「セフレから恋人へのステップアップってかなり難しい」 “性こじらせ男女”を描いたマンガ家が考える“結婚観”

「セフレから恋人へのステップアップってかなり難しい」 “性こじらせ男女”を描いたマンガ家が考える“結婚観”

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「下請けの映像プロダクションで、連日残業が続いても手取り20万いかなかった」 『来世ではちゃんとします』の作者が“深夜のマンガ喫茶”で抱いた“反骨心” から続く

 ブラック映像制作会社で働く、性に奔放なこじらせ男女の日常をコミカルに描いたマンガ『 来世ではちゃんとします 』。ドラマはシーズン2まで放映され、大人気となっています。作者のいつまちゃんに、作品誕生の経緯や、セフレと恋人の違いについてお聞きしました。(全2回の2回目。 1回目 を読む)

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【マンガ『来世ではちゃんとします』を読む】  

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『 来世ではちゃんとします 』とは…

高円寺の映像プロダクション(株)スタジオデルタで働く5人は、性的にこじらせたメンバーばかり。5人のセフレがいる性依存系の大森桃江(27)、彼氏いない歴=年齢のアセクシャルでアロマンティック(他者に対して性的欲求も恋愛感情も抱かないセクシュアリティ)女子・高杉梅(27)、女性を情緒不安定にするメンヘラ培養沼・松田健(26)、トラウマから処女しか愛せないセカンド童貞・林勝(26)、風俗嬢にガチ恋愛中の檜山トヲル(29)。性に奔放な男女の日常の行方を描くコメディマンガ。

■漫画家にまさか自分がなれるとは

──マンガを描き始めたきっかけは「失恋」と「絶望」からだったそうですね。

いつまちゃん そうなんです。大学4年生の時に、付き合っていると思っていた男性に実は本命の彼女がいることがわかり、心が破壊されました。しかも就活もうまくいかず、焦りと絶望から半ばやけくそで卒業制作に失恋のルポマンガを描き始めたんですけど、これが結構おもしろく描けたんです。毎日ザワザワして眠れなかったのが、憑きものが取れたようにすとんと眠れるようになって。「これって、昔倫理の授業で習った“防衛機制”の中の“昇華”だよな」と思い、すごく心が軽くなりました。

 私は美大の油画専攻だったので、マンガが卒業制作として許されるのかどうか不安はあったんですけど、「心の叫びこそ私の表現したいものだ」と情熱のままに描きまくり、最後は立体展示にして仕上げました。評価はBでしたが、国立新美術館で開催された卒業制作展示ではかなり評判がよく、私の展示の前に人だかりができるくらいでした。それを見て、もしかしたら自分にはマンガの才能があるのかも…なんて思ったんですけど、「漫画家になろう」とは思いませんでしたね。漫画家は売れっ子タレントと一緒で、ごく限られた人だけ仕事に出来ると思っていたので、まさか自分がなれるとは、考えてもいませんでした。

■終電で帰る日も根性で一日一作描いて投稿して…

──でも、就職してからもマンガは描き続けていらしたのですよね。

いつまちゃん そうですね…。就活がボロボロだった悔しさもあって「私にも何か光るものがあるはずなのに!!!」と反骨心で毎日描いてましたね。漫画家になりたくて…というよりは一人でも多くの誰かに私の作品を知って欲しかったのかも。

 仕事から終電で帰る日も根性で一日一作描いて投稿して…でもイイネが数件つけば良い方で…鍵垢自分で4つくらい作ってセルフいいねしてた時もありました(笑)。そんなガムシャラな日々を半年ほど続けてたら、「セフレちゃん」がバズってくれてフォロワーが急増し、今の担当編集さんからオファーを受けて連載につながりました。当時無名だった私にくださった、誰かのいいねとリツイートのおかげで今があります。初めて作品がバズったときの感動は今でも忘れません。

■YouTubeは多種多様な経験談の宝庫

──恋愛マンガではなく、映像制作会社を舞台にした理由は?

