬戸の名前があった。そう、総合9位。8位の選手とのタイム差は、たったのコンマ32秒。瀬戸の金メダルへの挑戦が、音を立てて崩れさった瞬間だった。

「今まで練習してきたことを確認しながら泳いでいたので…ちょっと、信じられないです。自分の読み間違いというか、決勝に進めなくて残念です」

 顔面蒼白とは、このことを言うのかというほど、瀬戸の顔から血の気が引いていた。

 この400m個人メドレーの敗北の裏側にあるのは、「経験の差」である。選手の経験ではなく、指導者の経験である。

■必要だった“指導者の経験値”

 五輪や世界選手権などで戦うとき、選手ひとりの力では到底、勝つことなど難しい。そこには信頼する指導者がいて、迷ったときに、間違ったときに自分を正し、ときには緻密に計算を重ねてレースプラン、勝負プランを導き出す。

 そんな指導者がいてこそ、選手は輝く。

 今回、瀬戸が師事していたのは、同級生コーチの浦瑠一朗である。ここで、彼の指導力云々を言うつもりはない。少なくとも瀬戸自身が指導者として彼を選び、二人三脚でこの先の競泳人生を歩むことを決断したことは、何も悪いことではない。

 ただ、五輪という舞台で金メダルという真の世界一を目指すには、選手だけではなく、指導者の経験も必要なのである。

 今回の大きなポイントとなったのは、「読み間違い」だ。瀬戸陣営は、決勝進出ラインが4分10秒前後だと読んでいた。確かに8位の記録が4分10秒20だったのは読み通りなのだが、瀬戸がそのギリギリの通過で良い、と考えたことがひとつ。競泳競技は、200m以下の種目は準決勝があるので、予選を通過できるのは16位までの選手だ。だが、400m以上の種目はその準決勝がなく、決勝進出の8人がそこで決まってしまう。それを逃すと、もう二度とチャンスは巡ってこないのが、400m以上の種目なのだ。

■決勝進出を“ギリギリで”狙うことのリスク

 その400m以上の種目においてギリギリの通過を狙うのは、どれだけベテランであっても、世界王者であっても“万が一”が起こる確率を残してしまう。決勝進出ラインが4分10秒と予想するならば、4分8〜9秒を出すことを目標とすべきであった。

 もし、経験豊富な指導者であれば、そうした指示を出すことができただろう。

 それだけではなく、五輪というのが競泳選手にとって世界最高峰の大会であるからこそ、海外選手たちはこぞって本気を出してくることが分かっている。過去の記録を見て予想したとしても、予選から攻めてくる選手も、世界選手権とは比べものにならないほど出てくる。そういうことを加味すれば、決勝進出ラインの予想は4分9秒前後という結論を導き出すことだろう。

 その経験が、浦コーチにはなかった。理由はシンプルで、五輪で戦ったことがないからだ。

 そうなると、実際に五輪を含めた世界で戦い抜いてきた瀬戸の意見を信じ、その線で作戦を立てていくことになる。それが、最終的に今回の読み間違いという結果につながってしまった。

■この失敗を瀬戸陣営はその先につなげていくはず

 幸いなのは、この経験を瀬戸だけではなく、浦コーチもともに味わったことだ。彼らは、今後出場する世界大会で、同じミスをすることはないだろう。彼らの競技人生は、まだまだ続く。この先につなげなければ、ただ「五輪で油断して負けた」だけになってしまう。

 その後の男子200mバタフライに出場した瀬戸は、準決勝に駒を進めたものの、またも決勝進出を逃してしまった。

 気持ちだけではなく、体調、泳ぎにも微妙なズレが生じていることは確かだ。残すは200m個人メドレーのみ。ライバルである萩野とともに出場するこの種目で、もう一度輝きを取り戻すことができるか。その泳ぎに注目したい。

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

関連記事(外部サイト)