「最初は『これぐらいの嘘はいいか』と思っていたことが、しんどくなって」元筋肉アイドルの才木玲佳(29)が明かす、“筋肉卒業”を決意したワケ
2022年04月03日 12時00分 文春オンライン

才木玲佳さん
「太ももがコンプレックス。でも鍛えたら『太い』が褒め言葉になった」元筋肉アイドル・才木玲佳(29)が語る、筋トレでひっくり返った“価値観” から続く
勉強嫌いだった小学生が、「努力」一つで中高一貫校から慶應大学に進学。大学時代、周囲の反対を押し切ってアイドルになることを選んだ才木が、芸能界でぶち当たった年齢の壁。異能ひしめく芸能界で「自分には何もない」と痛感した才木を救った、伊集院光のメッセージ。
努力はいつか報われると本気で信じた人間だけがたどり着ける、筋肉アイドルという人生譚。?(全2回の2回/ 1回目 から読む)
◆ ◆ ◆??
――先ほど勉強も筋トレも同じというお話をされていましたが、勉強も好きでしたか??
才木 そうですね……私、ほんと地頭よくないんですよ。でも勉強はできる。それは努力したからです。大学受験もそうですし、クイズも勉強すれば伸びます。でも、ほんとうは頭は良くないんです。?
――そんなことないと思いますが……小さい頃から勉強するのは苦じゃなかったですか。?
才木 小学校までは苦でした。塾に行っても「玲佳ちゃん、宿題やってきなさい」「ちゃんと勉強しなさい」とめちゃ怒られてて。でも中学高校が一貫校で、お勉強学校だったんですよ。そういう環境に自分の身を置いたことで、変わりました。というか、ぐうたらな自分を変えたくて、お勉強学校を選んだというのもあったんですけど。?
――すごいですよね。中学生の時点で自ら厳しい環境に身を置いた。?
才木 今も私の周りには頭が良かったり、頭の回転が速かったり、すごいなと思う人がたくさんいます。全然追いつけてないんですよ。だから日々勉強頑張らないと、という感じですね。?
――「かわいいから勉強なんか頑張らなくてもいいよ」みたいなことを言われたことはないですか。?
才木 えーっ、ないかな。言われたとしても、「いやいやよくないよ」って思う。かわいいだけでは生きていけないですよ。そういう人もいるかもしれないけど(笑)。私は無理です。泥臭く頑張ってなんぼの人間だと思うので、自分は(笑)。?
■芸能界に遅く入ったのがコンプレックスだった
――「自分は泥臭く頑張ってなんぼ」と思い始めたのはいつくらい??
才木 この業界に入ってからかもしれないです。芸能界に入ったのが22歳と結構遅くて、そのことがコンプレックスだったんですよ。
芸能活動を始めたときの記憶で印象に残っているのは、事務所の同期の女の子。彼女はすでに6、7年活動していて、当時のマネージャーさんは彼女のことを売り出そうとしていたんです。武器のない私を売り出してもらうためにはどうするべきなのかを考えるようになったのは、その同期の存在が大きかったですね。?
友達や親戚から「慶應まで行ったのにもったいない」とか「いい企業に入って普通に働いた方がいいのに」とか言われるのも悔しかったし。遅かったから、その分頑張らなきゃいけなかった。
自分にできることはなんでもやろうと思ってました。どんな小さい仕事でもやりたい。いつでもどこでも自分が一番下という気持ちでやってます。?
――そう考えると、芸能界入りが遅かったのはむしろアドバンテージだったのではないですか。?
才木 たしかに、そうかもしれない。遅かったからこそ、その分ダッシュしなきゃ、遅れを取り戻さなきゃと頑張れたのかもしれないですね。良いことに気づかせていただきました(笑)。?
■社会のレールに乗っかることに反発した大学時代
――芸能人になろうと思ったのは、慶應大学時代ですか??
才木 そうです。大学の3年か4年か。周りは就活で、リクルートスーツ着て黒髪にしてという時に、私だけ茶髪にミニスカで。「玲佳どうすんの」ってめっちゃ言われてたんですけど。?
