前頭は140万円、大関は250万円、では横綱の月収は…? 力士の“収入事情”の実態に迫る

前頭は140万円、大関は250万円、では横綱の月収は…? 力士の“収入事情”の実態に迫る

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 本場所が連日テレビで放映され、多くの国民に愛され続ける相撲。しかし、伝統文化という側面を持つこともあってか、他のスポーツに比べてアスリートの収入にスポットライトが当たることはほとんどない。いったい力士たちはどれくらいの収入で、どのような生活を送っているのだろうか。

 相撲ライターの西尾克洋氏の著書『 スポーツとしての相撲論 力士の体重はなぜ30キロ増えたのか 』(光文社新書)の一部を抜粋し、意外と知らない力士の収入事情に迫る。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

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■“相撲界の顔”だからこそ責任が問われる横綱

 ボクシングや総合格闘技では試合に対してファイトマネーが設定され、勝敗に応じて貰える額が変わりますが、大相撲における給与は地位によって変わります。地位別の収入は次の通りです。参考までに、1年間同じ地位を維持した時の給与額も併記いたします。なお、こちらは2019年に改定されたものです。

 横綱:300万円/月    3600万円/年
 大関:250万円/月    3000万円/年
 関脇・小結:180万円/月 2160万円/年
 前頭:140万円/月    1680万円/年
 十両:110万円/月    1320万円/年

 こう見ると、横綱と大関の給与にそれほど大きな開きがないことがわかります。横綱は降格がないので成績が低迷すると批判に晒されますし、相撲界の顔なので何をしても常に議論の対象となります。うっかり黒いサポーターを付けてしまっただけでニュースになってしまうことさえもありましたし、所作を間違えたことが大きな批判を集めたこともありました。

 ただ横綱は出場するからには結果が求められる一方で、休場しても地位が守られる立場でもあります。関脇だった力士でも2場所全休すれば十両まで落ちるので給与水準は6割程度まで落ち込みますが、横綱であれば給料は全く変わりません。このことを批判する方もいますが、先に述べた責任の重さを考えると果たしてそれが妥当かどうかは解釈次第かと思います。

■勝てば獲得できる懸賞金、1本当たりの価格は?

 前頭以上(幕内)であれば、給料以外にも所得を獲得できるチャンスがあります。私達が目にする中で最も気になるのは懸賞金です。幕内では取組ごとにスポンサーから懸賞が出ることがありますが、誰がこれを提供しているかは取組前に出る懸賞幕を見ればわかります。1本7万円で、取組後に勝った力士が1本当たり3万円受け取ることになります。経費が1万円で、残りの3万円は協会が預かり引退後に渡します。

 懸賞金は取組によって差があり、横綱や大関になれば増えます。白鵬は年間で懸賞を2000本、6000万円を超える額を受け取ったこともあり、これは突出して多いのですが、人気力士でなければ数本付けば良いほうです。逆に遠藤のような人気力士は幕内でもかなり多くの懸賞が懸けられるので、相手力士のモチベーションが刺激された結果、大関戦と平幕戦の勝率がほぼ変わらないという珍現象を生んでいます。気の毒な限りです。

 これ以外にも幕内優勝力士は賞金1000万円、殊勲賞・敢闘賞・技能賞の三賞受賞者にはそれぞれ200万円が授与されます。特筆すべきは平幕(前頭)の力士が横綱に勝つことを金星と言いますが、金星一つにつき4万円が場所ごとに支給され続けます。史上最多で金星を獲得したのは安芸乃島(現:田川親方)の16個ですので、引退直前には場所ごとに64万円貰っていた計算になります。

■トップアスリートと比べると低い給与水準

 さて、この給与水準ですが果たして高いのでしょうか、それとも低いのでしょうか?

