稲本、玉田、前田……なぜ日本サッカーの功労者たちは次々に「戦力外」となるのか

稲本、玉田、前田……なぜ日本サッカーの功労者たちは次々に「戦力外」となるのか

2015年から札幌でプレーした稲本潤一。今季は2試合出場にとどまった ©文藝春秋

 2018年シーズンが終わり、ベテランたちが次々とチーム退団を発表している。

 札幌の河合竜二(40歳)と稲本潤一(39歳)、FC東京の前田遼一(37歳)、名古屋では玉田圭司(38歳)、神戸の北本久仁衛(37歳)、セレッソ大阪から茂庭照幸(37歳)、福岡では駒野友一(37歳)、山瀬功治(37歳)、松本の岩間雄大(32歳)とまだまだチームを去るベテランが増えていきそうだ。

 名前をみれば日本サッカー界に貢献してきた選手ばかり。チームとの契約が満了になり、御役目ご苦労様ということなのだろう。彼らは一様に現役続行を表明している。

■試合に出場していても“戦力外”となる理由

 ベテラン選手が契約更新ができなかった理由は来季のチーム事情、選手個人のパフォーマンスの低下、怪我などいろいろある。その一方で、まっとうなチーム内の競争下に置かれることなく、無条件で試合出場のチャンスを失い、契約満了を迎えるケースもある。例えば、同じようなレベルのベテラン選手と若手選手とを並べた時、多くの指揮官は若手の伸び代や将来性に期待して若い選手を起用する。その傾向はとりわけ外国人監督に顕著だ。起用は監督の専権事項なので選手は文句を言えず、悶々としたままシーズンを終え、これではやめられないと思う選手が出るのは当然と言えば当然だ。契約満了にともない、指導者としての契約を打診されるケースも多いが、不完全燃焼ゆえに現役続行を求めているので、選手は退団を選択するしかない。

 試合に出場していても来季のチーム編成から漏れたり、あるいはこれ以上の結果を翌年は残せない、若手の育成のためにと判断されると契約満了になる。24試合3得点の玉田や29試合1得点の山瀬、今季34試合出場し、5年間で30試合以上出場した岩間はクラブ側のそういう判断なのだろう。クラブのチーム編成や世代交代でベテランを切らないといけないことはプロの世界ゆえに分かるが、選手との契約の「終らせ方」は非常に重要だ。

■「労いの言葉がなくてガッカリ」と玉田

 シーズン中盤から後半、チームに貢献した玉田は「あまりにも突然のことだったので頭を整理するのに少し時間がかかりました。契約しないと伝えられた時には労いの言葉がひとつもなかったのにガッカリしました」と、やるせない胸の内を語っている。こうした発言が出てしまうと、クラブの姿勢が問われることになる。クラブを一時期でも支えてくれたベテラン選手にリスペクトを欠いた対応をしてしまうと、既存の選手のモチベーションにかかわるし、今後、新しい選手を獲得する際に少なからぬ影響を及ぼすことになる。

「今は名前だけで生きていけない。ベテランはいつも試合に出れている場合はいいけど、ベンチにいると試合出場が不規則になりがち。コンディション調整が難しくなるけど、試合に出た時に違いを見せれば評価されるし、それを継続して存在価値を高めることが生き残る道かなと思う」

 来年1月に39歳になるガンバ大阪の遠藤保仁は、ベテランが生き残るための術を、そう語る。

 ベテランがチームに生き残れるのは遠藤のように監督に信頼され、その存在感がチーム内に及ぼす影響が大きく、結果でチームに貢献している場合だけだ。だが、これはベンチを温めることが多くなるベテランにとってはハードルが高く、厳しい。今回の玉田や山瀬のように「ある程度の活躍」では更新が難しくなっている。

■DAZNの参入がベテランの逆風に?

 また、DAZNの参入で理念強化配分金などクラブに新たな収入が増えたこともベテランへの逆風になっている。以前はチーム状態が厳しい時、ベテランに頼ってなんとか凌いでいたが、今年はシーズン中に若い選手を違約金を払ってでも獲得するようになった。FC岐阜から神戸に移籍した古橋亨梧、山口からガンバ大阪に移籍した小野瀬康介などがそうだ。この傾向は来シーズンもつづくだろう。そうなるとますますベテランの出番は少なくなる。

 さらに来シーズンからJ1では試合にエントリーできる外国人枠が5名に広がることになった(登録は無制限)。なお、Jリーグがリーグ間提携を結ぶ提携国(タイ、ベトナム、ミャンマー、シンガポール、カンボジア、インドネシア、マレーシア、カタール)の国籍の選手は外国人に含まれない。こういう流れもベテランが生きにくいリーグになってきている要因のひとつだ。(注1)

■稲本は「正直、やめる理由がない」

「まだまだできるのにやらずに終わるのは自分の中で納得できないし、まだ燃え尽きた感もないんで」と稲本はいう。ペトロヴィッチ監督は、レギュラーを固定し若さを基準として起用するので、その枠から漏れるとほぼノーチャンスになる。今回契約満了になった河合は出場試合ゼロ、稲本はわずか2試合しか出場していない。これではすぐにやめられないだろう。稲本は、「正直、やめる理由がない。新しいチームでは既存の選手と競って、試合で自分の力を出してチームに貢献したい」とやる気をたぎらせている。駒野も「まだ、サッカーをしていたいので」と現役への意欲を示し、他選手も同じ気持ちだ。

 さいわい、来シーズンはJ1、J2、J3ともに監督人事が動いている。特にJ2では長崎が手倉森誠監督、大宮は高木琢也監督、京都が中田一三監督、甲府は伊藤彰監督、岡山は有馬賢二監督が誕生し、柏はネルシーニョ監督、福岡はファビオ・ペッキア監督、東京ヴェルディはギャリ―・ジョン・ホワイト監督が新たに誕生し、ベテランが必要とされる可能性がある。

■ベテランの力を必要とするチームはまだある

 戦力が薄いところもチャンスがある。

 J1昇格組の大分は選手層が薄く、片野坂監督が欲する要素を持つ選手であればベテランでも必要とされるかもしれない。J1残留争いに苦しんだ鳥栖もまとめ役がいなかった。チームが窮地に陥った際には、ベテランの背中や言葉がチームをひとつにし、乗り越える力にもなる。神戸は残留争いに陥った終盤戦、ベテランの伊野波雅彦(33歳)に救われた。2連覇を達成した川崎の中村憲剛(38歳)、20冠を達成した鹿島の小笠原満男(39歳)、広島の青山敏弘(32歳)のようにベテランが元気なチームはしぶとく、強い。ベテランをうまく活かせるチームは大崩れせず、タフに戦えるということだ。

 今回、惜しくも契約満了になったベテラン選手は、少々条件や環境が悪くてもプレーを続けて欲しいと思う。好きなサッカーをやれて給料をもらえる環境はJリーグしかない。やめることは簡単だが、やめるともう現役には戻れない。科学的なトレーニングや身体のケアが発達し、今の30、40代は10年前のその世代とは異なる。来シーズン、「まだやれるぞ」とおっさんの存在価値を見せつけ、サッカーは年齢でするものではないことをピッチで証明してほしい。

(注1)来季J1の外国人枠変更の説明に関して、一部誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(12/17 19:15)

(佐藤 俊)

関連記事(外部サイト)