私は「いい大学に行っていい企業に就職して」みたいな社会のレールに乗っかっていくのがすごく嫌でした。もしこの会社に入りたい、この仕事をしたいというのがあれば、就職してたと思います。そう思える会社や仕事はなかったので、私がその時やりたいと思っていた芸能の道に進みました。?
――実際芸能界に入ってギャップを感じましたか。思い描いていたものとは違う……みたいな。?
才木 それは時々ありましたね。テレビの世界ってこういう感じなんだと。やっぱりテレビに出るためにちょっと作る部分もあります。?
――以前オアシズの光浦さんにインタビューした時に「芸能界は真剣に嘘をつくところ」とおっしゃってて、なるほどなって思いました。?
才木 そう、でも私はそれが心苦しくて。たとえば、好きな男性のタイプを聞かれた時に、筋肉キャラでやってたから、筋肉に寄せた回答をした方が面白いのかなと思ったし、普通に答えるとガッカリされることもあったので。それで「真面目な人」と答える代わりに「土曜日の朝からジムに行く人が好きです」と答えたり。
でも、最初は「これぐらいの嘘はいいか」と思っていたことが、年数を経るにつれてしんどくなってきてしまって。?
だから、今後は好きじゃないのに好きと言わなきゃいけないようなお仕事は、もう潔く断ろうと。どんな仕事でもやりたいという気持ちは変わりませんけど、自分の気持ちに嘘をつくというのはちょっと違うかなっていうのはあります。?
■ケガで落ち込んだ時に、伊集院光にかけられた言葉
――芸能界で、尊敬している先輩はいますか。?
才木 色んな仕事をさせていただいく中でお世話になった、伊集院光さんやカズレーザーさんですね。トップの方々ってほんとに謙虚ですし、仕事に対して真摯に真剣にやっているし。そういう人を間近でみると、ああすごいな、自分はまだまだだなと思うと同時に、やっぱり泥臭くやっていかなきゃいけないと思い知らされるんです。?
――尊敬する先輩の名前が、伊集院さんとカズレーザーさんというのも、才木さんらしいですね。なにかアドバイスをもらうことはありますか。?
才木 アドバイスということではないんですけど……以前、伊集院さんに言われたことがすごく心に残っていて。私がプロレスで怪我をして、お仕事も全部ストップしていた時期があったんですよ。
その時伊集院さんが、「才木の席は、空けてあるから急がずに」「才木の代わりが務まるやつはいない」といった嬉しいメッセージをくれたんです。さらに、「才木ちゃんのすごいところって、筋肉なんじゃなくて、なんでも頑張れるところなんだよ」とも言ってくれて、表面的なことではなく本質を見てくれてることに感動しました。
――「なんでも頑張れる」は芸能界で最も求められる才能なのではないかと思います。?
才木 私はチャレンジが好きなんです。裏を返せば1個のことをずっとやるのが苦手。よくいえば好奇心旺盛ということなんですけど。?
――できてしまうから飽きる、みたいなとこもありそうですよね。?
才木 それもあるかもしれない。でも、それなりにできるんだけど、トップにはなれないんですよ。
1番になれないのもずっとコンプレックスではあったんですけど、でもそれも発想の転換で、1個のことが極められないなら、色んなことができるというのを自分の強みにしようと。だから筋肉にとらわれず、プロレスやったりボディビルやったり、クイズにも挑戦してますし。?
――クイズも元々興味があったんですか。?
才木 受験勉強で勉強したことはクイズに出やすいので、ああ私もわかる、楽しいって思ったのがきっかけですね。あとはカズレーザーさんが主宰するクイズ練習会に誘ってもらって、そこでもっとのめり込んだという感じです。?
――カズレーザーさんとはどうやってクイズの勉強をされてるんですか。?
才木 最近は新型コロナの影響で集まれなくなってしまったんですけど、問題を自分で作って持ち寄ったり、みなさんが出してくれるのを早押ししたり。夜の7時から11時まで4時間みっちり早押しだけやる。その後飲みに行くんですけど、飲みに行った先でもずっとクイズの話してますね。みんなどんだけ好きなんだよと(笑)。???
