なぜ僕?『もののけ姫』主人公アシタカ松田洋治の“葛藤”「超有名俳優でも声優でもない中途半端な存在」だったのに…

「金曜ロードショー」でジブリ「もののけ姫」を放送 アシタカ役の松田洋治が葛藤告白

記事まとめ

  • 8月13日に「金曜ロードショー」でジブリ映画「もののけ姫」が放送される
  • 17歳のアシタカを演じた松田洋治は、当初、主人公だとは知らなかったと明かした
  • 山寺宏一や三ツ矢雄二など有名声優ではなく「なぜ、僕?」と疑問を感じたそう

なぜ僕?『もののけ姫』主人公アシタカ松田洋治の“葛藤”「超有名俳優でも声優でもない中途半端な存在」だったのに…

なぜ僕?『もののけ姫』主人公アシタカ松田洋治の“葛藤”「超有名俳優でも声優でもない中途半端な存在」だったのに…

松田洋治さん ©末永裕樹/文藝春秋

 ジブリ映画『もののけ姫』(1997年)が8月13日に「金曜ロードショー」で放送される。17歳のアシタカを演じた俳優・松田洋治さん(53)は、当初主人公であることを「知らなかったし、考えてもいなかった」まま、声の録音に臨んだという。室町時代を描いた『もののけ姫』で、アシタカの凛とした佇まいが生まれるまでの“物語”について伺った。(全3回の1回目/ #2 、 #3 に続く)

◆ ◆ ◆

■アシタカが主人公であることも「知らなかった」

――アシタカ役は、確定状態でのオファーだったのでしょうか?

松田 『風の谷のナウシカ』(84)でアスベル役を演じたからオファーされたとは思います。ただ、当時の段階で『風の谷のナウシカ』から10年以上が経過していたので、僕の声がふさわしいかどうか確認するためにひとまず声を録音して絵に当てて確認をしたいと。それでスタジオに行って録音をする作業があったようなんです。

 でも、確認してダメだったという可能性もありえたわけですよね。そこで事務所は、僕に気を使ったのか「宮崎駿監督の新作のオーディションがある」と伝えていました。それを素直に捉え、僕もキャストのひとりとしてのオーディションという認識で臨んだんですよ。

――アシタカが主人公であることも知らなかった。

松田 知らなかったし、考えてもいなかったです。他に受けている人が見当たらなかったけど、ひとりずつ時間をずらしてオーディションしているのかなと思ったくらいで。アシタカという少年のキャラクターや主人公であることを録音演出の若林(和弘)監督から説明してもらって、「ちょっと録ってみましょう」ということになりました。でも、僕としてはあくまでサンプルの素材として、主人公の役柄を使ってオーディションをするのだなと解釈して、アシタカのセリフを録音したんです。それが96年の秋ぐらいだと思います。

■劇場の特報を見たファンから「すごいですね」

――結果の連絡はすぐに?

松田 最近はそうでもないですけど、昔のオーディションは受かったら連絡が来るものがほとんどで。つまり、落ちた人にわざわざ「落ちましたよ」と連絡しないことが多かったんです。僕は通常のオーディションだと思っていたし、事務所からも連絡がないものだから、「ああ、ダメだったんだな」と。実際には声を確認して「松田洋治で大丈夫」ということにはなっていたらしいんですが(笑)。

 97年の正月明けでしたね。当時あったパソコン通信・ニフティ「フォーラム」で、一般の方から「宮崎駿監督の新作で主演をおやりになるんですね。すごいですね」というメッセージをいただいて。正月明けに劇場で特報が出て、それを観たファンの方からの連絡によって僕は事実を知ったわけなんですよ。しかも特報で僕の声を聞いたというけど、アフレコなんかしていないじゃないですか。まったく意味がわからないから事務所に聞いたら「そういえば、気を使ってオーディションなんて言い方をしちゃってたな。悪かった、悪かった」って(笑)。特報の音声は、僕がオーディションと思い込んでいた“確認”の時に録ったものだったようです。その時に初めて、主人公をやることをふくめてすべてを知ったんですよ。

――でも、アシタカが主人公であることは、“確認”時に説明されていたわけですよね?

松田 説明は受けていましたけど、タイトルは『もののけ姫』ですから。姫にあたる主人公もいる話だと考えていたわけですよ。だけど、台本をいただいて読んでいったらアシタカが純然たる主人公、完全にアシタカがメインになっているお話だったので驚いたというか。さらに、次々と発表されていく他のキャストの方々のお名前を見て「いったい、どういうことなんだろう?」と。

■有名な俳優さんばかりなのに「なぜ、僕なんだろう?」

――森繁久彌さんや森光子さん、美輪明宏さんといった大御所の出演に驚かれた。

松田 誰もが知っている、有名な俳優さんばかり。僕は“声優”という職業はないと思っているのですが便宜上、声優という言葉を使いますけど、僕が声優として実績を持っている人間だったらこの錚々たる布陣のなかで主演を張ってもおかしくない。でも、声の業界においても、一俳優としても僕は名があったわけでもない。超有名俳優でもなく、超有名声優でもない、中途半端な存在。だから山寺宏一さんや三ツ矢雄二さんとかならともかく、「なぜ、僕なんだろう?」という強い疑問。そこはいまだに解決していないというか、引っかかってはいますね。

――当時の松田さんは、80年代なかばから10年近くにわたって舞台に注力されていました。さらにアニメーション映画への出演は『風の谷のナウシカ』から13年以来。そうしたなかで、アシタカ役を引き受ける動機というかモチベーションみたいなものは何だったのですか?

