「半グレ、ヤクザには“動きがいい”弁護士の情報が出回っている」 『闇金ウシジマくん』の真鍋昌平が“思想のない”弁護士を描くワケ

「半グレ、ヤクザには“動きがいい”弁護士の情報が出回っている」 『闇金ウシジマくん』の真鍋昌平が“思想のない”弁護士を描くワケ

真鍋昌平さんの仕事場で。『闇金ウシジマくん』の舞台となる事務所、カウカウファイナンスを模したレゴは、前担当者が作成した。

 伝説的漫画『 闇金ウシジマくん 』(小学館)の作者・真鍋昌平さんの『 九条の大罪 』(小学館)の第3集が、8月30日に発売される。主人公は、裏社会が絡む案件を扱う弁護士・九条間人(くじょうたいざ)。第3集では、反社会的勢力や欲にまみれた弁護士とつながる悪徳介護事業者、半グレを小間使いにするヤクザらと、九条との駆け引きが生々しく描かれる。真鍋さんが社会の暗部を直視する理由について聞いたインタビューを再公開する。(全2回の1回目。 2回目 を読む)

【 マンガ「九条の大罪」第3集第19審を読む 】

◆ ◆ ◆

■読者の心を引っかき回したい

──『九条の大罪』は、第1話から強烈なストーリーで、SNSでも大きな反響がありました。主人公の九条が弁護したのは、飲酒運転で親子をひき逃げした半グレです。九条の弁護によって、自転車に乗った親子をひき逃げした男が執行猶予を勝ち取る一方で、父親を亡くし悲しむ遺族は金銭的にも大損をするというストーリーは、知らないと損をする恐ろしさを伝えてくれているようにも感じます。

真鍋 論争を呼んだのは、「交通事故」というテーマが、明日実際に自分の身に起こっても不思議ではない身近な問題だったからだと思います。

「なんであんなヤツの弁護をするんだ」「胸くそ悪い」という意見もたくさんいただきましたが、法律の知識がなく弁護士をつけなかったために「損をする」ことは、実際の世界でも起こり得ることです。

「正義が勝つ」というハッピーエンドを作るのは簡単ですが、一人の漫画家が作品のなかで正義をふりかざしたところで、社会課題や問題は何も解決しません。貧富の差が拡大し、社会のきしみが肥大化している現代だからこそ、そのきしみをそのまま描くことで読者の心を引っかき回したい、という思いでこのテーマを描きました。

──社会の暗部を描くのに「弁護士」をモチーフにした理由は。

真鍋 まだ「ウシジマくん」の連載をしていた時に、取材対象者たちからよく弁護士の話を聞いたんです。半グレ、ヤクザといわれるような犯罪に関わる人たちはしょっちゅう警察のお世話になるので、どの弁護士がいい、という情報が出回っているんです。「あの先生は動きがいい」「あいつはダメだ」などと噂されている弁護士に会いに行って話を聞くうちに、フェルディナント・フォン・シーラッハの『 犯罪 』みたいな面白いストーリーができるかも、と考えるようになりました。

 漫画でもドラマでも犯罪者側から見た弁護士ものはまだ描かれていなかったので、自分ならではの弁護士物語が描けるかも、と徐々に構想が固まっていきました。

■人間の闇を、弱者につけこむ強者の側から描きたい

──主人公・九条間人(くじょうたいざ)は、たとえ依頼人がどんなクズでも弁護する弁護士です。また、九条の事務所のイソ弁(居候弁護士)・烏丸真司弁護士も、優秀ですが複雑な過去を抱えているようです。一般的な弁護士のイメージは「正義の味方」ですが、あえて彼らのようなダークヒーローに挑んだ理由を教えてください。

真鍋 九条に依頼してくるのは、半グレ、ヤクザ、前科持ちというきな臭い人たちばかりですが、九条は「思想信条がないのが弁護士」と公言し、法律と道徳を分けて考えて依頼人を擁護するプロフェッショナルです。

 この作品を描く以前は、自分の中でも「弁護士は高尚で偉い人」という勝手なイメージがあったのですが、取材を進めてみると、「弁護士」といってもいろいろなタイプの方がいることを知りました。扱う案件によっても違うし、抱えている依頼人との力関係によって、取り込まれてしまう弁護士もいるそうです。

