スワローズの未来を託せるか 独立リーグ出身、育成ドラフト1位の岩田幸宏が見る夢

スワローズの未来を託せるか 独立リーグ出身、育成ドラフト1位の岩田幸宏が見る夢

ヤクルトとの契約後、会見に臨んだ育成ドラフト1位の岩田幸宏 ©HISATO

 初めてかぶったスワローズキャップのサイズは56。しかし普段は55cmだという。小顔。すらりとした体形で、スーツも板についているのは社会人の経験故か。

 東京ヤクルトスワローズ入団交渉後の記者会見で、岩田幸宏は自分のタオルと傘を手に持ち、「一員になれたかな」と喜びを表現した。

■目標とする選手は「青木宣親さん」。つば九郎に会えるのを待ちかねて

 目標とする選手は「青木宣親さん。バッティングの技術について聞いてみたい」。新人へのイジりが予想されるつば九郎については、「僕はいじられる方が合ってる」と会える日を楽しみにしている。

 東京ヤクルトスワローズから育成1位でドラフト指名を受けた岩田幸宏外野手(24歳)。東洋大姫路高卒業後、ミキハウス野球部を経てルートインBCリーグ信濃グランセローズに入団した。

 売りは走攻守の三拍子。「2年だけ」と決めた独立リーグで、2年目に花を咲かせ、夢を叶えた。

■独特のバッティングルーティン

 独特のバッティングルーティンがある。深い股割からゆっくりとバッターボックスの一番前へ。まずはくるりと投手に背を向けてしまう。ランナーを確認する仕草。二歩距離を取り、構える。打席でも頻繁に投手に背を向ける。

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「股関節を意識したいのと、焦って打席に入りたくないので。今はそうなりましたが、他にいい方法があれば変えていきます」

 こだわりではなく、それが岩田の自然体だ。

 兄と姉のいる末っ子で、BC信濃に入団したとき、同じく末っ子の飯島泰臣会長と広報スタッフからは、「末っ子倶楽部」入会認定を受けたという。

■末っ子気質でイジられ役

「いや……僕は入ったつもりはないんですけど(笑)。いじられてるだけです」

 そこが末っ子気質なのだろう。年上の人と接するのは「楽」らしい。人懐こさと元気なプレイスタイルで、ファンやスポンサー、地元メディアからも親しまれた。

 NPBドラフトで指名を受けた時は、電話で兄に「自慢の弟や」と初めて褒めてもらって胸を熱くした。「それが一番嬉しかったです」と破顔する。

 4つ上の兄の背中を見て育ってきた岩田に、兄は大きな存在だった。野球の上手い兄は高校で野球を辞めたが、弟は野球に打ち込む道を選ぶ。

 社会人ミキハウスに進んだ後、同僚だった山崎悠生(元BC群馬・BC信濃)さんに勧められてBCリーグの門を叩いた。NPBに行くためには、BCリーグでスカウトの目に留まるのが早道だと考えた。

 BCリーグの1年目、足が速い分「当てに行ってしまうバッティングだった」という岩田に、南渕時高野手総合コーチ(元ロッテほか)は、「振る」バッティングをイチから叩き込んだ。

■「自分が納得すれば言うことを聞く」

「バットを振るとはどういうことかを教えてもらいました。2年間こういう成績を残せたのはあの方のおかげです。疑問に思ったり、それをブチさんから言われて言い返すこともありますが、自分が納得すれば言うことを聞きます。言い返せる雰囲気を作ってくれるので。疑問に思ったことは何でも言えます」

 指揮官も当てにいくバッティングをすると、ヒットであっても交代させることがあった。三振しないためにはどうするか。足を生かして長打を打つためにはどうするか。全てが成長の糧だった。

■シーズン打率は1年目.350、2年目.357

 結果、1年目から.350という打率を残す。2年目の今季は打率.357、29盗塁。とくにシーズン終盤は“神がかり的”に打ちまくった。

 独立リーグというと、経済的・物質的な苦労というイメージが先に立つだろう。実際給与は少なく貰える期間も限られているが、具体的な待遇は球団ごとにまちまちだ。

「信濃はホームグラウンドがありますし、室内練習場もジムもある。野球に関しては自分は満足でした。経済面で苦しいということはありましたけど、そこを求めるなら社会人でもいい」

