鳥飼茜「現実は厳しいよね、ということを徹底的に見せたい」

鳥飼茜「現実は厳しいよね、ということを徹底的に見せたい」

鳥飼茜さん

「依頼を受けた時、10代の女の子に“傷跡”を残す尖った雑誌を作りたいと編集者に言われたんです。そこで、いつもと描き方を変えてみました」

前略、前進の君 』は、10代女子向けのカルチャーファッション誌「Maybe!」で連載された。作者の鳥飼茜さんが言うように「鉛筆線」で描くことで、おしゃれでかつ、強いメッセージ性を持つ絵になった。

「普段、下書きをシャープペンでしているんです。前々から、シャープペンだけで描いた方が風合いが出るかな、と思っていた。あと、連載を3つも抱えていたので、ペン入れをしない方が早く上がるかな、とも思ったんです。これは目論見が外れて、倍の時間がかかりましたけど(笑)」

 1話完結で、毎回異なる主人公の少女の視点で描かれる。進路への違和感、恋、同調圧力への抵抗――10代の女の子が持つ衝動を、荒々しくも繊細な筆致で表現する。

「10代の頃、世間を知らない状態で、ふいに大人から傷つけられることがあります。その恐怖や違和感は、あとあと思い出して怒りに変わったりする。逆に若い体を賞賛されて、本人はそれが正当な評価だと思ったりもするんだけど、実は女の子を消費する社会がそこにあるんです。いま読んで分からなくてもいい。大人になった私から、現実は厳しいよね、ということを徹底的に見せたいと思いました」

■制服を脱いでからが本当の人生のスタート

 進路希望を書く際に教師に「制服を脱いでからが本当の人生のスタート」と言われ教室を飛び出してしまう、「普通」に憧れて売春してしまう――大人が読んでも、少女たちの行動には、胸を抉(えぐ)られる。

 ただ、女の子に向けたものだけで終わりたくなかったという。第5話「boys」は、男の子への羨望がテーマだ。

「高校時代の男の子たちは本当に自由に振舞っているように見えたんです。私自身、男の子に強烈に憧れがあったんですが、結界があるようで仲間に入れなかった。女子の立ち位置から、男の人のありのままの良さもきちんと描きたかった」

 代表作『 先生の白い嘘 』ではレイプをテーマに描き、フェミニスト代表のように扱われがちだという鳥飼さん。しかし、そういう意識はない。

「若い時に受けてしまった心の傷に対して、私にはわからないから、と言ってしまったら、その人は自分の個性や人格のせいだ、と思ってしまうと思うんです。あなたの個性は大事にする。でもふいに受けた悲しみの部分は、私たちで一緒に戦おう、というメッセージを込めたつもりです」

 おそらくそれは、10代の女子だけに向けた言葉ではない。内なる10代の傷を抱えた全ての人に、この作品は寄り添うという意味ではないだろうか。

「説教臭くならないようには気を付けました。表現には“かっこいい”という武器がある。構図や台詞選び含め、私が思う“かっこいい”を打ち出しました。それを読者が選んでくれたら嬉しいです」

とりかいあかね/1981年、大阪府生まれ。2004年、「別冊少女フレンドDXジュリエット」でデビュー。作品に『地獄のガールフレンド』『ロマンス暴風域』『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』など。19年、「ビッグコミックスピリッツ」8号(1月21日発売)より、新連載『サターンリターン』開始。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2018年12月20日号)

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