いつまちゃん 最初期の構想では風俗嬢の心ちゃんを主人公にして、女性心理を描こうと思っていたんです。取材もたくさんさせていただいたのですが、双子の妹から、「あんたは想像で描くよりも、自分が体験したことと見聞きしたことから着想を得て描くほうが向いている」とアドバイスをもらい、自分が働いていた映像制作会社を舞台にストーリーを組み立てることにしました。私の漫画家デビューを決めた天啓とも言える一言だったので、この言葉は作品にも違う形で出てきます。

──現場取材もされているのですか?

いつまちゃん たまに現場取材もしていますが、YouTubeも参考になりますね。多種多様な経験談の宝庫なので。

 たとえば最近、松田くんの元カノの華ちゃんがパリ留学から帰ってくる話を描いたんですけど、YouTubeを開けば実際にフランスに留学している学生たちが「言葉をオブラートに包む文化がないから最初は傷ついた」とか「効果的だった言語の学習方法」とか「コロナ禍での帰国の大変さ」など、貴重な体験を自分の言葉で発信してくれてるんですよ。友達のお土産話を聞くような気持ちで異国の空気感を感じて「華ちゃんだったらどんな経験をしてきただろう…」とオリジナルストーリーを新たに考えましたね。

■「頑張った自分」は何にも代えられない一生ものの誇り

──マンガの連載が長期化し、ドラマも大人気でした。マンガを描き始めた頃と比べ、ご自身の中で何か変化はありましたか?

いつまちゃん 変化しましたね、自分に自信が持てるようになりました。経済面も安定しましたし、自己肯定感が育まれたおかげで恋愛面でも相手に振り回されなくなりました。昔は卑屈すぎて「若い女じゃなくなったら私になんの価値があるんだろう…」と歳をとることを恐れてましたが、今は全然ですね。「20代のうちに2回もドラマ化できた!悔いなし!30代も頑張るぞー?」と朗らかな気持ちです。もし以前の私と同じように自分に自信が持てなくて苦しんでいる方がいるなら、なんでも良いので少しずつ自分の自己実現欲求を叶えてあげるのがおすすめです。努力はしんどい行為ですが、結果はどうであれ「頑張った自分」は何にも代えられない一生ものの誇りになり、生きやすさを授けてくれますよ。

──好みの分かれる作品なので、アンチもいらっしゃるのでは……?

いつまちゃん いますね。初めて複数人から中傷を書き込みされた時はショックで寝込みました。アンチスレとか最初できたときは気になっていちいちチェックしていたんですけど、苦しいだけで得るものが何ひとつないので、見なくなりました。でも最近妹が見たみたいで「なんか見てて元気出た」と笑ってて、それが意味わかんなすぎて私も笑っちゃいました。

■悪質なパクリ広告の被害も

 今でもエゴサーチはやめられなくてたまに否定的な意見を見つけると心臓がヒュッてなるくらい傷ついちゃうんですけど、生きていたら傷つかないことはないので、傷ついてしまったことを悩んだり考えたりするのではなく、「グサッとくるものだ」と受け止め、「ああ傷ついた」で終えるようにしています。

──アンチスレが立ってしまうのはそれだけ注目されているからともいえます。先日は『来世ちゃん』のマンガとドラマの内容を剽窃した悪質な広告動画についても、Twitterで報告されていました。

いつまちゃん そのYouTube広告は『来世ちゃん』を知ってる方なら誰が見ても明らかな原作の模倣とドラマ版のセリフの引用をしておきながら、主役にあたるキャラを勝手に太らせた上で意中の相手からの罵倒を受け商品PRにつなげる…といった悪質なオリジナル要素を加えたものでした。

 半年かけてようやく、広告動画を制作した会社の代表者に経緯説明と謝罪をしていただきました。「パクられるのは人気の証」とも言われますが、作品は作家にとって子どもであり、命です。私と編集部が声をあげたことで、巷に流れる悪質なパクリ広告の再発防止に少しでもつながれば嬉しいです。