 食事もスポンサーである飲食店で、バランスよく食べさせてもらえた。そして、何より人に恵まれていた。

 同じBCリーグ神奈川の乾真大選手兼任コーチ(元日ハム・巨人)は、岩田にとって東洋大姫路高の大先輩にあたる。昨年のBCリーグチャンピオンシップ決勝では神奈川と信濃が戦った。その日先発完投した乾と対戦したことが、BCリーグでの大事な経験になった。

■元日ハム投手に「NPBに絶対に行ける」と太鼓判を押され

 そして尊敬する大先輩がコーチとして帯同する今年のBCリーグ選抜戦で、岩田は躍動した。プレーオフ終了直後の9月23日、ジャイアンツ球場での巨人三軍戦vsBCリーグ選抜戦。そこは12球団から39人もの編成・スカウトが集結するショーケースの場だった。

「人生初」という4番で先発出場した岩田は、第一打席からレフト前へ先制タイムリー。さらに盗塁と持ち味を発揮した。内野安打も見せ、3打数3安打1打点2盗塁とその日随一の活躍をスカウトに印象づけたのだ。

 乾コーチからも「絶対NPBに行ける」と太鼓判を押され「すごく自信になりました」と振り返る。

■ヤクルト原樹理との縁

 やはり東洋大姫路高の先輩であるヤクルト原樹理投手は、岩田とは4学年違うため、面識はない。ただ、自分が高校在学中、当時大学生の原が野球部に指導をしに来てくれたことがあったという。

「向こうは絶対僕のことは知らないと思います。でもすごく嬉しいし、心強いですね。(直接の先輩である)甲斐野央さん(ソフトバンク)に連絡した時には、甲斐野さんから『樹理さんに連絡しておくから』と言ってもらいました。後輩が行くからって」

 ヤクルトには赤羽由紘、松井聖という信濃グランセローズで昨年一緒にプレイした選手もいる。背番号も松井:022、赤羽:023、岩田:024と並びになった。

「一緒にやれて嬉しいという気持ちはありますが、外野の本職として負けるわけにはいきません」

■中山翔太・濱田太貴らと外野のポジションを争う

 今季のイースタンでは外野を守ることも多かった両選手だ。チーム内でポジションを争う外野手には右打ちが多く、足の速い並木秀尊、スラッガーの中山翔太・濱田太貴らがいる。

 左の外野手は少ないものの、ドラフト2位で明治大から丸山和郁が指名を受けた。俊足巧打と、岩田とは同じタイプの外野手だ。大卒で上位指名なら、順当にいけば一軍キャンプ行きだろう。当面は仮想ライバルになってきそうだ。

 ポジション、そして代走・守備固め・代打としてどれだけ自分の力を伸ばし、戦力になれるか。BCリーグで成長してきたバッティングはもちろん、一番の売りである足も、実はまだまだ発展途上だ。

■トレーナーからは「走り方が汚い」

「僕はトレーナー目線だと、走り方が汚いというか、無駄がある走り方らしいです。もっと速くなる走り方をして、足を強くします」

 BCリーガーからNPBドラフト指名を受けるのは、ほんの数名の狭き門。実力だけではなく、運やタイミングが必要だ。スカウトの目の前で結果を出すこと。そしてただ打つ、走るだけではなく、その伸びしろを示すこと。

 そうしてNPBに入団しても、毎年多くの独立リーグ出身選手が戦力外通告を受ける。それはヤクルトも例外ではない。事実、今季はBC石川出身、5年目の大村孟が戦力外となった。

■「結果を出せなければクビになるのは当然のこと」

 岩田は「結果を出せなければクビになるのは当然のこと」と怯まない。

「先のことを気にしても足元を掬われる。監督がいつも言っているんです。『その日のその一打席』を考える。毎試合毎試合。僕もそういうタイプです。その一日に集中して、それで結果が出ればいい」

 信濃自慢のスピードスターが、運と縁とを味方にして、夢見た場所へと駆け上がる。ここからが本当のスタートだ。

「多くの人に応援され、長く愛される選手になりたいです」

 快足、シュアな打撃、独特のルーティン。ファンに覚えられるのに時間はかからないだろう。

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(HISATO)

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