中学時代は子分を引き連れてケンカばかり…『スクール☆ウォーズ』のモデルになった「京都一のワル」とラグビーとの“運命的な出会い”

中学時代は子分を引き連れてケンカばかり…『スクール☆ウォーズ』のモデルになった「京都一のワル」とラグビーとの“運命的な出会い”

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 人気ドラマ『スクール☆ウォーズ』の主人公・大木大助のモデルとなった山本清悟氏は、中学生の頃から賭博、麻雀、飲酒に明け暮れ、札付きの不良として知られる人物だった。そんな男がラグビーを始めることになったきっかけとは……。

 ここでは、長年ラグビーについての取材を続ける日刊スポーツ記者・益子浩一氏の著書『 伏見工業伝説 泣き虫先生と不良生徒の絆 』(文春文庫)の一部を抜粋。運命的ともいえる恩師との出会い、そしてラグビー部入部を決意するまでの思いを紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

■昼は麻雀、夜は祇園で飲み歩く

「京都一のワル」─。

 周囲は彼を、そう呼んだ。

 京都の繁華街である祇園を毎晩のように訪れては、スナックに入り浸った。まだ中学生だというのに、大人の女性を隣に座らせて酒を飲み、当然のようにタバコをくゆらせた。

 バイクの暴走行為を繰り返しては、無免許運転で補導をされた。近所の警察官に顔を覚えられるほどだった。

 溜まり場にはビールの缶、タバコの吸い殻が無造作に散らばっていた。仲間と授業を抜け出すと、友人とパチンコ店に入り浸った。昼は賭博や麻雀、花札。夜になれば祇園で酒を飲み歩く。まるでチンピラのような生活をしていた。

 のちに奈良朱雀高校で教鞭をとり、2021年3月に定年退職をしてもなお、嘱託再任用でラグビー部顧問として指導にあたる山本は当時をふり返る。

「大人顔負けの遊びをしとった。今で言うバイクの暴走行為も含め、タバコ、飲酒、パチンコも毎日のように行っとったしね。パチンコで勝った金で飲みに行ったんや。ちょうどカラオケが流行りだした頃やったわな。スナックに行って、2人の女性に両隣に座ってもろうて、歌ったりね。中学のころから老け顔やったから、いけたんやね」

 昼と夜が逆転した生活をしながらも、弥栄中では野球部に所属し、4番一塁が定位置だった。とにかく体は大きかったから、よく打った。芯に当たれば外野の頭上を簡単に越えていく。3年になると、私立高校から野球推薦の話が舞い込んだほどだった。

 裕福な家庭ではなかったから、当初は中学を卒業してすぐに働くことを考えていた。夏に野球部を引退すると、夜の街へ繰り出し、子分を引き連れてケンカばかりした。“弥栄の清悟”とも呼ばれたが、心のどこかに野球への未練を残していた。無条件で合格という野球推薦ではなかったものの、一般入試よりは優遇されるという話を聞いて、決意が揺れた。

「それなら、ほな、受けてみようか。そうなったんですわ」

 “形だけ”のはずの入学試験を受けた1週間ほど後のこと。合格発表の掲示板に、山本の受験番号はなかった。推薦のはずが、その合格最低点にすら届かなかった。あるいは、内申書が悪すぎたのかもしれない。急にはらわたが煮えくりかえった。

「高校進学なんてどうでもええ。最初は就職するつもりやったからね。でも、落とされたっていうのは、俺の中で負けやないですか。このままでええんか、となったんです」

 野球推薦を反故にされたことが、どうしても、我慢ならなかった。担任の教師のところへ行くと、あろうことか、同じ地域内にある進学校で、一流大学に多くの生徒が合格する堀川高校を受験することを告げた。驚いた担任は、学年主任と生徒指導部長ら4人を連れて、自宅を訪ねてきた。

「君の性格検査をしたところ、工業高校が向いているという判定になりました。伏見工業が合っているのではないやろうか。土木関係の仕事が似合っとるし、土木科で勉強するのはどうやろう」

