不完全燃焼のライオンズ モヤモヤする理由を“兄やん”松沼博久さんと一緒に考えた

不完全燃焼のライオンズ モヤモヤする理由を“兄やん”松沼博久さんと一緒に考えた

現役当時の松沼博久 ©文藝春秋

 埼玉西武ライオンズ、現在5位。首位とは12.5ゲーム差(9月28日11時現在)。1979年の所沢移転以降42シーズンで8度しかBクラスを経験していないライオンズが、今、5位に甘んじている。

 近年、ライオンズはシーズン終盤の9月に強さを発揮してきた。

 2019年は一時首位と8.5ゲーム差まで開きながら、夏以降粘りに粘って順位を上げた。初めて首位に立ったのが9月11日。その翌日にはホークスとの直接対決に敗れ首位陥落、一度はホークスに優勝マジックが点灯したものの、15日にはライオンズが首位を奪還、今度はライオンズがマジックを灯した(しかも劇的なサヨナラ勝ちで!)。そして初めて首位に立ってから2週間足らずの24日、リーグ優勝を決めたわけだ。この年は8月、9月で実に14も勝ち越している。強い。

 去年も8月までは負け越してBクラスをさまよっていたものの、9月以降は巻き返し10月20日にAクラス入り。コロナの影響でこの年のクライマックス・シリーズ(CS)は2位までだったため、3位のライオンズはポストシーズン進出とはならなかったが、11月には一時その2位に順位を上げるなど見どころを作った。

 2018年には開幕から一度も首位を譲らずに優勝。圧倒的な打力でパ・リーグを制したシーズンだったが、3ゲーム差まで迫られた宿敵ホークス相手に9月15日から3連勝、マジックを点灯させた。そして9月30日、この日の試合に敗れはしたものの、リーグ優勝を決めたのである。

 この9月、我々は野球に、ライオンズに、もっと熱くなっていた。

■寂しくて悲しくて虚しい

 さて、今年のライオンズはどうか。前半、故障者が続出した4月には新戦力の台頭があり貯金を蓄え、「主力が戻ってきたらもっと強くなってどうなっちゃうんだろう……(悦)」などと思っていたのも束の間、5月以降は5割(と、それに少し満たないところ)付近をうろうろ。故障者が戻ってきてもチームの状態は変わらず、借金はかさむばかり。そこに夏以降に強いライオンズの姿はなく、勝負の9月も「ここから」「まだまだ」と言ったまま終わりを迎えてしまいそうだ。

 そして、文化放送も今週から改編。ナイターオフの期間に入った。つまり、ライオンズナイターは先週の中継をもって、今シーズンを終えた。これからが野球が本当におもしろい季節なのに、だ。今シーズンは試合開始が17時45分に繰り上がった試合が多く、17時55分に放送を開始するライオンズナイターでは試合開始から放送できないことが多かった。それだけでもやるせない思いでいたのに、まだ相当の試合数を残しての放送終了である。寂しいやら、悲しいやら、虚しいやら。ライオンズの順位も相まって、なんだか不完全燃焼だ。

 ファンである我々と同じようにフラストレーションを抱え、言いようのないもやもやを抱えている人がいる。松沼博久さんだ。

 ライオンズナイターやフジテレビTWOでは、優しい語り口でユーモアとライオンズ愛に溢れた解説をする「兄やん」だが、今年はどうも元気がない。それもそのはず、兄やんは野球解説者であると同時に、熱烈なライオンズファンなのだ。

■野村克也さんの教え

 松沼さんは仕事のない日でも球場に来て、取材をして、試合を見る。球場に来れば開門を待って、球場グルメを楽しむ(お気に入りは米野さんのBACKYARD BUTCHERS)。選手の一挙手一投足に一喜一憂し、勝てば胸を張り、負ければトボトボ帰途につく。

 我々ファンにとってそうであるように、兄やんにとっても忍耐のシーズンとなっているようだが、兄やんは今年のライオンズをどう見ているのか。

「最後まで分からない試合じゃないと、やっぱりお客さんも盛り上がらないよねぇ」

 では、最後まで分からない試合をするにはどうすればいいのか。投手は勝負所で、何を考え、どう組み立てるべきなのか。松沼さんは現役時代、高校、大学、社会人と考え経験してきた中でも、プロに入って野村克也さんに出会ったことが大きいと話す。