松田 アニメーションとしてやっていなかっただけで、ラジオドラマなどの仕事は多くやらせていただいていたんです。そういう意味では、声の仕事ということはもちろん何の抵抗もなかった。

 僕がアシタカ役に選ばれた要因について補足的な推測をすれば、『風の谷のナウシカ』の他にも決定打になっているんじゃないかという作品があるんですよ。1987年にNHK-FMの『FMシアター』という枠で放送した『シュナの旅』というラジオドラマがあったんです。『シュナの旅』は宮崎さんが描いた絵物語(1983年、徳間書店・アニメージュ文庫からリリース)で、主人公シュナを僕が演じたんですね。

 ドラマの制作にスタジオジブリは関係ないのですが、プロデューサーの鈴木(敏夫)さんは聴いていたんじゃないかなと。宮崎監督はわからないですけど。シュナはアシタカと共通点があるというか、モチーフになる部分が重なっているキャラクターですので、その要因もあったのかなと。これについておふたりから聞いたことがないので、あくまでも推測に過ぎないですけどね。

■宮崎監督の「声で芝居をするな」という思い

――1997年2月17日にアフレコがスタートします。『もののけ姫』のアフレコは、舞台とは違った発声法で臨まれたそうですが。

松田 録音を重ねていって、何度もテイクを重ねていくうちに、宮崎さんの演出の狙いが自分なりに見えてきたんです。「声で芝居をするな。芝居をした結果の声が俺は欲しいんだよ」というのが一番のベースになっているのではないかと。そこが声優と呼ばれる人たち以外でキャスティングが行われた理由にもつながっていると思うんですよ。『もののけ姫』は、メインキャストもそれ以外のキャストも声の仕事をメインにされていた方がほとんどいなかった。新劇の人たちなどが参加していますから。いわゆる声優さんというのは、トキ役をやられた(島本)須美さんだけなんです。

――確かに『千と千尋の神隠し』(01)ではカオナシを演じた中村彰男さんを筆頭に、『もののけ姫』には文学座の俳優が多く参加しています。タタラ場の民たちを演じていますね。

松田 声をメインとして活躍されている方たちに「声で芝居をするな」とは言えないでしょうし、そうした狙いではないからこその起用だったのではないでしょうか。

 そのことに気づいてからは、発声そのものというよりも『もののけ姫』という作品の世界に自分がいたらどういうふうにセリフを言うのだろうかを考え、そこに近づくようにしました。ただ、われわれは常に動いて演技をしているので、“動き”なしで演じることに物足りなさを感じる。そのぶんセリフ表現に傾く場合があるんです。そういう時の声だけを切り出してみると、オーバーアクティングに聞こえてしまう。それを削っていくのが、録音作業の肝だった気がしますね。

――動きを抑えるぶん、声に過剰な動きが出てしまう。それを抑えながら演技するというのは、たいへん難しそうに思えます。舞台や実写作品とは勝手が違うというか、演技のアプローチを変えるのですから。

松田 それまでの声優としての仕事とは、大きく違ったということです。だから、思いましたよ。ひょっとしたら宮崎監督は、実現可能であればエミシの村やタタラ場の仮セットを組んで、そこに僕らを置いて絵と同じ動きをさせながら録りたいんじゃないかなって(笑)。

――絵と声のタイミング、動きなしの演技で生じる声のオーバーアクトと難関があったようですが、なかでも突出して難しかったものってありましたか?

松田 アニメーションとしては、やりやすかったほうだと思います。一言でいうと、芝居ができている。

――芝居をできる環境にしてくれるということですか?

松田 セリフの間などが、きちんと成立している。宮崎さんがお作りになる、芝居の間みたいなものが素晴らしいんだと思います。

――そうした環境に身を置かれた場合、それまでの舞台経験は大きく作用するものですか。

松田 日本語と向き合ってきたことは、活きましたね。舞台に立つ時、僕は演劇って言葉と向き合うことだと思って、そこを徹底的に勉強して努力しました。もちろん感情の表現が第一ですけど、ちゃんと言葉を客席に届けることをこだわり抜いてやってきたんです。

■「劇場行ってポスター見てたら、『おっ、松田洋治』」

――松田さんは、青井陽治さん、木村光一さん、蜷川幸雄さんなど、名だたる演出家が手がけた舞台に立たれていますが、そのなかでも特に言葉を重視した方というのは。

松田 蜷川さんですね。というより、蜷川さんがそういう演出をしていた頃の舞台に立っていたので。蜷川さんは演出をガチッと作る人なので、俳優個人の作業としては、とにかくセリフをキチッと客席に届けるしかない。

 蜷川さんは、声がどうこうとか、俳優のセリフについてはあまり教えない人なんです。俳優としての技術みたいなものに関しては口を出さないけど、ものすごく必要とされるので、そこは個人が必死に極めるしかなかったんですね。

――鈴木さんは松田さんが出演されていた舞台を観ていたのでしょうか。

松田 観たかどうかはわかりませんけど、チラッとヒントめいたことをおっしゃってはいるんですよ。当時、大勢で話している時に、「(アシタカを)誰にしようかなと思ってたんだけどさ、劇場行ってポスター見てたら、『おっ、松田洋治』と思って、『ああ、そうだそうだ』と思ったんだよ」と。

 それまでの10年、きちんと演劇に取り組んできたこと。そこできちんと日本語をしゃべる、セリフを伝えることにこだわってきたご褒美が、『もののけ姫』であり、アシタカ役だったんじゃないかなって。鈴木さんが、劇場だ、ポスターだなんて話すということは、たぶん演劇も何かしらの決め手になっていたんだと思いますよ。

「アシタカが単なる不良少年だったら、他にいくらでもいた」宮崎駿が記者会見で“目に怒り”を…『もののけ姫』秘話 へ続く

(平田 裕介/文藝春秋)

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