■筋トレをやってない人だって、十分すごい
――何かに挑戦しようと思っても、年齢や環境や「できない理由」を見つけ出してやる前に諦めてしまう人は少なくないと思うんです。才木さんが自分の武器を捨ててまで、全く違うジャンルに挑戦しようとする、その行動力の理由ってなんでしょうか。?
才木 でもやっぱね、やりたければやって、やりたくなければやらなきゃいいんですよ。その判断でいいんじゃないでしょうか。?
たとえば筋トレをやるのはすごくいいです、おすすめです。でも根っこで「やりたくない」って思う人が筋トレやっても続かない。自分がやりたくないと思うならやらなくていいんですよ。?
――自分の本心とどれだけ向き合えるかですね。?
才木 筋トレやってる人がすごい、筋トレやってない人はすごくないというわけではない。その人はその人のすごいところがありますよね。逆に、みなさんは私が出来ない仕事をしているわけで。だからどこに目を向けるかだと思うんです。自分の良さを見つけてくれる人に出会えれば、一番いいですよね。?
悩んでいる人は、自分が信頼できる人や好きと思える人に「ねえ、私の良さって何だと思う?」って聞いてみるのもいいと思います。あとは人から褒められたことを思い出してみて。それがもしかしたら自分が一番になれることかもしれない。私の場合はそれが最初は筋肉でした。?
――才木さんは筋肉をどうするか悩まされているその間にも、ボディビルの大会に出られていましたよね。それで全国2位を収めている。?
才木 いや、それも周りの方々がいなかったら無理でした。ありがたいことに番組の密着がついてくださって、トレーナーさんだったり、食事をみてくださる方だったり、ポージングレッスンの先生だったり……色んな方が関わってくれたおかげで、自分がヘマしたらその人達の顔に泥を塗ることになる、と。
みんなが真剣に向き合ってくれてるんだから自分もやりきらなきゃ、という思いがあの時は強かったと思います。?
■ボディビルもプロレスも、結果を残したからやめられる
――ボディビルの大会で結果を出したことで、筋肉にも踏ん切りがついたのでしょうか。?
才木 そうなんですよ。プロレスをやってた時は脂肪があった方がスタミナになるし、クッションになるしって言い訳しながら、極力減量を避けてきたんです。でも、ボディビルに挑戦したことで今までに経験がないくらい身体を絞って、すっきりした部分はあります。ここまでやって、1個かたちには残ったから、筋肉も悔いなくやめられるなって。?
――プロレスについてもそういう気持ちですか??
才木 プロレスも……そうですね。正直、続けた方がいいんだろうと思う。今、女子プロレスって世界的にも人気ですし、ファンの人からも「またリングでの姿を見たいです」って言ってもらえて、その期待に応えたい気持ちもあるんですけど。
怪我をしたことで、プロレスにはトラウマがあるんです。また怪我をするんじゃないかという恐怖や、今は特にレギュラーで頂いているお仕事もあるので、芸能のお仕事に穴をあけてしまう恐れの両方がある。
でも、プロレスラーとしてチャンピオンベルトも何回も巻いたし、そこで結果を残したからやめられる。これが全部宙ぶらりんで中途半端だったら、きっと悔いが残るんじゃないかと思います。?
――最後にお伺いしたいのですが、才木さんが思う「アイドル」って、どんな存在ですか??
才木 アイドル……なんなんですかね。でも、私、自分がアイドルだと思ってやってなかったかもしれない。さっきの「肩書き問題」じゃないですけど、わかりやすく伝えるために「筋肉アイドル」って名乗っていただけで、別に形はなんでもいいかなって。?
アイドルは、そうだな、「自由」ですかね。本人が楽しいのが一番だと、本当にそう思います。だって毎日が楽しかったら、人生は絶対ハッピーライフじゃないですか。それの積み重ねだと思うんです。?
私のコンプレックスがチャームポイントになったように、嫌なことの裏にはたぶんいいこともなにか見つけられる。そう思えば辛かったことも全部無駄ではないと私は思うから。今が辛くても、きっとこれが未来のためになってると思って、乗り越えたらいいのかなと思います。?
写真=平松市聖/文藝春秋
(西澤 千央)
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