 一言で表すとトップアスリートの水準に比べると低いですが、平均的な競技と比較するとかなり高い水準という印象です。

 日本人アスリートでトップクラスの収入を得ているのはテニスの大坂なおみ選手と錦織圭選手で約40億円。野球のダルビッシュ有選手が20億円を超え、ゴルフの松山英樹選手が15億円で続きます。

 現在高額の収入を稼ぐアスリートは皆、世界的に活躍しています。放映権やスポンサー収入などの市場規模を考えれば、市場がほぼ日本国内に限られる大相撲と比べると開きが出るのは致し方ないことではありますが、この額を見るとビッグマネーを獲得するという動機で大相撲の道を選ぶことは考えにくいのが現実です。

 ただ、それでもオリンピックに出場するような競技に取り組む選手の大半が企業に所属し、サラリーマンと同程度か、場合によっては低水準の所得しか得られない実情があることもまた事実です。一人前の選手が等しく1000万円以上貰えるスポーツは野球・サッカー・ゴルフ、あるいは競馬や競艇などの公営ギャンブルに限られているのは特筆すべきことだと思います。毎場所会場が満員になり、地上波で安定して視聴率が10%を超えるコンテンツは大相撲だけなのですから。

■幕下か十両かで給与が10倍以上違う

 続いて、幕下以下の力士になるとどうなるか見てみましょう。彼らは給料がないのですが、場所ごとに次の額の手当てが付きます。

 幕下:16万5000円/場所  99万円/年
 三段目:11万円/場所   66万円/年
 序二段:8万8000円/場所 52万8000円/年
 序ノ口:7万7000円/場所 46万2000円/年

 大相撲の世界は衣食住が提供されるので、この額だけで生活せねばならないというわけではありません。ある意味で恵まれているとも言えますが、これでは一家の大黒柱になることはできません。十両以上の力士と比べるとその差は歴然としているのです。見ての通り、いわゆるサラリーマンの大半が得るような所得水準ではありません。1000万プレイヤーか、フリーターレベルか。それが大相撲の世界の厳しさと言えるかと思います。

 それゆえ、幕下上位の取組は苛烈を極めます。誰もが十両になりたくて、必死なのです。幕下力士が十両になりたいのと同様に、十両の力士はその地位を手放したくありませんし、十両から落ちてきた幕下力士も目の色が違います。給与が10倍以上になることももちろん大きいのですが、力士として一人前になることは誰もが目指すものです。相撲としての完成度は幕内や十両の方が当然上ですが、この番付にしかないガムシャラさがあるのです。不格好なところもありますし、観客数も上位と比べるとそこまで多くはありませんが、幕下の相撲を私が多くの方におすすめしているのはこういう理由からなのです。

■引退力士たちのセカンドキャリア

 一人前の力士はサラリーマンと比べるとかなりの額を稼げますし、一定の基準を満たせば、引退後は年寄株というものを取得して相撲協会に親方として残ることができます。ただ、その枠が105しかないために親方になれるのは1学年平均で3人程度です。言い換えると、その3人以外は相撲界とは異なるセカンドキャリアを歩むことになります。

 しかしどのスポーツでもそうなのですが、彼らのほとんどは子供のころからスポーツ一筋なので、引退後はどのような職業を選ぶとしても未経験から始まります。また、ある程度高齢かつ未経験で就職することになるため、給与水準は相対的に低めであることも事実です。

 十両以上の経験が長ければ、引退後に所得が下がっても現役当時の貯金があります。生涯年収ベースで考えた時に、十両以上での在位期間がどのくらいあれば生涯サラリーマンの方よりも高くなるかを算出したところ、およそ5年程度必要だということがわかりました。

 実はこの5年という期間は、奇しくも年寄株取得の条件である「十両以上:30場所」に一致するのです。言い換えると年寄株取得の条件を満たすレベルで結果を残さなければ、大相撲の道を最初から断念してサラリーマンになったほうが良いということを意味しています。

■大相撲で得た有形無形の財産が身を助けることも

 収入という意味で考えると夢もある世界ですし、スポーツ界では給与水準も高いと言えますが、トップクラスには水をあけられていますし、実力があっても生涯をトータルで見ると収入面から大相撲の世界を選ばないという道も現実的に考えるべきなのかもしれません。

 ただ大相撲の世界での頑張りや人間的な成長、そして人脈といった有形無形の財産が身を助け、セカンドキャリアで大きな花を咲かせることもあります。ある方から聞いた話ですが、最高番付が幕下上位だった元力士のちゃんこ屋さんは繁盛するのだそうです。現実的な打算から大相撲を選ばないのも一つの生き方ではありますが、このような話を聞くと大相撲の門を叩くことがその人の可能性を広げているのではないかと感じます。

【前編を読む】 朝青龍、白鵬、照ノ富士…強い外国人力士が目立つのには理由があった! “意外と知らない”その原因とは?

(西尾 克洋)

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