ネットがない時代、東京の高校生がオリックスを応援するということ

ネットがない時代、東京の高校生がオリックスを応援するということ

ブーマー ©文藝春秋

 東京の下町で少年時代を過ごした僕が阪急ブレーブスというプロ野球チームを本格的に追いかけ始めたのは中学生の頃だ。小学5年生くらいまではヤクルトスワローズを応援していた。スワローズファンになるきっかけは父親のひと言だった。毎日毎日、読売戦をテレビで観戦する父親と、相手チームがいるにもかかわらず読売一辺倒の放送を繰り返すテレビに疑問を持った僕は父に尋ねた。

「なんで父さんもこのテレビ局もジャイアンツしか応援しないの? 相手チームだって同じプロ野球チームなんでしょ?」

「それはね、ジャイアンツだけが主人公で他のチームは負けるための脇役だからだよ」

 当たり前のことを聞くな、当然だろ。といった風情で冗談を言っているつもりなどなさそうな父の横顔を見つめながら幼かった僕は直感的に「この人の考え方は間違っている」と思った。もちろん父を憎んでいるわけではない。団塊の世代で関東出身の父にとってはそれが「当たり前の時代の空気」だったであろうことは今では充分に理解できる。だが小学生時代の僕にそんなことはもちろん関係ないしわかるはずもない。さらに父は「武法は東京生まれなんだからちゃんとジャイアンツを応援しなきゃな」と言った。「スワローズだって東京のチームじゃん」と言うと父は哀れみを浮かべたような顔をした。ひねくれ者で親不孝者の僕は翌日からきちんとスワローズを応援することに決めた。もちろん今もセ・リーグでは圧倒的にスワローズが好きだ。さらにそれまで野球というスポーツに何の興味もなかった僕はスワローズのおかげでこの球技そのものの魅力に気づいてしまった。

■「この人たちがテレビで観られない世界はどうかしている!」

 そして中学生になった僕はロッテファンの友人の誘いで当時川崎球場を本拠地としていたロッテ対阪急戦を観に行きブレーブスの勇姿に衝撃を受ける。山田久志、星野伸之、佐藤義則、山沖之彦、今井雄太郎、福本豊、ブーマー・W、石嶺和彦、松永浩美、藤井康雄などなど、あまりにも強烈で個性溢れるプレイスタイルに僕の目は釘付けだった。「なんて凄い野球選手たちなんだ! この人たちがテレビで観られない世界はどうかしている! これは運命の出会いだ!」と強く思った。親からの紹介ではなく自分たち子どもの世界で自らの手で発見したものに強烈な魅力を感じるのは10代少年少女の宿命だ。気がつけば僕は阪急ブレーブスに夢中で、圧倒的なパワーとスピードを見せつけるパ・リーグ野球を心から愛するようになっていた。

 応援するようになって間もなく阪急の身売りという悲劇はあったもののまだファン歴が短かかった僕は新球団オリックスの新ユニフォームのデザインにひと目惚れしてさらに夢中になっていく。(ちなみに余談ですが皆さん、オリックスって球団グッズやユニフォームや選手応援歌や応援スタイルなど全てのセンスがズバ抜けていると思いませんか? かつてのイチローコール、T-岡田や駿太の応援歌、オリックスポンタのツイッターやぬいぐるみや「おりほー」「まけほー」のフレーズ、吉田正尚の応援ダンベルなどなど僕は今も昔もそこらへんはダントツ日本一だと思ってます)

 では1989年15歳高校1年生になった僕が東京でオリックス・ブレーブスを応援するとはどういうことなのか紹介してみます。とりあえずオリックスファンの友人は一人もいません(笑)。なのでオリックス情報はすべて自分自身で集めなくてはなりません。まずシーズン開幕前には選手名鑑を買い選手情報を完全に暗記します(特に顔!)。過去5年の成績一覧が載っているものを選べば長く楽しめます。シーズンが開幕したら少ない所持金の中から毎日スポーツ新聞を買いオリックスの一軍二軍の試合スコア&成績一覧を穴が開くほど何度も読み返します。

 そして夕方18時、試合が始まっても慌ててはいけません。どうせ観ることも聴くこともできないのですから。唯一の情報源はラジオのプロ野球中継で3回、5回、7回、試合後に流れる「他球場情報」です。地上波の読売戦はパ・リーグ速報をほとんど流さないので役に立ちません。そして何より大切なのはフジテレビ深夜の「プロ野球ニュース」です。この番組だけはオリックス戦の画面をきちんと映してくれます。毎日録画して何度も繰り返し観ます。なぜか? 選手の顔とプレイスタイルを覚えるためです。80〜90年代までの東京在住オリックスファンはプレイして動いている選手の姿をほとんど観られないのでなかなか選手の顔を覚えられませんでした(笑)。もちろん、川崎球場のロッテ戦、西武球場の西武戦、東京ドームの日ハム戦はお金が続く限り通いますが川崎球場以外はそれほど近くで選手の顔を見られるわけではないので、選手がどんな顔をしているのかイマイチわからないのです。