 父親の清司と一緒に、黙って話を聞いていた山本は、こう尋ねた。

「ほな、伏見で一番難しい学科はどこや? そんなに伏見に行かせたいなら、一番難しいところを受けたろうやないかい」

 土木科から、より偏差値の高い建築科に変えたのは、せめてもの意地だった。こうして、伏見工業に願書を出すことになったのである。

 だが今でも、山本の胸に、引っかかるものがある。

「担任は性格検査なんて言うてたけどね、そんなもん、やった覚えがないんですわ。ようは、『お前は堀川高校には受からへんから、伏見を受けえ』ってことを、本当は言いたかったんやろうね。でも、言われへんかったんちゃうかな。まあ、ワシも推薦を落とされた屈辱を晴らすだけやから、学校はどこでも良かったからね」

 根っからの負けず嫌いだった山本は、伏見工業の建築科に合格した。

■「お前が清悟か。ラグビー部に入れ!」

 1976年4月。校舎のすぐ側を流れる東高瀬川に、桜の花びらが次々と落ちては、、水面に浮かんで流れていった。

 入学式を終えた山本は、グラウンドの入り口にある体育教官室の前で、行く手を阻まれた。自分よりも大きな体、岩のような顔つき。教師に対して、それまで感じたことのない威圧感が漂っていた。

 睨むようにして、下から視線を上げる。山口だった。

「おい、お前が清悟か。お前は、ラグビー部に入れ!」

 野太い声と、選択の余地を与えない断固とした態度。何よりも、初対面の教師に呼び捨てにされたことで、無性に腹が立った。

「あ? ラグビーやて? 何やそれ。そんなもん、入る訳ないやろ! ワシは野球をやるんじゃ!」

 眉をひそめ、グッと睨む。今すぐにでも襲いかかるような素振りをしても、その教師は腕組みをしたまま動じなかった。全身に目をやる。185センチはあるであろう長身に、ジャージーの上からでも分かる筋肉質の厚い胸板と、太い腕。

 ケンカでは数々の修羅場をくぐってきた京都一のワルでさえ、初めて会った山口の印象は、強烈だった。

「体がとにかく大きかった。頭は角刈りで、鬼瓦みたいな顔をしとったんですわ。『何言うとんねん、こいつ』って思いながらも、正直、その時は、『こいつには、素手では勝てん。棒かなんか、武器がいるな』って考えたほどですわ」

■「ラグビーはな、ルールのあるケンカや」

 担任から配られた部活動の入部届に、山本は「野球部」と書いた。その一枚の紙を、顧問に提出する日のこと。ふと、鬼瓦のような顔をした教師のことが頭をよぎった。からかい半分、そして、あの教師から「逃げたくない」という不良生徒独特の感情もどこかにあった。ガツガツと足音を立てて体育教官室まで行くと、山口の部屋をガラリと乱暴に開けた。

「よお、先生。やっぱりワシは野球をやるわ。わざわざ声かけてくれたのに、すまんのう」

 部屋には書類が積み重なり、汗と埃が入り交じったような鼻を突く匂いがした。ふんぞり返るようにして椅子に座っていた大柄の教師は、突然、扉を開けた不良生徒を見ると、先ほどまでのしかめっ面を崩し、嬉しそうな顔をした。

「おお、清悟か。わざわざ、そんなことを言いに来てくれたんか。そうか、そうか、ありがとうな。まあ、ええから、ちょっと入れ」

 半ば強引に部屋に導かれると、そこから山口の長い説得が始まった。ラグビーの魅力と、熱い思い─。それを、いつまでも終わることなく聞かされた。

「おい、清悟。お前はケンカが強いらしいやないか。ラグビーはな、ルールのあるケンカや。ケンカと同じで、男と男が、真剣に体をぶつけて勝負を決めるんや。ボールを持ったら何してもええ。蹴る、殴る以外は何したって構わへん。ケンカなら誰にも負けへんのやろ? それなら、やってみたらどうや。ケンカの強いお前やったら、ラグビーで一番になれるんちゃうか?」

「ワシは何を言われても、野球をやるんや」

 そう言って聞かなかった山本に、迷いが生じ始めていた。「ルールのあるケンカ」とたきつけられたことが、胸に引っかかった。

■教師からの贈り物

 これほど熱い教師は初めてだった。こんなにも真剣に向き合ってくる大人に、接したことがなかった。手の付けられないほどのワルだったから、中学時代の教師の多くは近寄ることをせず、ただ見て見ぬふりをされてきた。

