〈民放連賞・優秀賞受賞〉出版社への就職に里山暮らし、でも“満たされなかった”…異色の女優・山田真歩「20代の反省」

〈民放連賞・優秀賞受賞〉出版社への就職に里山暮らし、でも“満たされなかった”…異色の女優・山田真歩「20代の反省」

©?文藝春秋

〈民放連賞・優秀賞受賞〉「一生懸命な人って大体“イタい”ですよ。でも…」28歳デビューの“異色女優”、独自ポジションの秘訣 から続く

 ドラマ『ナイルパーチの女子会』が2021年日本民間放送連盟賞のテレビドラマ番組部門で優秀賞を受賞した。同ドラマで丸尾翔子役を演じた山田真歩さんのインタビュー記事を再公開する(初出2021年1月30日、肩書き、年齢等は当時のまま)。

◆ ◆ ◆

 柚木麻子さん原作のドラマ 『ナイルパーチの女子会』 (BSテレ東、毎週土曜21:00〜)で丸尾翔子役を演じる山田真歩さんは、出版社勤務を辞めて27歳から俳優を志し、その翌年には主演で映画デビューを飾った異色のキャリアの持ち主だ。

 2月公開の西川美和監督最新作『すばらしき世界』にも出演し、これまでも瀬々敬久(『64 ロクヨン』)、松居大悟(『バイプレイヤーズ』シリーズ)、吉田恵輔(『ヒメアノ〜ル』)といった現代を代表するクリエイターから度々指名を受け、観る者の心に爪痕を残してきた。

 そんな山田さんは俳優という天職とどのように向き合ってきたのだろうか。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

■「歯磨き粉は粗塩」独特な山田家の習慣

「自分が何のために生きているのか。何を目標に進んでいけばいいのか。そもそも自分は何がやりたいのか……。今思えばそういう自分の“輪郭”を探す作業をしていたのが20代でした。それで大学在学中にドイツに行ってみたり、とりあえず社会人になろう、“大人”の仲間入りをしてみようと小さな出版社に就職して、編集者としていろんな本を作ったり。でも自分は芝居をしている時が一番イキイキしてるな、と気づいたのが27歳だったんです」

『ナイルパーチの女子会』では、「女友だち」がいない自分に引け目を感じ、「女子会」を楽しむ女に敵意を抱く主人公・栄利子(水川あさみ)が登場するが、山田さんは幼い時から俳優を目指し始めるまで、「他人と比べる」ことがまったくなかったそうだ。

「自分の夢に向き合うまでに右往左往した20代後半までが自分の“内側”の葛藤だとしたら、栄利子や翔子のように、女友だちの有無やフォロワー数といった、他者との比較の中で“外側”から自分を知っていくことも輪郭探しのひとつだと思うんです。でも私は本当に人と自分を比べることがなかったんです。

 教師をしていた両親は『人は人、自分は自分』という考え方の人で、人と比べない姿勢はここからきていると思います。山田家では昔からご飯は白米でなく玄米。歯磨き粉は粗塩で、テレビは基本NGでした。私のお弁当箱を見た友だちから『ご飯が茶色い!』と驚かれたこともありますが、そういったことも含めて、家での習慣を恥ずかしいとか変だと思うことは一切なかったんです」

■27歳で演技の道へ…「もう後に引けない」

 オーディションや人気度など、俳優は特に“外側”で評価されることの多い仕事だ。そんな中、山田さんはデビュー作『人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女』で主役を飾り、本作を観た入江悠監督が『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』のヒロインに抜擢するというロケットスタートを切る。

「“俳優のなり方”の普通がなんなのかもわからないから、入江監督はじめ、その後に声をかけてもらっていろんな作品に出られることがどんなに凄いことか、よくわかってなかったんです。

 でも今まで好きでやっていた芝居が急に“仕事”になり、オーディションで勝ち抜くことや、周囲への期待へ応えるためにプレッシャーがかかり、どんどん肩に力が入るようになっていきました。そこは好きでブログの文章を書いていた翔子が徐々に周りを意識して“カリスマ主婦ブロガー”を目指していく過程と似ているんですけど、なんか苦しい、という状態が何年も続きました。

 ただ、いろいろ経験した最後に『演技だ!』と決めて俳優になったから、もう後に引けない、という覚悟だけはあったんです。それでも正直、いい現場ばっかりでもないから根腐れを起こしそうなことも何回もありました。でもその度にちゃんと見てくれている人がいて、『永い言い訳』で声をかけてくださった西川美和監督はまったく面識もなかったんですけど、本当に苦しい思いをしていた時に呼んでもらえたんです」

■「誰かの夢を応援する」と“逃げてしまった”20代

 教師の父から2回だけ、反対されたことがある。1回目は、中学・高校を通してやっていたソフトボールを大学で辞め、演劇サークルに入った時。2回目は、社会人時代に同棲を始めた時だった。

「大学のソフトボール部のノリが合わなくて数ヶ月で辞めようとした時、『残される側の人の気持ちも考えなさい』って言われたんですよね。でも、何度考え直しても『どうしてもやりたい!』と、演劇の方に行ったんです。

 その後、大学を卒業してすぐミュージシャンの恋人ができたんですが、私はその時、演技を諦めて彼の夢を応援しようとしたんです。千葉の里山に引っ越し、農業しながら出版社に通って、自分が大黒柱になって……。でも何年か経って、結局私は自分の夢を追いかけることになり、関係は終わってしまいました。

 父親からは経済的な不安から同棲に反対されたんですが、この時も「どうしてもそうしたいから」って突き進んだんですね……。でも、今振り返ってみても、やってみなくちゃわからないというか、転んで傷をつくって初めて身をもって学べることがあると思っています。

 自分の夢を他人に託してしまうと、だんだん相手をコントロールしようとしちゃうんですよね。無意識に、よかれと思って。当時の私は彼に、ああしなよ、こうしなよと指図していたかもしれません。そのことに対して、すごく反省があります。

 今ならあの時の私に、『自分が頑張れよ。人に言わないでさ』と言いたいですね」

 『ナイルパーチの女子会』でも、栄利子が主婦ブロガーの翔子を意のままにしようとある思い切った行動に出るが、それは“ヤバイやつ”の話ではなく、山田さんの経験のように案外誰もが、しらずしらずのうちにやってしまっていることなのもしれない。

■一人で生きるのは不安だけど

 山田さんは世間への関心が薄い翔子にも共感するところがあるという。

「今回演じた翔子と自分はよく似ていて、私も昔から自分のことばっかり考えてしまうタイプなんです。周りと比べないこともそうですが、それは周囲がどうなってもいいみたいな思いとスレスレなんですよ。

 振り返っても、自分の弱さや無神経さでいろんな人に迷惑をかけてしまったなと思います。だから、こうして役者としていろんな境遇の人を演じることで、自分のことばかりじゃなくて他者に目を向けたり、世界や人との関わり方を訓練させてもらっているような気がするんです」

写真=鈴木七絵/文藝春秋

(小泉 なつみ)

関連記事(外部サイト)