「1年目に野村さんに会って、『こういうリードがあるんだ』と。打者は基本的には打ちたいもの。野村さんはそれ利用していたんだよね。打者が打ちたいと思う場面では、野村さんはボール球を要求してくる。ストライクゾーンだけで勝負をすれば打者も安心して踏み込んでくるけど、そういう時にボール球を使えば、ボール球はヒットになる確率がストライクより低いから打ち取れる確率が高い。ボール球を投げ切る、という選択肢を持てば投球の幅が広がるということ。野村さんにはそうやってずいぶん勝たせてもらいましたよ」

 また、ボール球を要求されるのは「ストライクぎりぎりのところを要求されるより気持ち的に楽。ボールでいいんだから。気持ちが楽だと腕が振れるから、多少間違ったところにいっても打ち取れたりするんだよ」と話す。コントロールが悪かったと自身を振り返る松沼さんにとって、ボールゾーンまで含めた配球は「助かった」そうだ。

 勝負所、「ここぞの1球」を間違わなければ、余計な点を与えずに済む。投手が踏ん張れば勝負は最後まで分からなくなり、ファンが目を離せなくなる。接戦になればなるほどファンの応援にも熱が入り、球場の雰囲気が変わる。そういう戦いが見たいのだ。

■泣けるほど悔しいと思えるか?

 その上で、投手にとって勝負所で一番大切なのは「集中力」と「負けん気」だと松沼さんは言う。

「俺はこれだけやったんだ」「人に負けないだけ練習したんだ」というものを持ってマウンドに上がる。負けない、逃げない、絶対に抑えてやるという気持ちで打者と対峙する。

 そうやって本気で勝負しなければ、自分に足りないものすら見えてこない。

 例えば、打球に対する意識ひとつとってもそうだ。本気で点を取られてはいけないと思えば、投げた後は野手になる意識が出る。その意識を常に持てるか。ピッチャーライナーも「当たらなくてよかった」では進歩がない。捕る準備ができているか。

 松沼さんの言う「負けん気」は、ただがむしゃらに向かっていくだけのことではない。本気で勝ちたいと思ったら、準備が必要だ。そこを問うているのだ。

 余談だが、1979年には新人王を獲得し、6度の2桁勝利で通算112勝を挙げている松沼さんですら、現役時代は「常に(ローテーションの)6番目だと思っていた」と言う。東尾修、工藤公康、渡辺久信、郭泰源と、名だたるエースたちと現役時代を共にしたせいもあろうが、それでも6番目とは驚きだ。

「マウンドに上がったらそんなことは思わないけど、普段は『6番目。一歩間違えたらファーム』と思っていた。常に危機感。実際に根本監督、森監督の時は『何かあれば代える』と言われていたし。だからマウンドに上がるのが嫌で嫌で。ガタガタ震えながらマウンドに上がっていたよ」と笑いながら明かす。

 それでも「仕事だ」と思って、練習をし、準備をして試合に挑む。プロ野球選手とは過酷なものだが、その過酷さに向き合い続ける人だけが輝ける舞台だからこそ、我々ファンは心を動かされるのだろう。

 今年のライオンズの戦いは、正直に言って物足りない。ここ数年強かったから余計にそう感じるのかもしれない。でも、そうじゃない。何かが違う。

 勝てないから応援しないかというと、ファンというのはそんな薄情なものではない。ないから、もどかしい。仮に負けるにしても、最後まで手に汗握っていたい。選手・チームの本気を感じる試合が見たいのだ。

 2018年10月21日、CSファイナルステージ第5戦、ライオンズはリーグ優勝を果たしながら、ホークスに敗れ、日本シリーズ進出を逃した。

 あの時の辻発彦監督の涙を、忘れた者はいないだろう。

 今負けて、泣けるか。泣けるほど悔しいと思えるか。

 我々ファンも敗戦に慣れるつもりはない。コロナ禍で娯楽が限られる中、野球を見られるシーズンも残りわずかなのだ。残る10月のひと月、ライオンズには最後までもがいて、戦い抜いてほしい。戦い抜いて、熱い試合を見せてほしい。そして、大きな声では言えないけれど、中継しない文化放送を後悔させてほしい。

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(黒川 麻希)

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