 そんな僕にとって何よりの喜びは、年に何回かだけ地上波のテレビで放送されるオリックス戦。そしてテレビ埼玉の西武対オリックス戦中継。これを全て録画して繰り返し観ます。そうやって一人一人の選手の顔や打撃フォーム、投球フォームを完全に脳内に叩き込み、オリックス愛を育んでいくのです。

 インターネットがなかった当時、東京在住ファンは「応援グッズ」購入でも圧倒的に不利でした。アウェイ球場で売られていたオリックスグッズは本当にごくわずか。そんな中で入手した星野伸之、藤井康雄の下敷きは当時の僕の宝物でした。

■人生初の遠征は0泊4日の超節約野球旅

 そんな僕が人生で初めて遠隔地に「野球旅」としてオリックス戦を観に行ったのは1990年、16歳高校2年の夏休みです。大阪球場、平和台球場がなくなってしまうということでパ・リーグファンとして観に行こうと考え、東京→大阪→博多→東京と宿は取らず深夜バスで移動し続ける0泊4日の超節約野球旅を敢行しました(今なら身体がぶっ壊れます)。8月2日の大阪球場最終戦。オリックス対近鉄は延長戦でブーマーの決勝スリーランが飛び出し快勝。ホームランボールが外野席に陣取る僕のすぐそばに着弾したのを今も鮮明に思い出せます。本当は僕にとって憧れの本拠地・西宮球場にも行きたかったのですが日程&予算がうまく合わず断念。「西宮球場はまた来年以降行くチャンスがあるだろうから」と思ったのに、まさか90年オフに本拠地が移転してしまうとは……ショックだったけど新本拠地グリーンスタジアム神戸は本当に素晴らしい球場だったので仕方ない。

 そして今現在。僕にとって「野球旅」は人生に欠かせない大切なイベントになった。昔と違い衛星放送&インターネットが充実した今ではオリックス戦は全試合観ることができるし選手の顔だって好プレイだって珍プレイだってスマホひとつで思うがままだ。でもやはりスタジアムで直接観る試合は最高だし、ましてやなかなか行けない遠隔地の球場にオリックス戦を観に行く「野球旅」のワクワクは筆舌に尽くしがたい。

 元々旅好きではあるが、野球を観るという目的があるだけで段違いに旅がワクワクするのはなぜなのだろう? 16歳の夏、初めての「野球旅」では大阪たこ焼きと博多ラーメンに感動した。大人になった今ではもう少し懐事情にも余裕があるってもんだ。各球場、各地方に名物がある。京セラドームの「いてまえドッグ」。千葉マリンの「焼きそば」「モツ煮込み」。メットライフドームの「狭山茶」、甲子園の「甲子園カレー」などなど。そう言えば最近、神宮球場の「水明亭」を筆頭に球場グルメから次々と「うどん、そば」が消えて行くのはなぜなのでしょう?すごく寂しいです。京セラドーム3Fにあったうどんスタンド、好きだったのにな。

 それはそれとして。遠い町で美味しいものを食べて、贔屓の野球チームを応援し、なかなか会えないファンの皆さんの姿を楽しむ。それこそ「野球旅」の醍醐味だと思う。つい先日、横浜でのベイスターズ交流戦で出会った若い男性ファンは何と「コーディエ」のユニフォームを着用! インパクトありすぎでしょそのチョイス(笑)。

 今は政府の迷走もあって大変な状況が続く日本だけど、平穏な日常が戻ったらまた思う存分「野球旅」に出たい。強く強くそう思う。人生には人それぞれ喜びや癒やしが欠かせない。僕たちプロ野球ファンにとって贔屓チームの応援は「生き甲斐」と言ってもいいものだ。僕と同じく「野球旅」を愛する同志もたくさんいらっしゃるはず。さあ野球旅を愛する皆さん、今は自分の「夢野球旅」計画をたくさん立ててやりましょう。

 北海道には新球場が出来る。平和台球場は行ったけど福岡ドームにはまだ行けていない。楽天生命パークも「味太助本店」もご無沙汰だ。広島市民球場にボール犬ミッキーを見に行って樽募金には参加したけどマツダスタジアムには行ったことないし「八昌」のお好み焼きもまた食べたい。そして何より京セラドームに行きたい。Bs SHOPでついついあり得ない金額のグッズを買い込みたい(関東ファンあるある)。日本で唯一、敵チームよりオリックスファンの方が多いあのスタジアムの景色が見たい。ああ心の底から京セラに行きたい。

 皆さんの「夢野球旅」はなんですか?

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2021」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト https://bunshun.jp/articles/48261 でHITボタンを押してください。

(市原 武法)

関連記事(外部サイト)