■自分を愛してくれる人を好きになることから

──作品の話に戻りますが、桃江ちゃんのように、恋人にしてほしい相手からセフレとしか思われていない場合、どうすればいいのでしょうか。

いつまちゃん 適切な攻略法があったら来世ちゃんは一巻で終わってますよ(笑)! 喉から手がでるほど100億円がほしくとも難しいのと同じで。世の中には手に入らないものの方が多いです。

 セフレにもいろんなパターンがありますが、相手に「こいつは恋人じゃなくてセフレでいいや」と思われてしまってる現状からのステップアップってかなり厳しいので、「いえーい恋人にしたいくらい好みのイケメン(美女)とセックスできてハッピー!!」くらいの気持ちでいた方が気持ちも楽ですし、勝率も上がると思います。ネガティブな感情で追われると人は逃げたくなるものです。

 でもセフレやってるのが楽しいならいいですけど、現状が辛い、いつか誰かと落ち着きたいと思ってるならもっと相性の良い人探した方が早いです。今は脳がバグってセフレに執着してるだけできっともっと良い人大切にしてくれる人はいます。自分を愛してくれる人を好きになることから始めましょう。しかしながらどうしてもその彼(彼女)が諦められないなら、それも良いと思いますよ。今の自分がだめなら綺麗になってキャリアップして生まれ変わった自分で攻めればよいだけです。自分のステータスが上がる頃には、相手への執着心が萎えてしまいもっと良い相手と!ってパターンも多いですよ。

■本当にはっきりさせたい時のために結婚があるのかな

──結局、セフレと恋人の違いってどこにあると思われますか?

いつまちゃん 作中で桃ちゃんも付き合いたての彼氏と過去のセフレを比較して、同じようなことを悩んでましたね。人によって定義は変わってくると思うんですけど、私も桃ちゃんと同じで、自分と相手がお互いどう思っているかだと思います。自分が相手を恋人だと思っていても、相手が遊び相手だと思っていたら、周りから見たら「遊ばれている」「ほんとはセフレなのにね、あの子」と思われますよね。

 でも、「自分がこの人と付き合っている」とお互いが思っているとしたら、もしもほかに何人かセフレがいてもその2人は付き合っているってことになりませんか? だからお互いがお互いをパートナーとして尊重している状態が恋人という状態なのではないかと思います。

 その上で、本当にはっきりさせたいとき、共に責任を分かち合い支え合うときのために結婚があるのかなと思います。「私って本当にあなたにとっての生涯のパートナーだよね」というのを書面で契約できますし、日本で重婚は認められていないので、確実ですよね。別に結婚はしてもしなくても幸せになれますけど、結婚という定義のおかげでお互いが本当のパートナーだということを証明できると考えたら、結婚っていい制度じゃないかなと思います。一刻も早く、性別にとらわれずに結婚が認められてほしいですね。

──いつまちゃん先生にとって、幸せのゴールは結婚ですか?

いつまちゃん 結婚は幸せのゴールじゃないですね。人生に豊かさをもたらす一要素かもしれませんが、好きな人と結婚しても絶対幸せになれるわけじゃないし、価値観のズレだったり育児で悩み苦しむことはいくらでもあると思います。

■苦しみ迷い成長していけたら

 私にとってのゴールってなんだろう。漠然としてますが今よりもっと強くなりたいですね。私には未だに、仕事がなくなったらどうしようと不安になったり、突発的に病的な散財をして焦ったり、自発的に不安要素を探して不幸でいたがってしまうクセがあるので、そういうつまらないクセがいつかなくせたらいいですね。でもそれをするにはもっと大きく何かが変わらないといけないので、そんなに焦らず…『来世ではちゃんとします』をこれから先何年も描き続けて、キャラクターたちや読者の方々と共にわたしも苦しみ迷い成長していけたらいいなって思います。

(取材・構成:相澤洋美、撮影:杉山秀樹/文藝春秋)

【マンガ】「フラれた彼よりスペックの高い男と寝まくり、気が付けば27歳」 性依存症ぎみ、メンヘラ培養沼、セカンド童貞…性にこじれた男女の前向きな“日常” へ続く

(いつまちゃん)

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