3カ月以上も単行本が品切れに…「不良」を描いた『東京卍リベンジャーズ』が漫画大国・フランスで大ヒットのワケ

3カ月以上も単行本が品切れに…「不良」を描いた『東京卍リベンジャーズ』が漫画大国・フランスで大ヒットのワケ

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 日本が生み出した文化である「マンガ」は、遠く離れたフランスの地で、今まさに黄金時代を迎えている。

  リサーチマーケティング会社の調査 によると、フランス国内における今年の1月から8月までの(日本式の)マンガの総売り上げは約276億円であり、これは昨年の同期間と比べると、実に2倍以上となっている。

■フランスで「日本式」マンガが売り上げ過半数を占めるように

 さて、フランスやその隣国のベルギーにおいては、「バンド・デシネ」と呼ばれる独自の漫画文化が存在してきた。バンド・デシネ由来の人気キャラクターとしては、タンタンやスマーフなどが日本でも知られている。

 このバンド・デシネに、日本式のマンガ、さらにマーベルなどに代表されるアメリカの「コミックス」を合わせたものが、一般に世界三大漫画文化として並び称されてきた。

 しかし近年、日本のマンガの人気は拡大する一方であり、この勢力図に変化が生じている。

 約30年前に日本のマンガがフランスに本格上陸して以来、ついに今年はじめて、同国におけるこれら3種の漫画の売り上げ総額の過半数を、(日本式の)マンガが占めるようになったのである。マンガはコミックスやバンド・デシネよりも販売価格が安いため、売り上げ冊数で比べると人気の差はさらに顕著である。

■国境を超える『東京卍リベンジャーズ』ブーム

 さて、フランスで空前のマンガブームが続く現在、特に脚光を浴びているのが、和久井健によって『週刊少年マガジン』に連載中の少年マンガ、『東京卍リベンジャーズ』である。

 これは主人公であるフリーター青年の花垣武道(はながきたけみち)が、かつての恋人が殺害されてしまうという運命を避けるために、中学時代に繰り返しタイムリープし、事件の元凶となる暴走族チームの中で成り上がっていくことで過去を変えていく物語である。

 日本においても、アニメ化や実写映画化をきっかけとしてこの作品の人気が爆発しており、マンガの累計発行部数が 4000万部を突破 したことが話題となった。

■フランスでは3カ月以上、複数の巻が品切れに

 フランスでも今年5月からアニメの配信プラットフォームであるクランチロール(Crunchyroll)上で同作品の配信が開始されて以来、その人気が拡大し続けている。

 現在のフランスでは、コロナ禍のあおりを受ける形で書籍の印刷に用いる用紙の高騰および不足が問題となっているが、そこにさらに『東京卍リベンジャーズ』のブームが重なることで、実に3カ月以上もの間、単行本の複数の巻で品切れ状態が続いた。『東京卍リベンジャーズ』の日本の公式アカウントのツイートからも、同作のフランスでの人気ぶりがうかがえる。 

 今年の夏ごろからはInstagramやTikTokなどのSNS上において、フランスのファンたちが『東京卍リベンジャーズ』のキャラクターのコスプレを楽しむ姿が目立ち始めた。フランスの若者たちが、日本固有のカウンターカルチャーである暴走族の特攻服をモチーフとした同作の衣装を着用してポーズを決める姿は、非常に新鮮である。


 一時はこうしたコスプレの衣装における「卍(まんじ)」のモチーフと、ナチス・ドイツが用いていた鈎十字(ハーケンクロイツ)が同一視されることで、SNSなどにおいては 論争が生じていた が、最終的にはこうした批判はアジアの仏教文化に対する無理解によるものであると結論付けられ、事態は沈静化している。

『東京卍リベンジャーズ』のフランスでの人気は、日ごろからコスプレを楽しんでいるような、いわゆる「マンガ/日本文化オタク」層のみにとどまらない。フランスで最も権威ある新聞の ル・モンド や、テレビのニュース専門チャンネルにおいても特集が組まれるなど、同作は大きな注目を浴びている。

 ところで『東京卍リベンジャーズ』は、SF的な要素やスタイリッシュなキャラクターデザインなどで知られると同時に、半世紀ほどの歴史をもつ日本の「不良(ヤンキー)マンガ」や、また「暴走族マンガ」の系譜の中に位置付けられる作品でもある。