 しばらくして、ようやく話が終わった。おもむろに立ち上がった山口は、棚の奥からごそごそと何かを取り出した。

「お前にこれをやる。これを履いて、明日からラグビー部の練習に来い」

 日本代表に選ばれた頃に履いていた、大事なスパイクだった。履き古されてはいたが、丁寧に磨いてあった。どれほど大切にしてきたものかは、ひと目で分かった。山本の心は激しく揺れた。激しく揺れた末に、今まで経験したことのないベクトルに向かって、強い決意のようなものが芽生えたのを感じた。

 あの日の光景を、一人の教師の熱意を、山本は今でも、忘れてはいない。

「初対面の人間に呼び捨てにされたことに、最初は腹が立っていたんですわ。でも、いきなり声をかけられたっていうことが、自分の中のどこかに、響いていたんやと思いますね。やっぱり関心を持たれるって、人間、うれしいやないですか。見向きもされんよりはね。そうやって、話をしてくれたことが、自分の中では大きかったですね」

■本気でぶつかってくる大人

 本気でぶつかってくる大人を、どこかで欲していたのだろう。弥栄中学では校舎内で暴れるのはいつものことだった。教師の振る舞いに納得がいかないと、椅子や机を持ち上げ、ガラス窓へと放り投げた。教室の窓は、ほとんどが割れていた。ある日、一人の?せた体をした副担任が、自宅を訪ねてきた。細い腕を振り上げて、殴られた。その副担任の勇気と、本気で向き合ってくれた愛情。それを感じたからこそ、以降、その教師にだけは一切、逆らわなくなった。それと似た感情を、初対面の山口から感じていた。

「『感謝せなあかんな』と思いました。『教師はみんな口だけや。そんなもんや』っていう思いがあったんですわ。でも、中学の時のあの華奢な先生だけは他とは違った。それと一緒の思いが、山口先生に初めて会ったときに生まれていました。だから、野球部の入部届を普通に出さずに、体育教官室まで持っていったんやと思いますね。それをしていなかったら、野球部に入りながら、夜の世界で遊びほうけて、いつか高校を辞めていたかも知れへんかった」

 譲り受けたスパイクを履き、翌日から山本はグラウンドに立った。だが、すさんだ生活はなかなか抜けず、長続きはしなかった。中学時代の悪友からの誘いは絶えず、バイクの暴走や麻雀、飲酒、ケンカに明け暮れる。家に帰るのはいつも朝方になった。高校に進学しても、練習どころか、学校に顔を出すことすら、少なかった。

「昼過ぎまで寝て、みんなが帰る頃に学校に行く。ラグビー部に入ったと言っても、最初はそんな状態やった」

 すると、毎朝、山口が家に来るようになった。阪急電車の桂駅近くに住んでいた山口は、四条河原町で京阪電車に乗り換えて学校へ向かう。電車を乗り継ぐ際に、鴨川を渡り、ひと駅だけ反対方向に行くことが日課になった。京阪三条駅からほど近い、山本の家を訪ねる。父親は朝早くから仕事に出かけていたから、玄関を開けてズカズカと部屋に上がり込むと、布団をめくり上げて叫んだ。

「清悟、はよ起きんかい! 学校に行く時間やぞ」

 明け方まで遊び歩く習慣がついていた山本は、すぐに制服に着替えさせられ、一緒に電車に乗って学校に連れて行かれた。途中で喫茶店に寄るようになり、2人でモーニングを食べた。2枚あるトーストの1枚を、山口はそっと清悟の皿に載せた。

「お前は食べ盛りなんやから、俺の分も食べろ。体をデカくせなアカン」

 教師と生徒という関係を超えたものが、そこにはあった。それは、より親父と息子に近いものだった。山本だけでなく、自分が育ててきた生徒全員に、そうやって、山口は愛情を注いできた。

【続きを読む】 「耳の半分がベロンとはがれていました」不良ばかりの弱小ラグビー部が名門・花園高校と繰り広げた“死闘”の行方

「耳の半分がベロンとはがれていました」不良ばかりの弱小ラグビー部が名門・花園高校と繰り広げた“死闘”の行方 へ続く

(「文春文庫」編集部/文春文庫)

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