 法律は人の権利を守りますが、人の命までは守れません。『ウシジマくん』では堕落し落ちていく人間の弱さを描きましたが、『九条の大罪』では弱者につけこむ強者の側から人間の闇を描けたらいいなと思っています。

■倫理観や道徳ではなく「依頼人」が最優先

──九条弁護士は、忠実に自分の職務を全うしているだけだと。

真鍋 九条にとって最優先すべきものは倫理観や道徳ではなく「依頼人」だということです。そこが、彼がプロフェッショナルである部分です。

 刑務所の人たちから「あの弁護士(九条)はいい」と言われているそうですが、それだけリアルに描けているのかなと思っています。

──真鍋作品が論争を巻き起こす原因のひとつに、作品のリアルさがあると思われます。ファンタジーでも抗争ものでもなく、「リアル」な闇にこだわるのはなぜですか。

真鍋 基本的に葛藤があるのが好きで、自分の中でひっかかっている思いをできるだけ描こうとしているのですが、それが読者にとっても「リアル」ということなのかもしれません。

 読者を嫌な気持ちにさせようとか、疲れさせようと思って描いているわけではないんですが、人間の弱さとか真実みたいなところに近づこうと思うと、どうしてもああいう物語になってしまう、ということだと思います。

■銀座、霞ヶ関あたりをブラブラしながらネームを書いています

──リアルさを出すために、徹底した取材を行っているとお聞きしました。

真鍋 『ウシジマくん』では、依存症やギャンブルなどで闇金に頼らざるを得ない人たちや闇金業に関わる人たちまで、1000人以上の人たちに実際に会って話を聞きました。『九条の大罪』でも当事者への取材は、引き続き行っています。

 描写に関しては、取材対象者が何を着ているか、どんな時計をつけているかなど、かなり細かいところまで観察して描写に生かしています。リアルさを出すために街の風景を写真に撮ることもあります。

 でも、一番表現したいのはそこじゃない。思考や考え方のクセ、言動などを細かく描き出すことで「リアルさ」を表現したいので、キャラクターが実際にいそうな場所でネームを書いたりしています。『ウシジマくん』の時はよく歌舞伎町を移動しながら書いていましたし、今は裁判所が近いので、銀座、霞ヶ関あたりをブラブラしながらネームを書いています。

■取材対象者から探偵をつけられたこともありました

──本音を引き出すのが難しい取材対象者も多いのでは。

真鍋 取材対象者のなかには、毎回同じ話しかしない人もいれば、まったく話してくれない人もいますが、何回か朝まで一緒に飲んだりすると、話してくれない人も、少しずつ話してくれるようになります。情報をラインで送ってくれる人もいるし、その人によってやり方はいろいろなので、長い時間をかけて自分が受け入れてもらえるような信頼作りは心がけています。

 でも中にはヤバい人もいて、取材対象者から探偵をつけられたこともありました。その対象者とは鶏鍋屋で和解したんですけど、店の女将が鶏鍋を作っている横で、2人でずっと棒立ちで話していて……。ビールの泡がなくなって色水みたいになるわ、鍋のスープは煮詰まって焼き鳥みたいになるわで、なんの罰ゲームかと思うような時間でした。

 取材対象者と朝まで飲んだ挙げ句に、泥酔して自力で帰れなくなったことも多々ありますし……。漫画家って机の前にただ座っているだけじゃなくて、結構身体張っているんだってことを知っていただけたら、報われます(笑)。

【続きを読む 「自分が受け入れられた感覚がない人って、苦しさを抱えている」 『九条の大罪』の真鍋昌平が“お金がない時代”に大切にしていたこと】

(初出:2021/05/28、取材・構成:相澤洋美、撮影:今井知佑/文藝春秋)

「自分が受け入れられた感覚がない人って、苦しさを抱えている」 『九条の大罪』の真鍋昌平が“お金がない時代”に大切にしていたこと へ続く

(真鍋 昌平)

関連記事(外部サイト)