 果たして日本から遠く離れたフランスの人びとの目に、日本の不良文化はどのように映っているのであろうか。

■「武士道」「禅」…理想化される日本文化

 前述したル・モンド紙ではこの夏、「 不良マンガの再来(Le retour des mangas ? fury? ?) 」というタイトルの特集が組まれた。この記事以外にも、インターネット上には日本の不良マンガというジャンルをフランス語で解説する記事や動画が複数存在している。

 それらを見てみると、物語に登場する不良や暴走族などは、ただ殴り合いの喧嘩によって問題を解決したり友情を深め合ったりしているだけでなく、独自の「道徳的な規範」に忠実であるということが強調されて説明されているケースが多い。こうした観点は、「武士道」や「禅」などの日本の精神性が理想化、もしくは誇大視されがちであるという、フランスにおける日本文化の消費のされ方と重なるところがあり、興味深い現象である。

 また、こうした不良マンガ(fury?)の紹介記事で例に挙げられることが最も多いのは、ともに2000年代の初頭にフランス語訳が出版された、『GTO』と『ろくでなしBLUES』である。

 特に前者はフランスの有料テレビチャンネルであるCanal+でアニメが放映されて以来、一定の人気を誇っており、そのことはPNLというフランスの超人気兄弟ラッパーが「Onizuka」という楽曲を2016年に公開したことからもうかがい知れる。

■ヒップホップと日本のアニメ文化、なぜ親和性が?

 わずか数年の間にフランスのヒップホップ・シーンをけん引する存在までになったPNLによるこの楽曲は、その名の通り『GTO』の主人公の鬼塚英吉(おにづかえいきち)をモチーフにしている。

 なお映画並みの予算をかけて撮影された、この曲を含むPNLの4曲のミュージック・ビデオをつなげると、フランス・パリ郊外の不良グループの抗争を描いた、一つのストーリーが完成する仕掛けになっている。

 それは『GTO』とは比べ物にならないほど陰鬱で出口の無い日々を送る移民の若者たちの姿であり、現実のフランス社会の格差や暴力の問題をかなり誇張しながらもうまく描いている。そこには決して鬼塚英吉や花垣武道のようなヒーローは現れないのである。


 ヒップホップに代表されるようなフランスのアーバン・カルチャーと、日本のマンガやアニメ文化の間に見られる親和性については、これまでも識者によってしばしば指摘されてきた。例えばマチュー・ピノンは著書『現代マンガ史(Histoires du manga moderne)』(2019)において、少年マンガにおいて見られるような「男らしさ」の文化が、フランスのヒップホップ文化に浸透していることを指摘している。

 フランスでは1990年頃、日本のアニメの暴力性や性的表現が若者に与える影響を危惧する声が高まり、多くの政治家を巻き込む形で、一定の規制が行われた。同様に、ヒップホップ文化に対してもまた、似たような論争が生じ、政治家がこれを問題視してきたことは注目に値する。

 その他にも、例えばフランスで最多の1600万人ものチャンネル登録者数を誇る、超人気YouTuberのスクイージー(Squeezie)がプロデュースするストリート・ウェアのブランドであるYOKO SHOPでは、以前から暴走族をモチーフとしたアイテムが販売されている。日本の不良文化は、遠く離れたフランスにおいて、日本の人びとの予期せぬ形で、アーバン・カルチャーやポピュラー・カルチャーに対する影響力を拡大している。

■不良マンガから「fury?」へ

 前述した ル・モンド紙の記事 の中では、『東京卍リベンジャーズ』の大ヒットによって、「不良」というキャラクター像がますますフランスで定着したことで、フランスの出版社が「不良マンガ」を発売することのハードルが下がっているという分析がなされている。実際、奥嶋ひろまさによる『異世界ヤンキー八王子』や、南勝久による『ザ・ファブル』など、不良マンガの影響が色濃いとされる作品のフランス語版の発売が相次いでいるようである。

 日本の「少年マンガ」を意味する言葉である「sh?nen」は、今やフランスにおいて広く知られる言葉となった。果たして日本の不良マンガも今後、「fury?」という一大ジャンルとして、フランスにしっかり根付いていくのであろうか。

 冒頭にも書いた通り、フランスにおいて日本のマンガは、かつてないほどの黄金時代を迎えている。日本が生んだ不良たちは、この時代の風をうけて、ますます躍進することができるのであろうか。

(山下 泰幸)

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